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第17話 親友。いや、心友。

 





 2017。なとぅ。



 嘘です。もう冬ですわ。




 拝啓 


 母さん、こちらの冬はそちらと同じくらい寒いです。

 ですがまだ12月というのにすでに雪がしんしんと降っています。

 降ってくる雪が、全部メルティーなキッスならいいのにね。


 敬具




 雪のような口溶けのキッスがしてみたいです!!




 こちらで初めて過ごした夏からなにごともなく2ヶ月ほど経ちましたけども。

 けども文字通り特になにごともありませんでしたね。



 フィア、シル、ヘラはよく遊びにくる。

 ご飯食べて雑談して将棋指したりしてのほほーん。なただ幸せな日々。

 最悪税金はなくても食べるのには困らない。

 しかしハーレムエンドだけは見逃すことなんてできない。

 果たして、可愛い女の子に囲まれて同じテーブルでご飯食べて、遊び、時には作物作りや調味料作りを手伝ってもらいぐーたらする日々がハーレムと呼ぶのだろうか。



 …………あれ? 案外ハーレムしてる?



 いやいや! 納得しちゃダメだ!

 俺が良くても全視聴者が納得なんてしない!! 視聴者なんていないけど!

 むしろ俺が納得なんでできない!



 俺の思うハーレムというのはやはりそこに『エロ』が存在しなくてはいけない……っ!

 そう、肌と肌の触れ合い。至近距離での息づかい。そして温もり……。



 ふふ、ははははは。想像するだけでテンション上がってきた。



 決まりだ。

 最近の暇の持て余しようは中々のものだから、おかげで色々と作業が捗っている。

 時期は『冬』。『役者』はそろっている!あとは『場』を用意するだけ!!



 となれば現代知識で無双できる俺はやるぜ。



 やってやるぜ!!



「オープンステータスっ!」


「えーと、便利ネットスーパー……もとい【園芸用品創造】っと」



 しかし便利だがもちろん手に入るものには限りがある。



「まずは……これかな」



 創り出したのは、『フロアマット』だ。

 10枚1組。日本では500円ちょいで購入可能です。

 まずこれを大量生産した。



 そしてでかい暖炉のある広間からちょっと狭めの部屋に移動し、そこに敷き詰める。



「ほんとは畳があれば一番だけど、そんなのないからなぁ」



 そして敷き詰めた部屋にある背の高めの家具は別の部屋に移動させておく。



「次は、っと」



 再び【園芸用品創造】を行使し、『ダルマストーブ』を創り出す。

 これは薪があれば問題なく使用できる。

 そのまま暖炉——ほとんど使っていない——の煙突にダクトを通し換気面をクリアにしておく。



 そして最後に、出すのは資材欄から『人口木の緑台』を創り、解体して、また組み立てる。



 出来上がったのはさしずめ『ローテーブル』だ。



「よし、ここまできたらもう終わりだ」



 最後に布をたくさん縫い合わせ厚手の布、もとい『こたつ布団』を自作する。



「できた……」



 正直みてくれはそんなにおしゃれではないけれど、手作りにしてはまあまあだろう。


 ただしヒーター部分はさすがに作れないので、割愛した。

 そのかわり、『ダルマストーブ』で部屋を暖かくする。



 いつもは椅子に座ってテーブルを挟むという、ちょっぴり距離のある感じだったがこれなら距離は問題ない。


 むしろ脚と脚との触れ合いは避けられないであろう。



「ふふ、ふふふふふ」



 正直自分が恐ろしいよ! 天才だ!!



