第31話 領主の証。
俺の隣に立っている3人の少女達を、白髭を蓄えた老人に紹介する。
「まずはこっちの青銀の髪の子がシルです」
「お初にお目にかかります、シル・デロイドと申します」
「デロイド……デロイド? おお、もしやヤンダの孫か?」
「は、はい! 祖父をご存知で?」
「ああ、もちろんだとも。ヤンダにあの村を頼んだのは儂だからな……。この何十年の間、あやつにはとても辛い思いをさせてしまっただろう……やつは息災であるか?」
「は、はい! 今も元気にしております! 前までは色々と大変でしたが、今ではチサノ様のおかげで生き生きして暮らしています!」
「そうであったか……。しかしやつにこんな可愛らしい孫がいたとはな……。シルよ、帰ったらよろしくと伝えておいてくれんか?」
「わかりました! お任せください!」
どうやら王様とヤン爺は昔からの知り合いのようだ。
それにヤンダと口にする際、昔を思い出しているかのような、どこか懐かしげな眼をしていた。
もしかしたら友人……なのかも知れないな。
「次にこっちの犬人の子がフィアと言います。で、こっちが狐人のヘラです」
「フィアです。よろしくお願いします」
「ヘ、ヘラと申します……。私は王都より北東の村より移民してきました……。ど、どうぞよろしくお願いいたします」
2人の獣人の少女が耳をピクっとさせながら挨拶をする。
「ほほう、おぬしはこんな麗しい子達を3人も従えているのかな?」
王様が笑みを浮かべながら俺に話しかける。
「し、従えているなんてそんな……。ただ仲の良い友人ですよ?」
すぐ傍で『ただの友人……』と沈んだ声音で呟かれるがすぐに空中で霧散する。
「ほっほっほっ。そうかそうか。御主はまだ若いからな、もっと経験を積むと良い。……だが婚儀の際は儂も祝わせてもらうかのう」
この国の長が冗談めいた口調で嬉しいような怖いような言葉を放つ。
それと同時にどのフレーズかは分からないが3人の少女がピクっと反応したように感じた。どのフレーズなのかはわからないが。
「さて、世間話はこれくらいにしておこうか。チサノよ、どうやら儂の頼みは叶いそうだ。次は儂が御主の頼みを叶える番だな」
軽い口調を抑え、トーンを少し落とした声色で国王様が言う。
「資材と建築士達の準備は出来ておる。こちらでも荷馬車は用意してあるが資材はついては大量にあるから積みきれぬだろう。『じゃがいも』を運び終え次第資材を積むといい」
「ありがとうございます」
「しばらくの間、建築士達の衣食住は御主に任せてよいのだな?」
「もちろんです。こちらからお願いしていることなのでそれくらいはお任せください」
「そうか。なんだかこちらばかり良い条件のような気がしてすまんな」
「いえ、私にも利点は十分にありますのでご心配いりません」
王様には人手と資材を提供してもらうかわりに、こちらは数百人分の食糧の提供。そしていずれは何百もの移民を受け入れるということになっている。
確かに一見こちらの負担の方がとんでもなく大きい。だけど、長期スパンで考えるとそうでもない。最初は負担が大きいが、村の発展には重要なことになるからむしろこちらの益なることが大きいから全く問題ではないのだけれども。
「そういってくれると助かる。御主のおかげで見捨てるはずだった民達を救うことができるのだからな……。自分の不甲斐無さに腹が立つ……」
「差し出がましいかもしれませんが、陛下は最善の選択をされていたのではないでしょうか? 全てを救おうとしていれば、全てを失っていたかも知れません。それを最小限の犠牲に抑えることが出来たのですから、万々歳なのではないでしょうか」
実際、分け隔てなく全ての民に食糧を与えていては恐らく全滅していただろう。だからきっと最善なのだ。と俺は思うけど。
「はは。なぜだか分からぬが御主には妙な説得力があるな。そんな御主だからこそ周りには民達が信頼を置き、こんな可愛らしいお嬢さん達が集まったのかも知れんな。御主にはこれからも頼ることになるかもしれんが、頼りにしているぞ」
「痛み入るお言葉、光栄です。私に出来ることであればお力添えさせていただきます。……その代わりといってはなんですが、私が困った時もお助けいただけるとありがたいのですが……」
冗談めいた口調で言い放ちながら、ちらりと王様に視線を送ってみる。
「はっはっはっ。この儂にそんなことまで言うとはなあ! チサノ、御主はこの国の救世主と言っても過言ではない。 困ったときはいつでも来るといい。儂の力になれることであれば協力しようじゃないか」
「ありがとうございます!」
こんなにすんなり協力してくれるなん言葉を聞けるとは思わなかったんだけど……。
思ったより打ち解けてくれている、というか案外気さくな人なのかも知れないなぁ。その方が緊張しなくて済むから嬉しいけど。
「そうだ。御主にはこれを渡しておこう」
「なんでしょう?」
そう言って銀色に輝く丸い物を受け取る。
その表面には素人の俺にでも分かるくらい立派で精巧なレリーフが象られていた。
「王家に認められた者に与えられる銀時計だ」
「っ!! 陛下、そんな希少な物を私が頂いても??」
「よい。感謝の気持ちと、領主就任祝いだと思っていなさい」
確かに良く見ると王城内部にも刻まれていた紋様と同じ紋様をしている。
「この国ではこれを見せれば融通が利く。何かあったら使うが良い。授与式でもできれば良かったのだが、一刻も早く食糧を送りたいのでな……すまぬ」
「とんでもございません! ありがとうございます! 大切に使わせていただきます!」
めちゃ嬉しい。なんかめちゃオシャレだしかっこいい……!
鋼の◯金術士に出てくるやつみたい!! これは本当に大切に使いたい!
俺の二つ名は何かな!? …………『農業』だろうな……。格好良くはない。うん。
「さて、儂はそろそろ城に戻るとしよう。何かあれば村まで使いを寄越そう」
「かしこまりました! それでは!」
白髭をさわさわしながら老人が城へと足を運んで行く。
「はーやっぱまだ少し緊張するなぁ……。まさかこんな所まで出てくる人とは思わなかった……」
「ちょっとチサノ! すごいじゃない! 国王様とあんなにお話するなんて!」
「そうですチサノさん! かっこよかったです!!」
フィアとヘラが目を輝かせながら賞讃してくる。
「そ、そんなことないよ! ただ話してただけだし……」
「私のおじいちゃんとも見知った感じでしたね! どんな繋がりなのか気になりますが……それよりも! その銀時計格好良いですね!」
「だよなぁ〜! そう思うよな! あげないからな!」
「くれなくてもいいから見せて!」
シルが銀時計を褒め始め、フィアが見たがる。
壊されたらたまらないので、そろそろ『じゃがいも』が全て運び出されるとかなんとか言いながら荷馬車へと戻った——。




