第16話 キウイそしてライバル。
「チサノー? いるー?」
フィアの声が屋敷に響く。
また遊びにきたのか。そんなに俺のことが好きなのか。かわいいやつめ嘘ですごめんなさい。
「おー、いるぞー。どしたー。……って」
フィアの隣にはもう1人いた。いつも一緒にいるシル、ではない。
だ、誰や。
「フィア、そちらの子は?」
そちら−−フィアの後ろに隠れるようにいる−−の子に目を向けると、そこには耳と尻尾を持つ女の子がいた。
……フィアとは違うな。んーこ、これは…………。
「ちょっとチサノ! あんまりじろじろ見ちゃダメ! 怖がってるでしょ!」
私のときもそんな目で見てたんだから! とかなんとかぷんすかしている。可愛いありがとう。
「ご、ごめん……。それでその子は?」
「この子はヘラ。もともと隣村の子なんだけど、仲良くなったんだよ!」
「は、はじめまして……。狐人のヘラです……。よ、よろしく、お願いします……」
な、なんか新しいケモノ娘が増えた……。ちょっと怖がっているのかフィアの影に隠れてはいるが……。しかしなんか、とっても奥床しい……。
なんだろう、こう、男心がくすぐられるというか、胸やら何やらを鷲掴みにされた感じだ……。いや決してこの一瞬でラブった訳じゃないけど……ただただかわいい……。
ていうか名前つけたご両親! なんて罪作りな名前を授けたのか!! かの神話に登場する結婚と母性そして貞節を司る女神ヘラ! そうそれだ! もちろん本物はとっても美しいのだろう! しかしこの子は綺麗というよりかはとにかく可愛いだ! だが、パッと頭に浮かんだのはヘラ! なぜだ! もしヘラの生まれ変わりなら結婚するまで交われないというのか自分でも何を言っているのかワカラくナッテキター!
「あ、ああよろしく……」
なんとか理性を取り戻して、挨拶をしばれないように視界の端で姿を捉える。
耳に尻尾、色は俺の知る狐のそれだ。しかし毛並みやもふもふ度はそれ以上と言っても過言ではないだろう。
ただでさえケモノ補正が入っているって言うのに、それだけではなく顔、仕草や雰囲気まで至高といってもいい。
……俺のハーレムルートにとんでもないスペックの持ち主が入ってきたが……貞操の女神は手強いな……。まあ女神ヘラは関係ないと思うけども。
よし、思いたいことは一通り思ったぞ。
「ヘラ連れてきちゃったけど大丈夫だった?」
「もちろんだ! なにも問題なんてない!」
「なんでそんな食い気味なのよ」
ちょっと突っ込まれた。
「いやーでもこんな可愛い子がいたなんてね。なんで気づかなかったのか自分が愚かしいよ」
なんかフィアに睨まれてるなんで。ごめんってそんな怒らないで。
そしてヘラはフィアの陰に隠れもじもじしている。トイレかな?
「それで、今日はヘラを紹介しにきてくれたってわけか」
「そうなの! ヘラとってもいい子でね! 尻尾が気持ちいいんだよ!」
「え、まじ? 俺も……」
「だ、だめですっ……」
消え入るような声でヘラが呟きよりフィアの背中にピッタリとついている。
「チサノだめだよ! 男の人は触っちゃダメなの!」
む、この世界の獣人には異性に耳や尻尾を触らせてはいけないって決まりでもあるのだろうか。
「そ、そうか……。じゃあフィアのも触ることができないのか……」
「えっ、そ、それは、そのダメ、だよ…………チサノだったらちょっとくらいはいいけど……」
「え? なんだって?」
ちょっと後半部分はもにゅもにゅしてて聞き取ることができなかった。
でもどうやら触っちゃいけないらしい。どういう器官に当たるのかわからないが、『胸』のような部位にあたるのだろうか。
もしそうなら常に見せていることになるな。なんてはしたないちょっと興奮してきた。
「な、なんでもないっ! 今日はそれだけ!」
「え? そうなの? あがってけよ。せっかくヘラも来たんだし何かごちそうするよ?」
「え! 食べる食べる! ほらヘラ! 行こ!」
もはや我が家のような感じで部屋に入って行く。
まあいいんだけどね。
「ここすごく居心地がいいんだよ〜。ヘラもきっと気に入るよ!」
ソファーに座り、後ろにもたれかけている。
ヘラも真似をして、目を瞑りながら「ふぁ〜、ふわふわだ〜」なんて言っている。