 あとは食べるものを準備して、皆を呼ぶだけだ。






 ※※※※※※※※※※






「チサノ様〜。来ましたよ〜」



 屋敷にシルの声が響いた。


 お、きたようだな。

 玄関へと出向く。



「おう、寒いだろう。早くおいで」


「おじゃまします」


「おじゃましまーす」


「お、おじゃまします」



 シルが挨拶をする。

 続いてフィアとヘラもよほど寒いのか手をすりすりしながら部屋へと向かおうとする。



「あ、今日はそっちじゃなくてこっちの部屋だよ」


「そうなの? な、なんか変な部屋じゃないよね……」


「おいフィア、一体俺をなんだとオモッテイルンダー」



 当たらずとも遠からず。といった所だろう。

 いや、本来ならただの居心地の良いお部屋なのだが、なんといっても作り手の意識が違うからな。



「今日は俺がおもてなしをすることにした。いつも色々手伝いをしてくれているからな」



 建前です。



「そうなの? それじゃあお言葉に甘えようかなー」



 手を摺り合わせ尻尾を丸めながらフィアが部屋に入る。



「チサノさん……今日は呼んでくれてありがとうございます……。お、お手伝いするので何かあったら言ってくださいね!」



 両手を握り胸の前に置きながら上目遣いをしている。いやこれはただ身長差によってそう見えるだけで、決して狙ってはいないのだろう。だからこそかわいい。

 これで狙ってたら魔女だ。日本では女子に嫌われるかもしれないな。でも男子は弱い。分かっていても弱い。だからあえて言う。可愛いと。



「ああ。ありがとな。でも寒いだろ。とりあえず中入りな」


「はい。あ、ありがとうございます……」



 狐耳をぴょこぴょこさせながら中へ入る。



「チサノ様いつもありがとうございますね! 私達すごく楽しみにしてたんですからねっ!」



 耳も尻尾も持たないシルは満面の笑顔で中に入る。はいかわいい。





「な、なにこれ……」



 かろうじて言葉にするのはフィアだ。


 どうだ、こんな空間見たことないだろう。

 プロデュースin俺。



「忘れてた、靴脱いでから入ってくれ」



 日本式のマナーを教えておく。

 といっても靴を脱ぐ国はたくさんあるのだけど。



「どうかな? この部屋は俺の故郷の家を真似して作ってみたんだけど……椅子に座るんじゃなくてそのまま座るんだけど」



 一応不安だから聞いてみる。



「も、もちろん大丈夫……だけどこんな部屋みたことない……」



 そこには、一面にマットが敷き詰められて、布をまとったテーブルが存在している。

 その近くには小型の熱を発する道具が置いてあった。



「チサノ! 床が柔らかい!」



 フィアは床をふみふみしている。



「チサノさん、このテーブルはなんですか?」


「よくぞ聞いてくれました! 俺の故郷では冬になると、この『こたつ』に入ってご飯を食べたり、寛いだりするんです!」


「『こたつ』……」


「そう。まあ本当は『こたつ』の中に暖かくなる装置がついてるんだけど、それは作れなくてね……」


「なるほど……つまりチサノ様、暖炉がなくても暖かいテーブルということですね」


「そうだよシル。でも暖炉も付いてるから意外と中も暖まってるよ」



 そういい、『こたつ』に入ってみるよう促してみる。



 3人とも『こたつ』に入る。



「わぁ〜、なんだがぽかぽかする〜」


 ヘラが脚もちろん、腕も尻尾も『こたつ』の中に入れテーブルに頬を下にして寛ぎ始めた。

『こたつ』の正しい使い方に早くも気づくなんてな。



「あったかいー手がジンジンしていくー」


 フィアも脚と腕と尻尾を中に入れ、テーブルに頬を下にして寛ぎ始めた。

 ヘラと全く同じ体勢だ。



「うあーこれは良いですなーチサノ様も早く入って!」


 シルは俺にも入るよう促してくる。

 但し、体勢はフィアとヘラと全く同じだ。


 こいつら順応性高すぎやしないだろうか……。



「俺はご飯持ってくるから待っててくれ」



「わかった〜」とすでにダメになってきている3人が返事をする。



 俺は部屋を後にし、厨房へと向かう。

 しかし、作戦は全て順調だな……。

 あとはご飯用意して、俺も『おこた』に入るだけ……。それだけで密着できるというさいくーな展開。オレ、テンサイ。




 準備してあった『鍋』に火をかける。


 もちろん野菜てんこもりです。


 豆腐もあります。ちょっとめんどくさいけどわりと簡単に作れます。

 にがりは『岩塩』から作り、豆腐作りました。



 スープは塩ベースだけど、まだ熟成中の『醤油』を少し使うことにした。

 2ヶ月でもちょっと醤油っぽくなってたからよかった。


 ただいつもの『猪肉』だけが足りなかった。ダンテに聞いたんだが、今は冬だからあまりないらしい。



 火が通ったのを確認し部屋へ持って行く。



「ほーいお待たせー。今日は俺手製の『塩鍋』だ」



 鍋敷きの上に鍋を置く。



「ふぁーおいしそう……」



 ヘラが呟きよだれを垂らしそうな顔をしている。

 しかしそんな顔をしているのは他の2人も同じである。

『鍋』は初めてじゃないはずなのにだらしないなまったく。


 そして俺は『こたつ』の中にとうとう至った。

 はぁー念願叶いましたわ。こんなにかわいい子3人に挟まれながらこたつで鍋を貪る……こんなこと誰にだってできることではない……。

 俺、勝ち組。誰にも邪魔なんてさせやしない!



