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第28話 俺理論。

 




『鶏小屋』を掃除し、餌と水をやる。

 まあまだ1日しか経っていないから全然キレイだけど。



「ふ〜。さっきは卵をありがとよ」



 名もなき鶏達にお礼を告げる。

 というか名前はつけない。



「あ、そういえば餌をあげてくれる人必要だな……」



 明日の昼に王都へと向かうが、長居をするつもりはない。

 食糧を届け次第、向こうが準備してくれているはずの物資と建築士と一緒にすぐに村に戻る予定だ。


 恐らく夜には戻れると思うけど、餌と水やりが遅くなってしまう。

 信用できる人物は皆王都に行くし……あっ。


 村長だ。ヤン爺がいた。


 ヤン爺は俺が村に来た時に初めて会った人物で、色々教えてくれている。そしておじいちゃんだから体力的に王都には行かない。



「ヤン爺に頼むか……」



 早速ヤン爺の家に向かう。



「ヤン爺ー。おはよう」


「おおチサノ殿、どうしたのじゃ?」


「うん。ちょっと頼みがあってきたんだけど……」


「おお。儂にできることならなんでもやりますぞ」


「ありがとう。それじゃあちょっと屋敷まで来て欲しいんだけどいいかな?」


「屋敷? もちろんいいが……」



 今事情を説明するより、見てもらった方が早いだろうと思い屋敷へと向かう。




「おお……これは……鳥……?」



 ヤン爺が見慣れない生き物を不思議そうに見る。



「鳥だけど、『鶏』っていう鳥なんだ」


「にわ……とり……」


「ああ。明日王都に行くから、その間この子達に餌をあげて欲しいんだ」


「それはもちろん良いのじゃが……この『にわとり』……とやらはどこからきたのじゃ??」



 きた。この質問は来ると思っていたよ。



「ああ。実は……」



 俺が『不思議な力』を使えること。

 そしてそれが特定の『生き物』を『召喚』出来ることを伝える。


 もちろんこのことはヤン爺から聞いたので、俺は『不思議な力』を知らなかったことになっている。

 だからそれについては、『話を聞いた後になんとなくやってみたらできた』ということにした。


 但し、色々と条件があっていつでも使える訳ではないし、万能ではないということを伝えておく。


 全て本当のことを言っても信じてもらうどころか怖がられてしまうかもしれないので、嘘と真実を混ぜながら言葉を選ぶ。



「なるほどのぉ……。まさかチサノ殿が『不思議な力』を使えるとは……」


「俺もびっくりだよ」


「いや、しかしチサノ殿はもともとただならぬ雰囲気を纏っておった。それに作物の知識も並々ならぬものじゃし、使えてもおかしくないのかもしれぬな」


「そ、そう? まあ信じてくれると嬉しいけど……」


「信じるも何も、事実この目で『にわとり』とやらを見せられたのじゃ。信じるほかあるまい。今まで長い間生きてきたが見たことのない生き物じゃしな」



 ヤン爺が受け入れてくれる。

 年の功というのかなんというのか、寛大なお心感謝致します……。



「あ、でもこの『力』のことはなるべく内緒にしたいんだけど……」


「もちろんですじゃ。ただでさえ噂でしか知らぬ『不思議な力』を使えることが万が一他国などに伝わってしまったらどうなるか分からぬからの」


「ああ。話が早くて助かるよ。でも村の全員には無理でも区長には伝えた方がいいと思ってるんだけど、大丈夫かな?」


「そうじゃの。流石に生き物が増えたとなると不思議に思うからの。区長達に関しては大丈夫じゃ。みなチサノ殿には深く感謝しているからのぉ。口は堅いはずじゃ」


「そっか。そういってくれると助かるよ。ありがとう」



 事情をわかってくれるヤン爺には感謝する。


 ちなみに村人達には、『献上物を気に入ってくれた国王陛下がくれた』と説明することにした。

 これがまかり通る理由だが、基本的にあまり王都には行かないからあまり詳しくないらしい。


 たまにダンテみたいに王都へ行ったりする者もいるらしいが、それでも食事のことやちょっとした噂くらいの情報しか知らないのが普通だそうだ。


 みんなを騙す形になるのは少し心苦しいけど、こればかりは仕方の無いことだ。

 決して悪事を企んでいる訳ではないし、発展させる為だ。ごめんよみんな……。

 ていうか、作物についても色々隠してたし今まで通りか……?