もし俺が狼人ならほんとに狼になっていてもなんら不思議ではないな。人で良かった。
一度部屋を離れる。
さて、今日は何を出そうかな。
ヘラもいるし、まだ食べたことないものの方が良いかもしれないな。
むーん。よし。決めた。
ーーーーー
ーーー
ーー
「おまたせ2人とも」
「ううん! 今日はなんだろ! 楽しみ〜」
「えへへ〜」とにやつくフィア。
ヘラはじっと不思議なそうな表情で俺の手にしている皿を見ている。
「チサノ……さん。それはなんですか……?」
俺は手にしている緑色の丸く、少し長細い果実の入っている皿をテーブルへとやる。
「これは、『キウイ』っていう果物だよ」
『キウイ』はまだ11区で育てている最中の果実だが、もちろん今回の『これ』は俺が作ったものだ。
皿の『キウイ』をちょうど真ん中で綺麗に切り、スプーンを手渡す。
「ほら、これですくって食べるんだ」
犬耳と狐耳をぴくぴくさせている2人の少女がそれをすくい、口に含み咀嚼する。
「っ!! 甘酸っぱい!! でも甘すぎず、酸っぱすぎずバランスが取れてる……!」
さすがに色々食べてきたからかコメントが上手になってきている。
ヘラはどうだろうか。
「……っ……っ……」
え? あれ泣いてる? なんで泣いてるの?!
「ど、どどどどうした? 大丈夫か?」
「だ、大丈夫です……。……っ……今までこんなに美味しいものが食べれる日々がくるなんて思っていなくて……。この『キウイ』を食べたらあの日『カレー』を初めて食べたことを思い出して……」
なるほどね。あの日っていうのはヘラ達がこの村に移民してきた日のことだろう。『カレー』と『ナン』を振る舞ったからな。
しかし『カレー』と『キウイ』……全然似ても似つかないけど……単純に美味しくて結びついたのかな。
「そ、そうか。なんともないなら良いんだ。……たくさんあるから好きなだけ食べていいからね」
「あ、ありがとうございます……!!」
そう言って再び食べ始めた。
2つ目を切って渡してあげる。
……フィアも「あ、わたしもっ」と2個目を促してきたので切って渡す。
ちなみにキウイは『マタタビ』の仲間である。
そしてとてもとても栄養価の高い果物で、種類によっては『レモン』の8倍のビタミンCが含まれている。
他にも食物繊維はバナナの2倍、カリウムが梨の2倍も含まれているのです。美容効果抜群ですはい。
さらに美味しい『キウイ』の見分け方だが、通常は丸形だけどそれよりも平べったい形のものがより美味しい。
ちなみにこの美味しい『キウイ』のことを生産者達は『キウイの長男』と呼ぶんだよ。
一番木の幹に近いから栄養を吸収しやすく、美味しくなるんだ! スーパーに行ったら探してみてね!
「ヘラ、ここにはいつでも来ていいからな。それに、俺がいる限りもうお前らにひもじい思いはさせはしないよ」
「チサノさん……。あ、ありがとうございますっ」
ヘラは深々と頭を下げお礼を言った。
この子はきっととても臆病で、とても礼儀正しくて、とても優しいんだろうな。
手遅れになる前にこの子達をこの村に受け入れることが出来て良かったな。
もちろん100%慈善活動ってわけじゃないけど、目の届く範囲はなんとかしたいからな。
食べ終わり、少し話して別れを告げる。
「今度はシルも入れて3人で来るね!」
「おう、気をつけて帰れよ」
とここで2人とも踵を返したと思ったが、ヘラがこちらに駆け寄ってくる。
なんだろう、と見ていると両手で俺の手を包み込むように握り言った。
「チサノさんっ! 今日は本当にありがとうございました!」
そう言い残し、玄関へと向かって行く。
心臓がどっどっどっ、と鼓動を早める。
い、一体どういうつもりなんだ……。ただお礼を言うだけなのに手を握るって……どういうことーーーーーー!!!!
帰り際それを見ていたフィアは口をあけ尻尾を立たせ『じ、自分でライバル増やしただけ?!』という顔をしていたが、それに気づくものはいなかった——。
皆々様、ここまで読んで頂きありがとうございます!
おかげさまで、今朝8/4から日間ランキング1位になることができました……!
この場を借りて、お礼申し上げます!
これからも楽しいものをかけるよう頑張ります!
これからも何卒応援よろしくお願いいたします!




