第11話 楽しい楽しいパン作り。
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一ヶ月後に村人全員で来るように伝え、2人は村を後にした。
「くく……計画通り…!」
一度言ってみたかった台詞……。
でも悪いことしたわけじゃないのでね!
ではなぜ隣村からこの村にやってきたのか。
それは以前ダンテに『果樹園』の管理を任せた日のことだ。
3ヶ月ほど前になるが、『果樹園』を後にし数人の村人を集めある指示をだした。
隣村へ行き、
『どうやらあそこの村に新しい領主が住まい、見たことも聞いたこともないな作物が豊富に実り潤っている』
という噂を流してもらったのだ。
もちろん俺が自ら出向き、『この村を救ってやる』と言っても嬉々としてついてきただろう。
しかしそれでは足りないと思った。
自らの考えで行動するくらいでないと、『恵んでくれてありがとう』これで終わってしまうのだ。
もちろん皆が皆そうではないとは思うが。
だから『噂』として『情報』を与え、自らの考えでここに来させたのだ。
ただ『噂』を流してからちょうど3ヶ月経っても来なかった時はちょっと焦ったのだが……。
「うまくいって良かったぁ〜」
「チサノ、ほんとにいいのかァ? 隣村のやつら全員集めたら結構な数になんだろォ?」
まあ普通そういう反応になるよなぁ〜。
「ああ。大丈夫だ。この村には空き家が死ぬほどあるからな」
そう。この村には空き家がたくさんある。
現在10区までを住居にしているが、本来は軽く20区以上の土地があったのだ。
最初この村に来た時に、人数と土地の広さが釣り合わないことに疑問を抱き村長に聞いてみたのだ。
そしたら、『飢餓』による影響−−薄々感づいていたが−−でかなりの人数が亡くなってしまったらしい。
だから土地の広さと家屋だけは余りがあったのだ。
「そうかァ。でも食料は大丈夫なのかァ? さすがに今の食料じゃあ全員分はむずかしいんじゃァ……」
「それも大丈夫だ。俺がこの村に来た時のこと覚えてないか?」
「ってーと、最初の『イモ』が収穫できるまで俺らに食べ物をくれてたってやつか?」
「そうだ。今回もそれは俺がなんとかする。だから今の村人には負担はかけないよ」
「そうかァ。ならいいんだが」
ダンテは納得してくれる。
以前あの時はどうやって村中の食べ物を賄っていたのか聞かれたが、聞かないでほしいというと簡単にひいてくれたのだ。
本当にわきまえている人間−−狼人だ。
ちなみに補足だけど、このあたりにはいくつか他にもいくつか村があるらしいのだが、どの村にも現在領主はいないらしい。
この国の王都でさえ自国の村の管理さえできていないのが現状ということだろう。
一旦ダンテと分かれ、移民を受け入れるにあたりプランを練る。
と思ったら犬人の少女が屋敷を尋ねてきた。
「おーいチサノー。いるー?」
「おーフィアじゃないか。どうかしたのかー?」
「どうしたのかー、じゃないでしょ! チサノに言われてたやつが完成したのよ」
「!!」
俺はハッとし、フィアを見やる。
「本当か……! すぐ行く!!」
くッ……あれが出来たのなら移民なんて後回しだ!!
犬人の少女と欲に塗れた男が屋敷を後にする。
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時は少し遡る。
ーーーーー
ーーー
ーー
自室で
『ポローン』いう音が突然響く。
次は何を覚えたのかとウィンドウを開くとそこには『麦』の文字が浮かんでいた。
「っ!!!! まじか! きたきたー!」
『麦』をタッチすると一覧に『小麦』の表示が現れる。
「こ、小麦粉が作れる!!」
一応この村でも小麦を栽培していたのだが、土地のせいなのか『種』のせいなのかとても小麦と呼べる代物ではなかったのだ。
一度『パン作り』を試みたことがあるが、失敗に終わったのだ。
すぐに屋敷裏へ行き、空いている土地に『小麦畑』を【開拓】する。
とりあえず広さは10㎡くらいにしておく。だいたい1㎡でうどん1杯分の『小麦粉』を作れると思ってくれて良いだろう。
もう幾度となく繰り返してきた、
【種創造】
【種植え】
【促進】
【収穫】
を慣れた手つきで操作し、小麦を手に入れた。
そのまま製粉したところで、思い出す。
「あ、オーブンないんだった……」
そう、ここは異世界。もしかしたらいずれスキルでなんとかなるのかもしれないが、今の俺にオーブンは持ち合わせていない。
「どうしたものか……あ。窯? 石窯作れば良いのか!」
以前漫画で読むことで得た知識をフル活用し、図面を作成する。
そしてシルとフィアの元に行き、手伝いをお願いしたのだ。この石窯を使い『美味しいものを食べさせる』という条件で−−。
