第14話 恐怖との遭遇。
−−3人の狩人は森へと行き至っていた。
「こ、ここが森か……」
踏み入った所は俺の知るそれとは、どこか似ているようで似ていない、鬱蒼なる森が広がっていた。
「あんまり俺から離れるんじゃァねぇぞ」
「うん。もしものことがあったらなんとか出来る自信全くないから」
「そんなこと自信満々に言うことじゃァねぇよ。男が廃るぜェ」
「そうですよチサノさん。仮にも男なんですからそんなこと言わないでください。この国では男子は狩りが出来て当たりまえですからね」
「ちょっと2人とも?! 俺のこと領主だと思ってないよな?! むしろ男じゃないみたいな感じで言わないでくれる?!」
なんかこいつらといると一応領主やってるのに違う気がしてくる……。やっぱ領主には見えないよな……。
「ていうかアルフも狩りできるの? そんなひょろひょろなのに」
「チサノ、あんまりアルフを見くびんない方がいいぜェ。こいつ弓矢の扱いだけは中々のもんだからなァ」
「え? まじで? お前そんな特技あったの?」
「はい。僕は見た目から分かるように残念ながら体力はあまりありませんし、筋力も弓矢を扱える程度です。ですが然るべき場面でなら狙った的は外しませんよ?」
「なんてこった……。そんな才能があったなんて……なんかごめん……」
「まあそれでも俺の膝元くらいだけどなァ」
足下じゃないのかよ。そこは普通、足下にも及ばないって台詞だろ。
「ただアルはなんってーか、ちょっと運が悪いんだよなァ」
「は?」
なんか不穏な台詞が耳に入ってしまった……。幸薄オーラは伊達じゃないってこと……?
「なんかアルと一緒に狩りに行くと、ちっせぇ穴なんかに足がハマったり、やたら虫が落ちてきたりするよなァ」
「ははっ、昔からそうなんですよ……。なんかちょっと運が悪いみたいで……。でも命に関わることは今までありませんでしたよ?」
なんかとてつもなく不安になってきた。だってさっきからフラグ立ててんだもんコイツ。命に関わることはないとかなんとか。
「まあ大丈夫だ。今日は罠に掛かってるかどうか確認するだけだからなァ。あいつらは臆病だからな、襲われることなんて滅多にねェよ」
あいつらというのは『猪』のことだ。基本的に『猪』を狩り、その貴重な命を分けてもらっている。
俺は日本では『猪』を食したことはないが、少なからずこの辺の『猪』はとても美味しい。
脂がとても濃厚で、肉としての味が濃いのだ。
しっかり血抜きをして臭みを取れば、塩をかけるだけでも十分にうまい。
いつか味噌を作ったら『猪鍋』を作りたいと思ってる。『豆』と『塩』はあるのだが、『米麹』がまだ作れない。『大麦』でも作れるがそれさえもまだない……だからもうしばらく我慢を強いられるだろう。
「……まあ2人がそういうなら、大丈夫……なんだろう……」
そう言葉を紡ぎ歩き出す。
と、思った瞬間。
『−−ガサガサッ』
「「「!!!」」」
斜め後ろの茂みから草木を揺らす音が聞こえる−−。
とっさに後ろを振り向くと、そこには茶色−−というよりは黒に近い−−の、優に2mは超える4足歩行の生き物が佇んでいた。
「お、おいおい……森のくまさんなんてよく言ったもんだ……全然可愛くないじゃないか……」
心臓が早鐘を打ち、感じたことの無い恐怖に包み込まれた。
「2人とも下がれ!」
ダンテが静かに、しかし鋭く言葉を発する。
その指示に従い、ゆっくりと、刺激をしないように後ろへ下がる。
まだその生き物−−『熊』はそこにいた。
こちらの出方を伺っているのか、こちらをじっと観察しているように見える。
本来『熊』は臆病だが、それ故に遭遇してしまった場合は人を襲うことが多い。
まさにそのパターンといっていいだろう。
「ダンテ、どうする」
「やるしかねェ」
「ははっ……やっぱ僕がいるからですかねぇ……」
やるしかないというのは、『殺る』しかないということだろう……。
そんで、やっぱこの状況はアルフの力なのだろうか……。
−−どちらからともなく……という言葉がふさわしいだろう。
まるで『相撲』の『立合い』のように呼吸がピッタリとあった−−
狼人の男が槍を薙ぎ払うのと、『黒き獣』が2足で立ち上がり前足を振り下ろすは同時だった。
