第10話 スパイスと隣村。
「暑いな……」
大地を焦がす陽の光が、身体をジリジリと焦がしていく。
「そっか……もう夏になるのか……」
幸い日本と同じ『春夏秋冬』をこの地域は有していた。
それに気温も日本と同じくらいで、天候も安定している。
気がついたらいつの間にか夏を迎えていた。
これだけ暑いと明るいうちから外で一杯引っかけたい気持ちになる。
ビ◯ガーデンが懐かしいです。チンカチンカノヒャッコイル−ビーノミタイナー。
以前育て始めていた『野菜等5種』も無事収穫することが出来た。
だんだん野菜も種類が増え、村も潤ってきている。
そして今俺にはハマっていることがある。
それは、『スパイス』作りだ。
ある日突然、『ポローン』と言う音が鳴り、ウィンドウを開くと『ハーブ・スパイス』、という欄が【種創造】に加わっていた。
これを見て一瞬で閃いた。
『じゃがいも』『たまねぎ』『にんじん』……あるよな……。
肉も量は多くないが狩りで何とかなる……。
……。
「できんじゃん!! カレー!!!!」
考えたとたん口の中に唾液が生成される。
『りんご』と『はちみつ』は残念ながらまだ作れないからバーモンドでバーモンドすることはできない。
それでも! それでも『カレー』が食べられると思うといても立ってもいられなかったのだ。
残念ながら生前は『スパイス』から『カレー』を作ることなんてしたこと無かったため知識が乏しかった。
なので以前、みなみの方にある家のアニメを見た時に聞いた、『カレーの歌』を必死に思い出していた。
正直分からなかったから片っ端から育てて、ごりごり砕いてパウダーにした。
あとは分量もわかんないから試行錯誤を何度も重ね、遂にその境地へと至った。
『クミン』
『カルダモン』
『シナモン』
『クローブ』
『ローレル』
『コリアンダー』
『ターメリック』
『チリペッパー』
「この凝縮された旨味! 頭のてっぺんから汗の吹き出るような辛さ! これこそまさにっ……−−」
−−これらを『永久保存版』と認定した。
この時ばかりはさすがにテンションがあがりフィアとシル、あとダンテも屋敷に呼び振る舞った。最高のおもてなしと共に……。
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ーーー
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初めてだろうから辛さは『中辛』程度に抑えておいたが、どうやらかなり好評だった。
最初こそ、「この茶色いのなんです……?」「これ食べ物? でも良い香りがする」とシルとフィアが少しだけ疑いをかけていたが一口で評価は一転した。
「こ、これは……!! チサノ様! これは……!! ……これは!!」
とシルはいいながら手を休めることをしなかった。
フィアはというと、
「ふぁ〜! 耳の先から尻尾まで電撃がハシッターーーー!」
などと少しバグっていた。
相当美味しかったのだろう。
今回はスキルの力だけでなく、俺自身頑張ったから自分でかなり『ヨイショ』した。
ダンテはというと……あいつは男だから放置していた。
仲良いから一応呼んだものの、本来俺のハーレムルートにはいらない存在だったのを忘れていたのだ。
まあでもおかわりしていたから美味しかったのだろう。俺の自信作を美味しくないなんていったら首チョンパだったけど。
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という『カレーの会』を開いていたのだ。
一つ悔やむとしたら、『米』がまだ作れないことだった。
『田んぼ』もどこにどう作るか構想は十分練ってあるんだけどな……。
とかなんとか自室で先日の出来事を思い出していると、村の警備を担当している村人が屋敷を尋ねてきた。
たまに村人が尋ねてきたりはするのだが、警備が尋ねてくるのは初めてだ。何かあったのだろうか。
「お疲れさま。どうかしましたか?」
「はっ! 領主様もお勤めご苦労様です! それがですね……隣村の者が領主様に会いたいと尋ねてきまして……」