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「おお……」
『それ』を見て心から感動を覚えた。
「2人とも良くやった……ッ!」
「そんなにこれが必要だったのチサノ様?」
シルが尋ねてくる。
「当たり前だ! これじゃないとダメなんだ! 直接火にかけること無く温めるということがどれだけ大切なことか……!!」
捲し立てながら一息で言葉を発する。
そしてそのまま指示出しをする。
「よし2人とも! 今から『パン』作りを開始する! 2人はその『石窯』に薪を焼べて、火を起こすんだ!」
「「は、はいっ!」」
2人が声を揃えて返事をする。
薪を焼べている時に「フィア、『ぱん』って知ってる?」「んーん、私知らない」と話していた。
だがそんなのは無視だ。食べてもらえば1発なのだ。
屋敷を出るときに持ってきた『パン生地』を取り出す。
−−昨日の夜に試しに作っておいたのだ。
作り方はそこまで難しくない。
まず、『小麦粉』と『天然酵母』と『塩』をボウルに入れ、ぬるま湯も追加し混ぜる。
次に『捏ね板』の上で『叩き付け』『伸ばし』『折り畳む』これを繰り返しキメの細かい生地を作成する。
そして生地を丸め、ボウルに入れ暖かいところに30〜40分ほど放置し『一次発酵』させる。
1.5倍ほどの大きさに膨れるあがるので、『ガス抜き』をした後生地を切り分ける。
その後『ベンチタイム』という生地を休ませるという行程を経て、『二次発酵』をさせるのである。
今回はすぐに使うわけでは無かったのでしっかり冷えた所で保管し、緩やかに『二次発酵』をさせた。
それが今に至るというわけだ。
ちなみに『天然酵母』は『いちご』から発酵させたのである。他にも『レーズン』や『りんご』からも『天然酵母』は作れるのだ。
−−よし、いい具合に発酵している。
「2人とも、準備は良いか?」
「いつでも大丈夫です!」
「よし、では焼成に入る」
しっかりと熱した『石窯』に準備したパン生地を投入し時間をおく。
熱が均等に行き渡るようにたまに回転させて焼き加減を確認する、
「…………。…………」
目を見開く。
「ここだ!」
先ほどの生地を取り出すと、そこには変貌を遂げていた。
それの周囲に鼻孔ををくすぐるような独特の香りを放つ。
「チサノ様! これは一体なんですか! さっきの丸いのとは全然違うよ!」
「んーっ。なんか香ばしい香りがする! いい匂い!」
「そう。これが『パン』だ。これは……うまいぞ?」
2人がゴクリと喉を鳴らす。
「ほら、出来立てを食べるんだ」
そういうと2人が手に取る。
「あ、あつっ、ふーふー」
2人が手に持てる熱さまで冷ますと、とうとうそれを口にした。
『カリッ』
「!! チサノ! なにこれ! 外はアツアツのカリカリで、中はふわふわのもこもこだよ!!」
フィアは口の中に幸せが広がるのを感じ、味わっていた。
「チサノ様、これは食感も香りも味も最高です! はぁ〜幸せです〜」
シルもまた幸せな気持ちになっていた。
「な、うまいだろ?」
2人は頷きながらも『パン』を食べ続けている。
「チサノ、こんな不思議な食べ物初めて! 『パン』って一体なんなの?」
フィアは目を輝かせ、尻尾をぶんぶんふりながら質問する。
俺は一応持ってきていた小麦を見せながら答える。
「この『小麦』ってやつを挽いてそれを水と塩と、あと『天然酵母』ってのがあるんだけど、それを混ぜて焼いたのが『パン』だ」
詳しくはまだ難しいと思うので割愛させてもらった。
「ほぁー、こんなのがこの『カリカリふわふわ』になるのかー。不思議だなー」
フィアが耳をぴくぴくさせながら不思議そうにしている。
そりゃそうだよな。誰も小麦がこんなのになるなんて思わないよな。
俺もこれに初めて遭遇したとしたら不思議がるだろう。慣れってすごい。
「冷めてもおいしいから残りは持って帰っていいぞ」
自分も1個食べ満足した。やっぱ美味しいな。
菓子パンとか作ろうと思ったら本格的に調味料が必要になりそうだな。……そろそろ調味料作り初めても良いかもしれない。うん。
「いいの? ありがとう!」
「ありがとうチサノ様!」
2人ともお礼は忘れない。
「チサノ、今度作り方教えて!」
「うん? おおいいぞ」
フィアは「やったっ」と小さく喜んでいる。
目標は達成したので後片付けをし、2人と別れ屋敷へ戻る。
「はー結構うまくいったな〜。でもパン作りはけっこう難しいし大変だな……。世界のパン職人の皆さん、いつもありがとうございました」
決して届くことはない声だが、元の世界にお礼を告げる。
「ふぁ〜! 今日はもう満足! 寝るか〜! 移民のことは明日やろう! うん!」
−−今日も全ての食材に感謝を…………。
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