第13話 平穏と狩り。
「移民を受け入れて一ヶ月……。うん、なんとか何事も無くスムーズにいってるな」
屋敷で1人『夏みかん』を剥きながら呟く。
正直移民を受け入れるにあたり、互いの村人同士でいざこざが多少なりとも起こると不安に思っていた。
元々、ルールや生活習慣の違う民同士で同じ環境にいるということは、お互いが容認できなければストレスにしかならないからだ。
俺だっていきなりやってきたやつが、ずかずかと入り込んできたら嫌だ。というか嫌だ。
しかし結果は存外良かった。
『区』を分けてはいるが、同じ村に居住を共にすれば少なからず接点は必ずどこかにできる。
しかし逆に村人達はお互いに自ら寄り合い、心の距離を近づけていた。
村長同士はもちろんだが、狼人のダンテと幸薄オーラを纏っているアルフが仲良くやっているようだ。
性格的にはあまり合いそうに見えなかったのだが意外に意気投合してよく村で見かけるのだ。……え、自分で言っておいて思ったけど、もしかしてそっちの気があるわけじゃないよね? 信じてるからね?
まあこの件は今後要注目ということで。
「はーそれにしても何かうまいこといきすぎっつーか、最近ちょっと暇なんだよな……」
俺はスキルでいつでも作物を作れるし、自室に『プランター』をいくつか置いているから屋敷にいるだけで事足りる。
ただ移民人数分の作物は作らないといけないので、屋敷裏の俺専用畑で作りはするのだが。
あとは村の畑に足を運び、不備がないか調子はどうかをチェックするくらいだ。
他にやるべきことと言えば、『スキル』のレベル上げである。
ただ、要らないもの食べないものを無駄に生成しても食材達に顔向けできないので、自分が食べる分−−と誰かが遊びにくる時−−しか作らないのだ。
だからかレベルの成長率が初期の頃に比べ低いのだ。
「うーーーーん。どうしたものかーーーー」
出来ること、やっておいて損がないことはあるにはある。
ただ現時点ではちょっと面倒くさいのである。
……いいだろ! 俺だって人間だからたまにはさぼりたいのさ!
「……よし、村へ行こう」
とりあえず屋敷にいてもほぼほぼ惰眠を貪ることになりそうなので屋敷を後にし村へふらふらしに行くとする。
※※※※※※※※※※
「あー領主様ーだ! いつも畑か屋敷にいないのにどうしたのー?」
村の通りを歩いているとまだ幼い少女が声をかけてくる。
「お、ちゃんと飯は食ってるか? んん〜、肌の調子は……バッチリだな! 女の子なんだからお肌は大切にしろよ!」
ぐりぐりと少女の頭を撫で回す。
名前は確か『リリ』と言ったか。
「あう〜領主様やめて〜〜〜」
やめてとは言っているがあまり嫌そうにはしていない。むしろちょっと嬉しそうだ。
……こどもは可愛いなぁ〜。こんなにわしゃわしゃしても怒らないし、遊んでいるのを見ていると微笑ましい。あ、決して『ロリ』が好きというわけではない。決して。
「それで領主様はどこにいくの〜?」
「ああ、聞いてくれるかリリ。実はな……暇なんだ……!」
「へ?」
「だからな、今日はやることがなくて暇なんだ」
「そ、そうなの?」
「そうだ。だからリリ、何か面白いことないか?」
まさかこんな小さな子に面白いことを見出だそうとすることになるとは。
……決して恥なんて思わないがな!
「うーん、あたし今から教会でお勉強だから……。暇だったら一緒に遊ぶのに!」
「そうかぁ、そりゃあ仕方ないなあ」
そう、この村には教会がある。そして毎日子ども達はそこで文字や計算などの勉強に励んでいるのである。
但し現在教会には神父は存在しておらず、村の大人達が教えている。
随分と昔には王都から神父が派遣されていたらしいが、現在はもう来ていないらしい。きっとそんな余裕もないのだろう。
「あ、面白いかどうかは分からないけど、さっきダンテお兄ちゃんとアルお兄ちゃんが狩りに行くって言ってたよ!」
「ほー……狩り、ね。良いこと聞いた! あいつらどこにいるか分かるか?」
「えっとさっき聞いたばっかりだから多分村の入り口に行けばいるんじゃないかな!」
「おお。リリ、ありがとな! 今度お礼になんかうまいもの食べさせてやる!」
「えー! ほんと! 領主様約束だよ〜!」
「おう! リリも勉強頑張れよ!」
「はーい!」
ちょっと面白い情報を受け取り、リリと別れダンテとアルフを探しに行く。
ーーーーー
ーーー
ーー
「おーい、はぁはぁ、2人とも、はぁはぁ、ちょっと、はぁ、待って、くれ」
肩で息をし、横腹を手で押さえながら2人を呼び止める。
……久しぶりに走ったからめっちゃ腹痛い……。
「あれ、チサノさんじゃないですか。そんなに急いでどうかしたんですか?」
「あ、ああ、間に合って良かった……。お前ら今から『狩り』に行くんだろ?」
「おうチサノ。そうだけど、そんなこと誰に聞いたんだァ?」
「ああ、リリに教えてもらったんだ」
「なるほどなァ。あのちびっ子か。で、それがどうしたんだァ?」
「おう。ちょっと俺も連れてってくれないか?」
2人はきょとんとしている。
「え? ダメかな?」
「い、いやぁ、ダメではないですけど……」
アルフがダンテの顔を見やる。
「ふつう領主様はいかねぇぞ? 屋敷でドンと待ってりゃ俺が肉届けてやるぜェ?」
「いや、自分でやってみたいんだ。いつも肉は皆に獲ってきてもらうばっかりだからな」
ほんとは暇だからついて行きたいだけなんだけども。
「まあチサノが行きてぇってんなら止めはしねぇけど、危険がゼロってわけじゃァないからな?」
「あ、ああ分かってる大丈夫だ。何かあってもダンテがなんとかしてくれるだろ」
「ばっか! ……俺がいればチサノ一人くらい守れねぇわけねぇぜ!」
ふん。ちょろいやつだ。
「って言っても今日は仕掛けた罠を見に行くだけだからそんなに危なくはないと思うけどなァ」
「そっか。じゃあ余計安心だな」
なんとか同行の許可を得ることに成功した。
ダンテは背中に弓矢を背負い、手に槍を持っている。
アルフはというと弓矢を携えているだけだ。とても筋力がありそうには見えないから槍は扱えないのだろう。
「じゃあチサノは一応弓矢を持っていてくれ。使い方くらい分かるだろォ?」
「ああ、多分大丈夫だ」
そう言って、ダンテは背負っていた弓矢を俺に手渡す。
一応村に来てから弓矢の練習はさせてもらったことがある。但し、的に当たったことが一度もないのは内緒だが。
「よし、じゃあいくかァ! 獲物掛かってるといいなァ領主様!」
「お、おう。 頼りにしてるぞ2人とも!」
こうして俺と狼人と幸薄男3人の狩りが始まる−−。
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