第2話 やっぱ最初はじゃがいもだよな
農畜産業をやっていた俺は朝が早い。
時計を見ると、まだ6時だ。以前はもっと早かったから久しぶりに良く寝たな。
そう思い窓から外を眺めていたが、天気も良いし外に出る。
「ふぁ〜! 外は気ぃ持ちいいなあ〜」
黒い影がこちらにやってくる。
ヤン爺だろうか、来るって言ってたし。
「ヤン爺ー。おはようございまーす!」
少し離れているが声をかける。
しかしだんだん影が近づいてくるが、それは1人ではなかった。
2人? ヤン爺じゃないのかな……。
ちょっと、全然違う人だったら恥ずかしいじゃん。何も無いところで躓いたけど、躓いてないふりするくらい!
とか考えて屋敷の前で待っていると影の正体が判明した。
少女だ。
美少女だ。
しかも2人共。
どどど、どういうことだ。 まだ何もフラグなんて立てていないのに!
「お、おはようございます! 初めまして、私はシル・デロイドといいます」
「は、はじめまいっ……」
あ痛てっ、舌噛んじゃった。
久しぶりの−−しかも美少女と会話をするなんていつぶりなのだろうか。
中学の時クラスの人気者、佐藤さんに消しゴムを拾ってもらった時以来だ。
そりゃ噛んでも仕方ないようん。
気を取り直して、
「初めまして、サカモトです。君たちはどうしてここに?」
「私達、村長に領主様の屋敷の掃除をするようにと言われ、ここへ来ました」
なるほど、この子達が村長から掃除を任命されてきたのか。
ヤン爺ありがとう。神感謝。
「こっちがフィアです」
「よろしく」
フィアを名乗る女の子が少しぶっきらぼうに挨拶する。
一言で特徴を言うとしたらば、もふもふ。
つまりけも耳だ。リアルけも耳。本物だよな。さ、触りたい。
これは犬……だろうか。
「あ、ああ。よろしく。あの、君は犬、族なのかな?」
「そうですけど、何か文句でもあるんですか?」
おお、ちょっと強気だ。きっとこの感じはツンデレに化ける。間違いない。
大切にしよう。
「い、いやー初めてみるからちょっと新鮮でね……」
少ししどろもどろになるがこればかりはしょうがない。
耳と、あと尻尾を生やしている女の子と話をしたことなんてないんだし。
ちなみに髪はベージュが主だ。
「フィアだめだよ! 領主様にそんな言い方!」
「だって……」
シルは大人しい感じだがいざという時は発言できるって感じだ。
フィアは後半何か言ったようだが聞き取れなかった。可愛い。許す。
「全然大丈夫だよ。あとあんまりかしこまらなくて良いよ。俺の事はサカモトでいいから」
「わかりました!」
「分かった……よろしく」
シルは元気に、フィアはそっぽを向いて挨拶する。
ちなみにシルの髪は薄い青銀だ。日本でこんな髪色してたら間違いなくただのコスプレだが、異世界人だからか自然である。
いきなりハーレムルートかも知れないな。正直美少女ゲームはあまりやらないから自身はないけど。
「では、屋敷の掃除に取りかかりますね!」
「ああ、ではよろしく頼む」
「サカモト様はその間どうしますか?」
「ちょっとやりたい事があるから、終わったら呼びに来てくれ。この辺にいると思うよ」
「分かりました。ではまた後ほど」
2人と別れ屋敷を後にする。
まずは畑を見たいな。
「お、あったあった」
畑は村の至る所にあるようだ。
そして見つけた中からイモらしきものを手に取る。
「これがこの村のイモ…か」
手に取ったイモは日本のジャガイモよりとても小粒だった。
スーパーでじゃがいもを選ぶとき色んな大きさがあるが、その中の一番小さいやつにも劣っている大きさだ。
「イモの種類なのか土が悪いのか……」
村の畑をいくつか見て歩いたが、どこも同じ感じだな。
それにイモ以外は作ってないようだ。
たまに獣をしとめたり川で魚を捕るらしいが、取れる量は少なく村全体には行き渡らないとヤン爺が言っていた。
なるほど、つまり主食である『イモ』でさえ満足に食べることができない……と。
となれば、作るものは決まっている。
あとは場所だが、能力も試したいし人目のつかないところがいい。
確か屋敷の裏に開けた土地があったか……。
屋敷に戻り裏手に回ると土地が広がっていた。
一応畑だったのか、土を掘り返したような後が見える。
これなら大丈夫そうだ。
「よしじゃあやってみますか!」
−−こうしてサカモトの『じゃがいも』作りが始まるのだった。
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「−−オープンステータス」
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ユニークスキル【農畜産業】
スキル
【種創造】Lv:1
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ウィンドウを開き【種創造】をタッチする。
すると一覧が表示される。
「なになに、【芋】しかないじゃんか。結局最初は芋しか作れないんじゃんか」
最初は仕方ないと思いつつ【芋】をタッチする。
すると
【芋】
・男爵芋
・メークイン
と表示される。
なるほど最初はこの2種類から選べるのか。
よし、まずは男爵芋だな。
タッチすると何も無い空間から種が発生し、手のひらに収まる。
「うおっ。す、すげぇ。超便利」
手の中には小さい種がたくさんあった。
なるほど、芋だけど種がでてくるのか。
ちなみに大抵の場合ジャガイモは種ではなく、種芋から植える。あのジャガイモを半分に切って地面に埋め込むあれ。その方が育ちが早い上、病気にかかりにくいのだ。
補足だが、いもの種を見た事ある人はあまりいないと思う。でも実はナス科の植物であり、実ががなることがありそこに種があるのだ−−。
すると程なくウィンドウに『ポローン』という音と共に、
『−−スキル【種創造】がLv2になりました』
と表示された。
なるほど、使えばレベルが上がるのか。
じゃ、耕しますかね〜と思うが桑が無い。
「鍬なかった。どうしよう」
またも『ポローン』という音が鳴る。
『−−スキル【園芸用品創造】を習得しました』
おお。覚えてしまった。
すぐさまタッチすると、
スキル
【園芸用品創造】Lv1
・鍬
・軍手
と表示される。
もちろん両方だ。
目の前に鍬と軍手が現れた。
「す、すげぇ。これ、レベルあげたら何がでるんだろうか。トラクターとかも夢じゃないかも……」
よし、とりあえず耕すか。
畑を耕し、種を植える。
「とりあえずだから、これくらいかな〜」
試しだったので範囲を広げすぎずに作業し、1時間ほどで終える。
よし、これであとは水やって放置だな。
でも種からだからだいぶ時間かかるのか……。
そう思っていると。
またも『ポローン』と音が鳴る。
『−−スキル【促進】を習得しました』
促進?
もしやと思い種を植えた前で使ってみる。
「促進!」
すると見る見るうちに葉っぱなどが成長する。
植物の成長過程を撮影して早送りしている感じだ。
「え、え? なにこれやばくね?」
しばらくそれを見やる。
時間にしたら30分くらいだろうか、そこで成長が止まった。
もしかしてこれは、とんでもないスキルじゃないのか……?
試しに芋を収穫してみる。
お、お、おおおおお!
「ちゃんとできてる!」
ぱんぱんに膨らんだ男爵芋がたくさん引っこ抜かれる。
これぞまさしく芋づる式。
よし! これなら大丈夫だ!
高ぶる気持ちを抑え、芋を数個手に取り、屋敷へと歩みを早める。
−−これなら……村の発展も夢じゃない!!
サカモトは屋敷裏もとい屋敷畑をあとにし、屋敷の台所へ歩みを早める。