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第9話 狼人と果樹園

 




 薄青銀の髪を(なび)かせている少女と、狼の耳と尻尾を持つ−−狼人(ルーガル)だ−−筋骨隆々の青年が一つの『盤』を挟み相対していた。

 そしてその周りを村人達が囲っていた。



「王手!」


「……あー参った参った! またかよー。シルお前ほんと強すぎだわ……」


「そうかなー? えへへー」



 どうやら決着がついたようだ。



「ダンテは目先のことしか考えていないから、すぐに詰んじゃうんだよ〜。もっと1手2手だけじゃなくて、20手、30手先くらい読まないと! 変化も含めたら200手先くらいだよ!」



 おいおいそりゃプロレベルだぜ。お前はどこまで強くなるんだ。竜王にでもなる気か。



「お前そんな先まで読んでんのかァ? ありえねぇぞ」


「違うよ? ダンテが相手だと5手先くらいしか読んでないよ!」


「お前バカにしてるだろ。仮にも俺のが全然年上だぞ」


「バカにはしてないよ〜。ちょっと物足りないだけよ」


「くッ……。こいつ……」


「ダンテ早くどいて! 次は私の番なんだから!」



 村の女の子がダンテを引っぱり椅子からどかそうとしている。

 どうやら皆で将棋の勝ち抜き戦−−シルの全勝だが−−をやっているようだ。


 今もダンテ−−シルの古馴染みで兄的存在らしい−−と対局をしてぼっこぼこにしていた。



「わーってるって! そんな引っ張んなよ!」



 そういいながらダンテは椅子から立ち去り俺の隣に立つ。



「よォ領主様。あいつに変なおもちゃ渡しやがって……」


「そんな事言われても……俺もあそこまで強くなるなんて思わなかったよ……」



 ダンテが含み笑いをしながら渋い顔をしている。

 妹分に負けるのがよほど悔しかったのだろう。



 最近ダンテと仲良くなったのだが、ほんっとうにシルの事を大切にしている男だ。

 背丈も高く、ガタイも良い。頭は……ちょっとぴーぴーだがとても良いやつだ。



 いつも畑の様子を見に行くのだが、誰よりも鍬をがっしがっしと振りかざしていて話しかけたら意気投合したのだ。


 皆には内緒で『枝豆』をつまみに『ビール』を飲む時もある。


 今まで気の合うやつがいなかったのだが、こいつと話をする時は何も考えなくてすむ。



「なあダンテ、お前確か1区に住んでんだっけか?」


「あァ。そうだぜ領主様ァ。それがどうした?」


「……チサノで良いって言ってるだろ?」


「村の奴らがいるんだ。おめぇは見下されたらダメなんだからよォ」



 気のいいやつだが、こういう気遣いはしっかりしている。イケメンだ。



「で? それがどうしたってんだ?」


「まだ皆には話してはいないんだけど、11区を作ろうと思っててな」


「11区だァ? 皆家には困ってないんだぜ?」


「いや、家はまだ要らないんだけど先に土壌改良して整備したいんだ」


「なるほどォ。そこに野菜でも作るってこったな?」


「惜しい。あそこは果樹園にしようと思ってる」


「果樹園……。!! 果物か!」


「ああ。もうすぐ収穫祭の後に植えた作物も出来るだろ。まあ飽きる……ってことはないと思うけど、果物あるとテンション上がるだろ?」



 俺は『にやり』と顔を歪める。



「お、おォ! まじかァ! 俺ァ嬉しいぜ! 流石だな領主様(・・・)! それでこそ男ってもんだァ!」 


「ははっ。そういってくれると嬉しいよ」


「で、それを俺に話してどォすんだ?」


「あぁ。皆今の仕事も少し余裕出てきただろ? だから各区から5人ずつ集めて、それをお前に束ねてほしいんだよ」



 俺も色々と作業やスキルのレベル上げもしなければならなくて、あまり余裕がないんだよなぁ。

 かといって、そんな簡単なものじゃないからよほど信用できる人じゃないと頼めない。



「おいおいまじかよ。そんな大役俺に任せてもいいのかァ?」


「ああ。お前だから任せられる。頼まれてくれるか?」


「へへッ。ありがとよ……。……領主殿、その大役この俺ダンテがしかと承った……」


「お、おいおいやめろよ! 急にかしこまりやがって!」



 ほんとこういう時、礼節がしっかりしている。だからこそ信頼できるんだがな。



「うっせェ」


「ふふっ。頼りにしてるぞ」


「ああ」



 これで果物を定期的に収穫出来るようになれば、皆のモチベーションさらにアップだ!

 俺の税金ハーレムスローライフの為にはまだまだ足りないが、着々と進んでいる……ふはははは。






 ※※※※※※※※※※






 次の日ダンテは各区からメンバーを集めてきてくれた。



 皆に概要等を説明した。



 ・11区は区を2つ分合わせた広さにすること。


 ・土壌改良剤や肥料を渡し、土壌の作り方を覚えること。


 ・愛情を込めて育てること。


 ・収穫するまで動物に実を食べられないように気を抜かないこと。


 ・果物は結実するまで何年も時間が要する。だから俺がたまに特別な『お世話』をしにくること。



 この5点をレクチャーした。


 まあ今回の肝は『お世話』なのだが。

 この世には『桃栗三年柿八年』という言葉がある通り、果物は育つまでかなりの年月を要する。

 それに天候等でダメになる時だってある。……まあもしそんなことが起こってもなんとかしてしまうけれども。


 今回は皆のモチベーションをあげる、という点に重きを置いているため自分達で作ってもらうのだけど、流石に何年も待っていたら逆にストレスを抱えさせてしまうだろう。

 だから、俺がたまに『お世話(【促進】)』をすることでさくっと作っちゃう作戦だ。もちろんお世話の内容は秘密だけど。


 しかし裏技を使いはするが、果物の作る行程や大変さは伝わるだろうから、大丈夫だ。問題ない。



 ちなみに作る果物は、



『いちご』

『ぶどう』

『桃』

『みかん』

『はっさく』



 この5種類だ。



 まあ季節的なことは色々あるけど【促進】させちゃえば問題ない。

 あ、もちろん季節のことは説明してある。全て俺の『お世話』で何とかなると教えているのだがね。




「−−みんな分かったか?」


「わかりましたー!」

「任せてください!」

「やったるでー!」



 元気な声が飛んでくる。


 うん、良いメンバーだ。

 さすがダンテ。また晩酌にでも誘ってやろう。



「よし! じゃあここは頼んだぞ! たまに差し入れも持ってくるからな!」


 歓声があがる。


 うむ。フォローは抜かり無い。




『チームダンテ』に種を渡し、11区『果樹園(予定)』を後にする。






 「そろそろ……かな……」

 そう呟くと、休むこと無く次の計画を開始する−−。









皆々様、読んでいただきありがとうございます。

今回はあまり女の子の会話が作ることができず私は大変つらいです。。。きっとそのうち。。。

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