第33話 みかんのことと、鶏のことと。
『——コーケコッコーーッ』
鶏の鳴き声で目を覚ます。
これからしばらくはこれが目覚まし代わりになるなぁ……と思いつつ俺は覚醒する。
前日帰り道の馬車で寝たこともあってか目覚めの良い朝だった。
なんなら馬車睡眠による身体の痛みもだいぶとれ、ほぼ疲れはとれていた。
いつも通り早起きをし今日の予定を頭の中で整理する。
まずは昨日の遠征組のメンバー達には何か美味しいものでもあげたいから、それの準備をする。
その後それぞれの家に届けた後、建築士と今後の方針について話し合う。
設計図等が出来次第、着工に取りかかってもらう、と。
ここからは長期戦になるだろうから地道にやるしかないな。
今日大切なのはどんな設計をしてもらうかをじっくり話し合うことだ。
「っし! じゃあまずは遠征組への報酬からだな!」
外出の支度を済ませ『スキル』を使用する為に、屋敷裏へと足を運ぶ。
「オープンステータス! 『種創造』! 『みかん』!」
スキルを発動し、『促進』させ『収穫』まで一気に進める。
今回は作ったのは『みかん』の中でも『温州みかん』だ。
みんな大好きなこたつの中で食べているあれだ。有名なやつだ。皆が口を揃えて言うやつ。『みかん』だ。
『温州みかん』の中でも品種がいくつもあって、それぞれ味などの特徴の違いがある。
また収穫時期によっても大きく種類を分けることができ、『極早生温州』『早生温州』『中生温州』『晩生温州』となっている。
その中からまたさらに品種が分れているのだ。
ちなみにだけどみかんを剥いた後にある、皆が『薄皮』と言っている部分を『瓤嚢』と言うのが正式名称だ。中の実のことを『砂じょう』と呼ぶ。
あの『皮』を剥いて食べる派と食べない派に分かれると思うのだけど、基本的に『皮』ごと食べた方が栄養価が高く、下痢や冷え性に効果的なんです。女性の味方!
そして『みかん』は風邪に効く! って言ったりもするけど、確かに『温州みかん』には『シネフィリン』という風邪予防に良い成分が入っている。だけど、『オレンジ』には入っていないから覚えておこう。
『みかん』と『オレンジ』は似ているようで別の品種だから当たり前といえばそうなのだけれど。
「よし! これだけあれば十分か! 余った分は『みかんジュース』にするのも悪くないな……」
本来春であるこの時期には『ハウスみかん』でも無い限り収穫することは出来ないが、俺のチートスキルには関係のないことだ。はっはっはっ。
『みかん』を袋詰めにし、準備を終えると『鶏小屋』の様子を見てみることにする。
先日同様、そこには6羽の『鶏』が元気にしている。
ただ違うのは、『卵』の数が増えていたことだ。
「おぉ〜! 順調だなぁ! みんな頑張ってくれ〜!」
昨日俺が食べた分を差し引いて、合計8つの卵が巣箱に転がっていた。
仮にどこかで卵を頂戴したとしても10日もあれば孵卵させ始めるだろう。
そのまま水の交換と餌やりをして、『みかん』の詰まった袋を手にし屋敷を後にする。
その後一軒一軒家を訪問し『みかん』を配布して回った。
みんなまだ食べたことのない未知の食べ物だった為、一様に嬉々とした表情を浮かべていた。もちろん食べ方は教えておいた。
やっぱり楽ばっかりせずに自分の足で回って、手渡ししコミュニケーションを取ることは大切ですな。
少し時間はかかってしまったけど、一段落したので建築士達の元——荷馬車を停留させていた場所——へと向かう。
到着するとどうやらすでに資材を運び終えた後で、皆額に汗を浮かべながら休憩をしていた最中だった。
「みんな、お疲れ! 改めて自己紹介させてもらう。俺がこの村の領主サカモト・チサノだ。しばらくこの村に滞在してもらうことになるかと思うけど、よろしく頼む」
「「「よろしくお願いしやす!」」」
みな、呼吸を合わせ大きな声を上げて返事をしてくれる。
うん。さすがに元気がいい。良いことだ!
