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第29話 王都遠征、そしてレーズンパン。

 




「皆集まってくれてありがとう! 今日は王都までよろしく頼む!」



 眼前には今日の為に集まってくれた人達と、たくさんの『じゃがいも』が積まれた荷馬車が何台も並んでいる。


 その中でもよく見知っているメンバーのシル・フィア・ヘラ・ダンテ・アルフの5人もいる。

 ヘラだけは御者はできないが、他の4人にはそれぞれ御者をやってもらうことになっている。



「それでェ、今日の予定は『じゃがいも』を渡して代わりに建築士達と資材を受け取る。ッてぇことでいいんだよなァ?」


「ああ、そうだ。それで受け取り次第すぐに村に帰る。だから夜までには帰れるだろう」


「わかったァ。じゃァさっさと行くとしようぜェ」



 ダンテが今日の予定を確認してくれる。

 やることとしては前回のように交渉などは特にないので別段何も難しくなく、1日あれば済むことだ。


 確認後は皆それぞれの荷馬車へ乗り込む。


 俺は今回もアルフの荷馬車へ乗り込むことにした。


 御者の違いでどこまで乗り心地が変わるのかはわからないけど、アルフの操縦は非常に安定感があった。

 それになんとなくダンテの操縦は荒そうなイメージがある……。あくまでもイメージだから……ごめんダンテ……。


 俺はアルフの荷馬車に乗り込もうとするが、後ろで狐人(ソーロ)の少女がきょろきょろしていた。



「ん? ヘラも早く乗りなよ」


「え、一緒に乗ってもいいんですか……?」


「もちろんだよ……あ、フィアとかシルの所に乗りたかった?」


「い、いえ! チサノさんと一緒がいいですっ!」


「そ、そう? じゃあ乗ろうか」



 ヘラと一緒に荷馬車に乗り込むとアルフが話しかけてきた。



「ちょっとチサノさん、僕もいるんですから惚気(のろけ)るのは勘弁してくださいよ」


「は? 何言ってんだよアルフ。惚気ってなんだよ……?」


「そ、そうですよ! 変なこと言わないでください!」



 俺達は否定する。

 まあヘラとそんな風に捉えられるのはまんざらじゃないけどね!



「そうですか〜? 僕の目からはそう見えますけどねぇ。それにヘラさんだけじゃなくてフィアさんやシルさんともかなり仲睦まじく見えますけどねぇ」


「いやいやいや、そんなことないから! 全然普通だからね?!」



 アルフが何を思っているのか変なことを言い始めた。しかもにやにやしながらだ。


 ちょっと面白がってるなこのやろう……。



「特に他意はないんですけどねぇ。でもヘラさんもまんざらじゃないんじゃないですか?」


「わっ、私ですか?! そ、そんなことはな……くはないこともないようなあるような……」


「おいアルフあんまりヘラをイジるなよ。イジりたくなる気持ちは分からんでもないけど、早く出発しようぜ。俺らが出発しないと皆行けないんだから」


「そうですね、すみませんでした。では行きますね」



 先頭馬車の御者であるアルフに荷馬車を出すように催促し村を出発した。


 ……にしてもそんな仲いい感じに見えるのかなぁ? 冬の『記憶喪失鍋会事件』があったり、なんだかんだ皆との距離は結構近くなっているとは思うけど……密接とまではいってないと思うんだけどなぁ。