「なるほどな。それじゃあ屋敷まで案内してやってくれ。あ、あとダンテも一緒に連れてきてくれないか」
「わかりました。しかしいきなり屋敷に案内するなんて、本当によろしいのですか?」
「ああ、大丈夫だ。気遣いありがとう」
「とんでもございません! ではすぐに連れて参ります!」
そういい残すと屋敷を後にした。
「やっと……きたか……」
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部屋に、2対2で対面する影がある。
2つは隣村の使者。
もう2人は俺と、用心棒代わりのダンテだ。
「領主様、本日は突然の来訪に関わらずお屋敷にお招き心から感謝いたします」
全体的にほっそりとした−−以前のここの村人達のような−−ご老人と青年が頭をさげる。
というより痩せ細っているといっても過言ではないだろう。
「いえ。わざわざ遠いところから足を運んでくれてありがとう。それで、あなた達は?」
「ご挨拶遅れて申し訳ございません。私はここより東の村の村長をやっております、ロマといいます」
丁寧に頭を下げる。
「そしてこっちの男はアルフと言います。今回の私の付き添いでついてきてもらいました」
「アルフと申します。本日は誠に感謝しております。以後お見知り置きを」
ロマを名乗る老人はよくここまで来れたな、というほどに細い。
アルフの第一印象は『好青年』だ。ポジティブに言うと優しそうだが、少し幸の薄そうな雰囲気を醸し出している。
「ああ。よろしく頼む。俺はサカモトだ。それで、今日はなんの用件でしょう?」
「はい。私の村で最近ある噂が持ち切りでした。それは皆、『信じられない、でもどうしても気になる』と口を揃えるものでした」
「ほう。その『噂』というのはどのような?」
心の中で『にやり』と笑う。
「はい、それは『隣村に新しい領主様が来てから食材が豊富になり、見たことも聞いたことも無い非常に美味しいものがたくさんある』、と……」
「なるほど。それでロマさん、あなたの目にはこの村はどう映りますか?」
隣村の村長は頷き答える。
「まさに楽園です。このお屋敷に来る道中、少し見させて頂きましたが噂に違わない村だと」
隣村の村長はまだこの村の食べ物を口にしてはいなかったはずだ。
しかしそれでも楽園と評するのは、緑の生い茂る畑が至る所に点在しており、木々のそびえ立つ一画には見たことも無いような果実が豊富に結実していたからであろう。
「なるほど。それで?」
つまりどうしたいのか。
「はい。私達をみての通り、みな飢えております。穀物や野菜が育たず倒れる者も増えてく一方です……。私にはもう見ているだけなんて辛くてできませんでした……。それで、無理を承知でお願いに参りました。どうか私の村も救ってくださらぬでしょうか……っ」
苦悶の表情を浮かべながら老人は頭を上げる。
青年もそれに続き頭を下げる。
しかし答えは決まっている。
「うん、いいよ」
「やはりそうですよね……。そんな簡単に救ってぇぇえええ!! いいんですか?!」
「うん。いいよ」
「な、なんと寛容なお方……ご厚意感謝いたします……」
2人が驚愕の表情を浮かべながらもほっとしていた。
「ただし条件があります」
「分かりました。して条件とは?」
「はい。村の人全て、この村に移民してきてください」
「な……?! 私たちからすれば願っても無い話です! で、ですがそんなことしたらこの村の負担が……!!」
「もちろん救うとは言いましたが何百人も移民させ、タダ飯を食べさせる余裕はありません。だから一緒に作物を作ったりしてください。作り方も全て教えます。その代わり生活は保証します。そしてこの村の発展の為に力を貸してほしいんです」
「な、なんと……」
老人は驚く。
「村長……」
青年は泣きそうな目をしている。
「ぜひ! 私たちで出来ることであればなんでも協力します!」
「決まりだな。これから、よろしくな!」
−−ただただ2人の男は涙を流し喜びを表していた。
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自分で書いてて、カレーめちゃ食べたくなりました。