「よし、じゃあ早速食べようか」


「「「「いただきます」」」」


「おーいチサノーいるかー!」


「帰れーーーーーー!!!」



 この声は誰かなんて分かりきっている。ダンテだ。

 あいつは良いやつだが、今この場には入らない存在だ。お帰りいただこう。


 ひとまず玄関へと向かう。



「おぉチサノ、なんか良い匂いするなァ」


「あ、あぁ今からご飯なんだ……。アルフも一緒じゃないか、どうしたんだ?」


「チサノさんこんばんは。いや〜ダンテさんから『チサノさんが『猪肉』を探している』って聞いて持ってきたんですよ」


「な、なん……だと……」


「時期が時期だからどこのうちも保存がすくねェんだわ」



『猪』は冬眠はしないが、春に向けて体力を温存するため中々見つからないらしい。あと雪積もってるから危険だとか。



「チサノさんの為ならうちの猪くらいすぐ持って行きますよ」



 あぁ……俺はなんて愚かなんだ……。

 こんなにも俺のことを思ってくれる仲間がいるのに……俺だけ美味しい思いをしようなんて……。

 くそっ! 俺はばかだ! なぜこいつらも呼んでやらなかったんだ!


 いや、でもこればっかりは仕方ない……だめなんだ……これだけは言ってはいけない……。



「お、お前ら夜飯は食ったのか……?」



 だめだだめだだめだ……。



「いや、まだだが」



 だめだだめだだめだだめだ……。



「い、今『鍋』してるんだが……ふ、2人も……食べてくか……」



 ……ああ……言っちまった……だが俺の矜持がここでなにも言わないのは許さなかった……しょうがないだろう……。



「お! まじかァ! ありがてェ! アルもいいよな?」


「もちろんです! チサノさんの料理は美味しいですからね!」



 こんな時くらい遠慮してほしかった……そうすれば心置きなく帰すことが出来たのに……。

 はぁ、もう言っちまったもんはしょうがない。気持ち切り替える! ハーレムはまた今度だ!



「じゃあついてきてくれ……」


「おう」


「はい!」





「——あれ、シルもいんじゃねぇかァ。それにフィアとヘラも」


「しかもこの部屋なんですか? 変わった部屋ですね」



「まあいいじゃないか。靴脱いで入ってくれ」


「お? おう」



 2人が部屋に入る。



「わっ、なんか柔らかいですねぇ。それにこのテーブルは一体……」



 3人が脚を突っ込んでいるソレに目をやる。



「『こたつ』だ。お前らも入れ。暖かいぞ」



 面倒くさいので説明は省く。入ればわかんじゃんどうせ!



「って言っても入るところ、足りなくねぇか?」


「ほんとですねぇ」



 確かにスペースが足りない。

 4面あるうちの3面はフィア、シル、ヘラが使っているのだ。もう一カ所は俺だし。



「あ、ああー忘れてた……どうしようか……」



 その言葉を聞いた瞬間に犬耳と狐耳が反応する。



「「隣空いてますよ!!」」



 フィアとヘラがいきなり叫び立ち上がる。



「確かに横に並べば入れるけど……」



 2人は顔を見合わすがすぐに駆け寄ってきて俺の腕を腕で挟み引っ張る。



「お、おいおい2人とも……」



 お、おいおい柔らかい何かが——いや回りくどいな、胸が当たってるぞ! なんだこれは! ラッキー!



「だが、チサノがずれた所で一つしかあかねぇぞ」



 もっともだダンテ。


 しかしアルフがその言葉をすぐに打ち消す。



「じゃあ3人で座ればいいんじゃないですか」


「「「!!!」」」



 フィア、ヘラそして俺が驚く。


 おいおいおいおいおい、アルフお前いつの間にそんな華麗なパス出せるようになったんだ!

 そういうの大好きだ! 結婚してくれ! 嘘だよ!



「それよ!」

「それです!」






 ——こうして俺の隣には犬人(シアンロイテ)狐人(ソーロ)の少女が座ることとなった。





 ダンテ、アルフ。お前ら親友——いや、心友だよ。





 ああ、俺はもしかして今日の為にこの世界に来たのかもしれない——。







次話へ続きます!

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