 しかしながら、前世では女の子との接点が多い方ではなかったから今までしてきた対応が正解なのかどうか自分では全く分からない……。

 女の子って難しいよね……。


 とか考えているとヘラがごそごそと何かを取り出し始めた。



「どうかしたのか?」


「私まだお昼ご飯を食べていなくて……これを食べようかと思っていたんです……」



 そういい取り出したのは『パン』だった。

 丸く形成され、香ばしい香りを漂わせている。



「おお。そのパンはヘラが作ったの?」


「はい! フィアに作り方を教えてもらったんです!」



 以前フィアに教えたパンの作り方だったが、それを教えてもらったらしい。

 どうやらフィアはいつの間にか人に教えられるレベルにまで達しているようだ。


 フィアに最初教えた時はやや苦戦したようにも感じたけど、練習していたらしくいつの間にか上達していた。


 地道に練習すれば誰だってうまくなれるということだな……。



「中々うまそうだな……結構練習したんじゃないのか?」


「最初は何度か失敗しました……でもコツを掴んだのでもう大丈夫です! よ、よかったらチサノさんも食べますか?」


「え、いいの? でもヘラのお昼ご飯でしょ?」


「大丈夫です! 元々チサノさんの分も作ってきたので……」


「そ、そう? それじゃあ貰おうかな」



 まさか俺の分まで作ってくれているなんて。感激……。

 そのうちお弁当も作ってくれないかな……。

 いや、贅沢は言うまい。女の人に食べ物を作ってもらうことなんて家族以外はあまりないことだ。


 そう思いながらヘラからパンを受け取り口へと運ぶ。



「はむっ。もぐもぐ……」


「ど、どうですか……?」


「うまい! ていうかレーズン入ってんじゃん!」


「そうなんです! チサノさんに分けてもらったレーズンを入れてみたんです! これは自分でも中々の出来だと思ってます!」


「うん! うまい! でも『レーズンパン』なんて教えてないのによく思いついたね」


「はい! パンとレーズンを一緒に食べていたんですが、すごく『合う』なぁって思って、混ぜたらいいんじゃないかなって! ……意外と難しくて何回か失敗しちゃいましたが……」



 過去の失敗を思い出し狐耳を少し垂れさせている。はい可愛い。



「なるほど。砂糖が無いから今までのパンには甘みが無かった。でもこれならレーズンのおかげで甘みを感じることができる……」


「さ、砂糖? よくわからないですけど、美味しいなら何よりですっ! たくさん食べてくださいね!」


「お、おう! ありがとな!」



『レーズンパン』を食べながら王都へと向かう。

 途中聞き耳を立てていたアルフがちらちらとこちらを見てくるので、なんだか可哀想になりヘラに許可をとってパンを分けてあげた。

 まるで朝遅刻して大急ぎで食パンを口に入れて走りながら食べる人、のように器用に口だけでパンを挟みながら手綱を引いていた。



 ちなみにだが、実は以前『葡萄(ぶどう)』の『デラウェア』を作った際、レーズンもついでに作っておいたのだ。


 基本的に市販のレーズンしか食べない人が多いと思うけど、実は作るのは意外と簡単で『天日干し』にすればできちゃうのだ。

 まあ『オーブン』さえあればもっと簡単に早く完成するのだけれど、そんなものないから天日干し1択だったけどな……。


 このようにレーズンは大量に作っておいたやつがあったんだけど、それをヘラに分けておいたのだ。


 ちなみに『果樹園』ではまだ収穫できるまでにはなっていない。

『果樹園』を設置したのは去年の6月頃だったけど、現在はまだ4月だ。まだもう少し時間をかけようと思っている。

 一応夏くらいを目処に【促進】スキルを使い成長させているのである。



「パン作り楽しい?」


「はい!」


「じゃあ今度他のパンも作ってみる?」


「他のパン、ですか?」


「うん。例えば、『カレーパン』とかさ」


「カレー……。っ! 盲点でした! 確かによくパンをカレーにつけて食べていました……!」


「だろ? 美味しいのは分かってるんだけど、パンにしても美味しいんだぞ」


「わ、私としたことが……カレーを見逃していたなんて……。で、でも生地にカレーを混ぜるのでしょうか……いやそれだとうまく作れるのでしょうか……?」


「あー、『カレーパン』はカレーを混ぜるんじゃなくて、カレーを生地で包み込むんだよ」


「なるほど! それなら問題なく作れますね!」


「だろ? 色々と落ち着いたらフィアとシルも呼んで『カレーパン』作りでもやるか」


「そ、そうですよね。フィアとシルも一緒ですよね……」



 なんかよくわからないが、今日のヘラは感情の起伏が激しいな。


 あとは研究熱心なのか、それとも食への追求なのか分からないがレシピの考案に励んでいるようだ。




 そして質問事項が一気にできたのか王都への道のりの間ずっと質問攻めで、『ずっと俺のターン!』ばりのヘラに俺は体力を奪われるのであった——。





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