第4話 きゅうり・トマト
「皆、忙しいところ集まってくれて感謝する!」
サカモトの眼前には村人達の姿がある。
これでこの村の総員である。約500名だ。
この世界の人口が一体どれだけのものかわからないが、きっと多くはないであろう。
ほとんどは人族だが、ちらほらと獣人−−フィアのような−−の姿が見られる。
「今日からこの村の領主になった、サカモトだ! これまで君たちは空腹に耐え、今日という日を生きながらえるだけで精一杯だっただろう! しかし! そんな日々もこれまでだ! 俺が、君たちをこの飢えた環境から救いにきた!」
サカモトは村人500人に聞こえるように、腹の奥底から声を振り絞る。
「まず、君たちにはやって欲しい事がある! 皆は今まで畑を耕し、時には川へ、時には森へ行き狩りをしていたと思う! だが今日この時より、しばらくの間は畑に専念してもらうことになる!」
村人にどよめきがあがる。
村で穫れる小さなイモだけでは死んでしまう、という声も聞こえてくる。
だが、
「聞いてくれ! 君たちが今まで作っていた『イモ』はもう作らなくて良い! 俺が持ってきた『種』がある! これを使ってこれから村を潤すことを約束しよう!」
「なんと……」
「そんなことが出来るのか……」
「領主様……」
などと様々な声があがってくる。
しかしこれではモチベーションが上がらないだろう。
実物を食さない事には信じる事も出来ないだろう。
「そこで、まずはこれから育てる作物を村人全ての分用意した! 一度皆に食べてほしい! 今から列を作り、順番にここまで取りにきてくれ!」
皆がざわつく。
当たり前だろう。いきなり村人500人分の食材を用意する事なんてできるはずがないのだ。
だが、サカモトにはそれが出来た。
−−神に授かった『スキル』で。
サカモトは村人を集める前に『スキル』を使い、ジャガイモ−−男爵芋−−を全員分作っていた。
全員分のジャガイモと植える分の種芋を作るとなるとそこそこ広い範囲で作らなければならなかった。
そこで耕すところまではサカモトと村長の孫のシル、それと犬人のフィアの3人で行った。
耕し終わると2人には帰ってもらい『スキル』を使用した。
最初はこれを全部種植えするのかぁ……と脱力していると、
ポローンと音が鳴り、「スキル【種植え】を習得しました」とウィンドウに表示された。
【種植え】を使うと手元の種が消え、少し焦ったが土の中を見てみるとしっかり植えられていた。
相変わらず不思議な便利能力だとサカモトは感心した。
その次は【促進】を使った。
最初の使用でレベルが上がっており、一度目の【促進】より早く育てる事が出来た。
この【促進】は水やりを一切することなく育ちきった為、このスキルにはそういうものは度外視しているのだろうと検討をつける。
原理がわからないがとにかく便利。
そして、収穫も大量な為「あ〜、収穫もスキルでできないかな〜」と考えてると、
またもポローンと音が鳴り「スキル【収穫】を習得しました」と表示される。
早速使ってみると、目の前に大量の『男爵芋』が現れる。
神様のスキルには驚かされることばかりだ。これからこんなことがさらに増えるのだろうかと少し溜め息をつく。
思ったよりもかなり早く収穫まで出来てしまったため2人を呼び戻し厨房まで運ぶのを手伝ってもらった。
もちろん大量の『男爵芋』を見て2人は驚愕の表情を浮かべていた。
そりゃあそうだろう、俺でもびびるわと心の中で呟いた。
−−これを人数分茹でて大きい鍋にいれ、今に至る。
村長のヤン爺とシル、フィンにはあらかじめ食べてもらっていたため、『茹でイモ』を配膳する役に徹してもらった。
「はーい、3列に並んでねー! 押さないでねー!」
「受け取ったらすぐ横にずれて! 熱いうちに食べるのよ!」
シルとフィアは働き者だな〜2人共結婚してくれないかなー、