まさに命懸け。その言葉に尽きる。
俺は足が震え、まるでその場に縫われているかのようだった。動かそうにも動かない。
ただ、見ているしか出来なかった……。
「うらァ!!」
「グルゥゥ!」
腕と槍が絡み付く。
常人ならば槍ごと身体を吹き飛ばされていただろう。
しかし狼人は常人とはかけ離れた体躯と技を駆使し、『獣』の攻撃を去なしている。
だが流石に余裕はなく、防御に徹するのみで精一杯のようだ。
どちらかの体力が尽きるか、槍が折れるのが先か、という所だろう。
何度目かの攻防が繰り広げられ、その瞬間変化が訪れた。
俺の隣を鋭い風が横切り、『獣』の眼球に吸い込まれるようにそれは突き刺さる。
「グルゥルッ!」
どうやらアルフが弓矢で打ち貫いたようだ。狙った的は外さない、というのは本当だったようだ。
「おらァァァ!!!!」
『獣』が眼球の痛みに一瞬の隙をみせ、ダンテはそれを見逃しはしなかった。
槍は『獣』の胸に深々と突き刺さっており、しばらく足掻き、そして事切れた−−。
−−俺はその場に崩れ落ちた。
「チサノ、大丈夫か」
なんでそんな冷静でいられるんだ……。命懸けの戦いが終わったばかりだぞ……。
「ダ、ダンテこそ怪我はなかったのか」
「大丈夫だ。こいつの一撃が中々のもんで手の皮は剥けちまったがなァ」
「そ、そうか……なら良かった……」
「アル、さっきは助かったぜ、ありがとよォ」
「いえいえ、僕が引き寄せたのかも知れませんし、これくらいはサポートしますよ」
この2人は恐ろしくなかったのだろうか。
「なぁ……怖くなかったのか?」
「ああ怖かったぜ。お前を死なせちまうんじゃないかってな!」
ダンテはそういうと軽く笑った。
「え……」
「お前は俺らの命の恩人だ。だから俺はどんなことがあってもお前を助けるし、犠牲は厭わない。それはアルだって同じだ」
「その通りです。チサノさんは命の恩人。返しても返しても返しきれない恩があります」
「お、おまえら……」
「それに今死なれても、俺らだけじゃどうすりゃいいかわかんねぇしなァ!」
ダンテが冗談めいて言い放つ。
「ハハッ。そうだよな。俺がいないとなんもできないもんなぁ! ははっ、あっはっはっ」
なんか笑いが込み上げてくる。ついでに涙もちょろっとだけ出た。
「なあダンテ、アルフ」
「なんだァ?」
「なんです?」
「ちょっと腰抜かしちゃった。立たせてくれ」
2人は笑いながら手を差し伸べてくれた。
あぁ……良い友に巡り会うことができた……。
普通友達でも命懸けてくれるやつなんてそうそういないだろ……。
大切にしないとな……。
「ダンテ、アルフ、ありがとな」
狼人と細身の男は照れを隠すようにそっぽを向いていた−−。
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その後『猪』用に仕掛けた罠が空なのを確認し、先ほど命を絶った『熊』を3人で村まで運んだ。
『熊』も然るべき処置をすれば美味しく頂けるそうだ。
滅多に獲ることが出来ない為、かなり稀少らしい。
なので、今回はダンテとアルフの『区』のメンバーを集め、『熊鍋』の会を執り行った。
……さすがに村人全員分は不可能です……食べられない人……ごめん……。
皆と分かれ1人屋敷へと歩みを進める。
「なんか今日は思ったより大変なことになっちゃったなー」
「たまにニュースで『空手で撃退しました!』みたいなの見るけど、あれ絶対うそだろ……。どう考えても死ねるで……」
嘘、ダメ、絶対。
ただ『暇』で、面白半分という理由で狩りについていっただけなのに……。
狩りはしばらくもういいかな……。
でもやっぱアルフになんかあるんじゃないか……。
−−この日は最後までアルフの運のなさを疑いながら、暗闇に意識を追いやった−−。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
何の間違いかジャンル別日間8位に載ってしましました……。
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これからも楽しい作品作れるよう頑張りますので、引き続き応援よろしくお願い致します。。