「ちなみにチサノ殿、この『にわとり』はどのような生き物なのじゃ?」


「ああ。用途は3つある。まず1つは『卵』を産む。これはとても栄養価が高く、とても美味しいんだ。調理方法も多岐に渡るから料理の幅を広げてくれる」


「なるほどのぉ。それは楽しみじゃ。早く食べてみたいのぉ……」


「そのうちね。2つ目は糞が肥料になるんだ。植物の生長に必要な成分がバランスよく含まれているから、農業にも使えるんだ」



これにはカルシウムやマグネシウムなどの成分もたくさん含まれているというのもあり重宝されているのである。

ちなみに植え付けるときに施す『元肥』としても、追加で施す『追肥』としても使うことができ、特に野菜や果樹といった栽培期間の長いものに対してよく使われるのである。

超役に立つのだ。

ただし、使い方により結構臭うので要注意である……。



「おお。まさか農業にも役に立つとはのぉ……。余すこと無く使えるのじゃな。してもう一つは?」


「ああ。食べるんだ」


「食べる、とな? 『にわとり』を?」


「そう。『にわとり』を。凄く美味しいし、栄養価も高い。それに繁殖も比較的簡単だから村の発展に大きく貢献してくれる」


「なるほど……そういうことですかの。そういうことならわかりましたじゃ」



 ヤン爺の瞳の奥が少し曇った気がしたが、やはり多少の悲しみはあるのだろう。

 今まで『猪』や『熊』達を狩って食べて生きてきたから生き物を殺して食べる、というのは理解しているだろう。

 でも理解していてもやはり思う所はあるものだ。


 俺だって辛い。


 それがただの『エゴ』だとしても、だ。


 世の中には肉などを食べない人達もいるし、色んな考え方をする人々がいる。だからそこについては人それぞれでいいと思っている。

 でも食べなきゃ生きて行けない。


 生き抜く為に人類がしてきたことだ。


 いや、人類だけでなくあらゆる生き物がだ。

『食物連鎖』の流れに逆らって生きることは不可能だろう。



 前世ではこんな言葉があった。



『ひとりの人間が1年間生きるためには、300匹のマスが必要。そのマスには9万匹のカエルが必要で、そのカエルには2700万匹のバッタが必要で、そのバッタは1000トンの草を食べなくては生きていかれない』



 何者かを食すということは、その他の何者かの命をも奪うことになる。


 だからこそ俺は常に『感謝』をして生きている。


 農畜を職業にしていて、より命を感じている、だからこそだ。



「一応しばらくの予定だけど、王都から建築士の派遣が到着次第土地の開拓と家屋の増築作業に入ってもらおうと思ってる。あと『鶏舎』も建ててもらおうと思ってる」


「『けいしゃ』とな?」


「うん。『鶏』達を育てて、『卵』を採取する為の場所のことだ。これは俺が簡単に作った『鶏小屋』だけど、すぐに増えると思うから優先的に作ろうと思ってる」


「なるほどのぅ。作物の次は『卵』と『肉』とは。流石はチサノ様じゃのぅ。ますます村が発展するわい……。むしろ人口はそろそろ街くらいになりそうじゃの」



 確かにヤン爺の言う通りだ。

 現在の時点で約1000人だ。これでも村としては十分多いとは思う。


 でもまだもう少し時間はかかるけど、移民の受け入れをすればさらに多くなる。

 じきに村と呼ぶにはふさわしくないくらい人口が増えるだろう。


 人口が増えれば増えるほど食糧のことや俺のスキルのこと、それに村人同士のいざこざなども出始め、デメリットもないとは言い切れない。

 まあ今の所なんとか全てクリアしているけど、皆の元々の境遇があってこそだと思うし、『慣れ』というものもあるだろうし不安は拭いきれない。


 だけど、そのリスクを背負ってでも返ってくるリターンを考えるとやらない手は無い。


 そう……お肉食べたい……。

 ……いや、もちろんそれだけじゃないけどね!



「うん。街くらいになるかもね。もっと村を発展することができたら色々やりたいことあるし、ヤン爺に相談するね」


「うむ。待っておるぞ。しかしチサノ殿は一体どこまで先を見据えているのか儂にはさっぱり分かりませぬな」


「ははっ。俺は行き当たりばったりだよ。そこまで頭よくないし」


「全く、そんな謙遜しなくてもよいというのに。こんなにも村の皆を救ってくれたのじゃしな」


「全然だよ。……自分の為にやってるだけだから…………」


「ん? なんて言ったのじゃ?」



 最後のセリフはちょっとぼそぼそした。

 でも自分の為というのは本当だ。


 何も慈善事業でやってるわけじゃなく、俺の税金ハーレムライフという夢を実現する為にやっているだけだ。


 そう。いうなればこれは投資。


 きっとここ数年という時間を投資すれば、残りの人生を楽にハッピーに迎えられるはずなんだ!!


 だからこその先行投資なのだ。


 ちまちまと畑を耕し、その日を生きていてもその後得られるのもなんてたかが知れている……。


 もちろん作物は美味しいし楽しいだろう。だけど俺はそんな普通の人生を歩みたいのではない!!


 前世での今までの俺なら農業、畜産業で金を稼ぎ、老後に向けて貯蓄し誰かと結婚し普通に生涯を終えていただろう。

 ……いや牛に潰されて死んじゃったからそんなアナザーストーリーなんてないけど。……結婚できたのかどうかも分からないけど……!


 しかしこの世界では違う。


 神様に与えられたスキルと領主という立場により、ZHE(税金ハーレムエンド)のウォール街へ進出することができた!!


 その日を生き抜くだけではない!

 先行投資により領地拡大、発展、そして交易、更なる発展、そして税金、そしてハーレム!


 今のうちに様々な物や人に投資をすることによって、いつか想像したことも無いような人生を手に入れることが出来る!!


 考えただけでワクワクが止まらない!!


 名声とかはぶっちゃけどうでもいいけど、安定した衣食住に可愛い女の子達が周りにいてくれたら最高に嬉しい!!


 それを実現する!!


 年単位で俺の人生をデカく張り、デカく儲ける!


 そう! それこそが俺のZHE(税金ハーレムエンド)理論!!



『チサノミクス』だ!!



 だから俺は今のうちにリスクを背負い、ミラクルハイリターンの為に行動しているだけなんだ。



 ……おっと熱くなりすぎてしまったか……。



「いや、なんでもないよヤン爺。まあとりあえず、明日はよろしく頼むよ」


「う、うむ。分かったのじゃ。任せられた」



 その後餌や水やりの方法をレクチャーし、ヤン爺と別れた。




「さて……とりあえずこれで『鶏』達のことは大丈夫だな」



 とりあえずのやるべきことをクリアにできて一安心だ。


 明日は大人数で王都に行くことになるから大変になるかな……がんばろ……。



 そして俺は屋敷へ戻り、休息をとった——。





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