なんて考えながら目を細め、配っている姿を凝視する。
「な、なんだこれは! いつものイモと似ているが全然違うぞ!」
「ああ! こりゃあうまいぞ!」
「これが東の国の食べ物なのか〜すごいな〜」
「領主様ありがとうございます!!」
様々な声があがる。
いや〜ほんと嬉しいな〜。普段は作って売ったら終わりだけど、こうやって実際食べてくれるところを見ると全然違うわー。
ゆとりができたら店とか出してもいいかもな。うん、楽しそうだ。
「みんな、食べ終わっただろうか! これから畑を耕し、この『男爵芋』の種芋を植えてもらうことになる! これは育つまで2,3ヶ月ほどかかる! だがその間の食べ物は俺が皆に配布するので安心してほしい!」
皆の歓声があがる。
さすがに全て俺が作って渡すだけでは村の成長にはならないからな。ちゃんと作れるようになってもらいたい。
俺も色々試したいしな。
この後、育て方を教え種芋を渡して解散となった。
「フィア!」
「ひゃい!」
なんか反応がおかしい。
「あとシルと村長」
「はい!」
「なんじゃの?」
「ちょっと屋敷まで来てくれないか?」
4人で屋敷へと足を運ぶ。
「さっき『男爵芋』以外にもこれを作ったんだが、食べて見てくれるか?」
厨房にある冷たい水が入っている鍋からぶつぶつのついた細長い緑の棒と、つやつやと赤く光る丸いものを取り出す。
「なにこれ?」
フィアからの質問。
ええ、答えますとも。
「うむ! よくぞ聞いてくれた。これは『きゅうり』と『トマト』だ!」
「きゅうり?」
「とまと、とな?」
次はシルとヤン爺が口を揃える。
「ああ。これはさっき収穫したばかりなのだが、このまま食べてみてくれ」
「え?! このまま? 生で大丈夫なの?!」
フィアが鼻を近づけふんふんいっている。
そのまま俺をふんふんしてくれても、あ、なんかこっち睨んでない? 睨んでるよね?
「ああ大丈夫だ。食べてくれ」
3人が『きゅうり』を手に取る。
フィアはあいかわらずふんふんしているが無害だと思ってくれたらしい。
「「「ポリッ」」」
3つの心地いい音が部屋に響く。
「なにこれ! すごく瑞々しい! こんなに潤っているものは初めて!」
とフィア。
「私も! 『男爵芋』も美味しかったけどこれはひんやりしてて食感も心地いい!」
とシル。
「うむぅ。こんなに美味しいもの食べられる日が来るなんて思わなんだ……。して、そっちの『トマト』とやらも頂いても?」
ヤン爺は落ち着いているが早くそっちもくれと言わんばかりだ。
いいぞいいぞ。もっとお食べなさい。
「もちろんだ」
3人が同時にかぶりつく。
「んーーーーっ! 美味しーっ−−」
とフィア。
「甘くて酸っぱい!お日様の味がします」
とシル。
お日様食った事あんのかよ。
「なんじゃこれは、甘みと香りが口の中ではじけているようじゃ……儂はもう死んでも良い……」
なんかそのうち、ひ◯まろみたいに「◯◯の宝石箱や〜」なんて感想をいいそうだな。
まあ食べた事のないものばかりだから仕方ないけどな。
ちなみにトマトの中身がぐじゃぐじゃしているのは、動物が種を噛まずに飲み込み、違う土地で糞として排出しトマトという『種』の繁栄を築くためである。
「どうだ?うまいか?」
「「「美味しい」」」「です!」「のじゃ」
と食いついてくれる。
反応よくてお兄さんも食べさせがいがあるよ!
会社に勤めて後輩にご飯おごる気持ちってこんななのかな〜。
「そうか、良かったよ。これらもそのうち育てるつもりだ。3人には特別に試食してもらったがまだみんなには内緒だぞ?」
「「はい!」」
「わかったのじゃ」
いい返事です!
「じゃあ3人ともみんなを手伝ってきてくれ。俺もまだやりたい事たくさんあるからな」
3人とも満足そうな顔で屋敷を後にした。
ここでも問題なく育ってくれてよかった。
明日は少し休めそうだし、スキルを調べてみるか。