皆と軽い挨拶を済ませると1人の大男が一行の中から歩み寄ってくる。
「おーう旦那、俺がコイツらの頭やってるジンだ。よろしくなぁ!」
「あ、よろしくお願いします」
「旦那、これからのことで打ち合わせしたいんだが今いいかい?」
「あ、俺もちょうど話したかったんだ。……と、その前に皆にこれを」
二の腕が俺の2倍以上は間違いなくあるジンと名乗る大男が挨拶をしにやってきた。
だけど話をする前に先ほど配って回っていた『みかん』の残りをジンに差し出し皆に配るように促した。
少しでも美味しいものを食べれば、皆のやる気もきっと上がるだろうと考えていた。
「こりゃあなんだい旦那?」
「『みかん』っていう果物だよ。食べ方分かる?」
「いんや、全然」
もの珍しいものを見るかのように目を丸くしてソレを見ている。
まあ実際に珍しいのだろうけどね。
「じゃあ見ててな」
そういって黄色に染まる『皮』を剥いてみせ、2袋ほど取り出し『じょうのう』ごと口へ放り投げ咀嚼する。
「うまい!」
一言だけ感想を述べ、安全な食べ物だということを自らで証明し、袋からもう一つの『みかん』を取り出し大男に手渡した。
大男は『こうか?』と俺の真似をするかのように皮を剥き始め、同じく2袋ほど取り口へと運ぶ。
「こ、こりゃあ! 甘さの中に酸味があり、うまい具合にに調和している! そして何より瑞々しい! こんなもの今まで食べたこと無いぜ!」
「だろ? たくさんあるから皆に食べさせてあげてくれないかな?」
「おお、ありがてぇ旦那! 感謝する! おらお前達! 旦那が差し入れ持ってきてくれたぞ! めちゃくちゃうまいぞぉ!」
大男が声を張り皆を集めると見よう見まねで食べ始める。
「おら、ちゃんと旦那に礼言ってから食えよ!」
「「「ありがとうございやすっ!」」」
「食った5倍は働くぞお前達!」
「「「っス!!!!」」」
最初の挨拶と同じく大きな声で礼を叫び、「うめぇ、うめぇぞ!」と言いながらみかんを頬張っている。
「王都でもこんなうめぇもん食べられねぇのに、この村にはこんなうめぇもんがあるなんてびっくりだぜ旦那」
「そう? まあそう言ってもらえると嬉しいけど。流石に王都みたいにあんまり栄えた街ではないけど、ご飯くらいは美味しいものだすよ」
「いや、こんなうまいもん食えるなんて一生ないと思ってたからここに来て正解だな! ビシバシ働くからその分うめぇ飯よろしく頼むぜ旦那!」
「お、やる気出してくれた? こちらこそよろしく!」
どうやら美味しい物を食べれると理解したのか、かなりやる気を出してくれたみたいだ。これでwin-winの関係を築くことができただろうか。
「さて旦那ァ、そろそろ本題に入ろうか。今後の予定についてだが、どうしたいんだ?」
「ああ。同時進行になるんだけど『家』と『鶏舎』を建てて欲しいんだ」
「……けいしゃ? そりゃあ何だ?」
「うん。『鶏』っていう鳥達を育てる建物なんだけど、臭い対策として村から少し離れた場所に建ててほしいんだ。かなり広くなるから大変かもしれないけど……」
「ほう……。鳥の為の建物か。面白そうじゃねぇの。詳しく聞かせてくれや」
まず実際に『鶏』を見た方がイメージしやすいと思ったから、屋敷裏の『鶏小屋』まで案内し確認してもらう。
「なるほどな! これが『鶏』ってやつか。で、この『小屋』のでっかいやつを作ればいいのか」
「だいたいそんな感じかな。今回はこんな感じを想像してるんだけど……」
適当だけど、紙に手書きで大雑把に書き込んでいく。所謂、平面図を書いてみた。
建物をなんとなく書き、敷地に囲いを書き込む。正直絵はへたくそなので見るに耐えないと思う……。
「『鶏』はこの建物と敷地を自由に行き来出来るようにしたい。でもこの敷地からは外に出られないように柵を作って欲しいんだ」
「つまりこのでけぇ敷地全てを『鶏』の為の施設にする訳だな。んで、広さはどれくらいだ?」
「だいたい1haくらいかな」
「っ! まじかよ旦那! とんでもなく広いじゃあねぇか! ……まじか?」
「まじ。あ、建物だけで1haまるまる使うだけじゃないから」
「そ、そうか。そ、それならまあ大丈夫か……」
「あ、平行作業してほしいんだけど、出来るだけ『鶏舎』優先で仕上げてくれるとありがたいかな」
『鶏舎』と『家』の同時建設という中々ハードな作業をお願いしているのは重々承知だけど、もうガンガン頑張って頂きたい。まあ我が社はホワイト企業だから休暇も食べ物など不自由はさせないがね。
とりあえずの大まかな予定を伝えると大男は何やらブツブツ言いながら今後のスケジュールを思案しているようだ。
ちなみに1haというのは100m四方の土地の面積で、東京ドームは約4.7haである。東京ドームの広さ程はないけど、十分に広いと言えるだろう。
今回『鶏舎』を建てるといったが一つだけ建てればいい訳ではなく、卵から孵化させ雛達を育てる建物、排卵鶏専用の建物が必要だ。
あと雄だけのスペースも必要だし……。
この他にも今後どうなるか次第ではあるけれど、『ブロイラー』——食用の為の品種——と呼ばれる鶏を育てる場合は専用の鶏舎を建てる必要もでてくるだろう。
これに関してはスキルでそういう品種を召喚しなければ無理だろうけどね……。
ちなみにブロイラーというのは鶏卵の為の鶏や地鶏より早く成熟し、経済性を考えられ改良された品種である為生後約7.8週間で出荷される。
ブロイラーと聞くとあまり耳慣れない言葉だが、よくスーパーや精肉店では『若鶏』と呼ばれているものである。例外もあるけどブロイラー=若鶏というケースが多い。
実はブロイラーという品種については賛否両論あり、ネットで検索してみるとまじか……という可哀想な真実を目撃することになるかもしれないけれど、まあ今は置いておこう……。
だけど忘れてはいけない、こういう品種に俺たちの生活は支えられているということに……。だって安さは大切だしね……。
「まあ人手がたくさんいると思うから、言ってくれれば村の人達に声かけるから遠慮しないでね」
「わかったぜ。気遣いありがとよ旦那。ま、ちっとばかし時間はかかるかもしれねぇがこんなでも俺ら腕に自信はあっからよ。どんと任せてくれや」
この大柄な体躯で、自信に満ちた表情で『任せろ』と言われると安心しかしない。きっとこういう、人を安心させたり説得力のある人だからこそ『頭』を任せられるのだろう。
俺にはこんなガタイとかないから羨ましい……あ、でも王様に説得力あるって言われたような……ま、大丈夫か。
その後、鶏舎と住居の内装を大男と煮詰めその場を後にした——。




