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ミリオン・ノベル・チャレンジ  作者: 潮路
1-A:脳内会話
5/7

著者は10000ポイントのダメージを受けた


 熱いストーブの上に1分間手を当ててみて下さい、

 まるで1時間位に感じられる

 では可愛い女の子と一緒に1時間座っているとどうだろう、

 まるで1分間ぐらいにしか感じられない。

 それが相対性です。   ―――アルバート・アインシュタイン



 脳内効率委員会とか、こっちが恥ずかしくなるようなネーミング、やめてもらえる?


 その言葉に逆上した黒服細胞達が一斉に殴りかかってきたが、左脳が慣れた手つきで壁のスイッチを押すと、壁から触手が伸び、細胞の身体を縛りあげた。

 こうして、面目丸つぶれとなった脳内効率委員会。相も変わらず口をぱくぱくさせてばかりいる代表に向けて、左脳が語りだした。

 

 お前達と話すのは正直面倒くさい。話したところで、どうせ通じはしないだろうから。だが、伝えなければ後味の悪い気分にもさせられるのも事実だから、ここではっきり言っておく。

 私達の主人マスターはな、小難しいカタカナ語や、四字熟語が似合うような格好いいやつじゃないんだよ。ポテチ食いながらボリボリケツ搔きむしって、その時に屁でも一発出りゃあ、こりゃめでたいネなんて考えていやがる、心も体もすっかり薄汚れた、自惚れ大好きうすのろ星人なんだよ。

 放っておきゃ、勝手に痛い目見るなり、現実を直視するなりして反省するかと思いきや、お前達が要らん世話をするもんだから、このまま生きていても大丈夫だろうなんて甘い見通しを立てるようになった。効率なんて言っているが、実態のところは単なる手抜き、怠けの正当化をしているだけじゃねえか。

 余計な情報は全部検閲しているから、愚鈍な主人マスターは毎度同じようなことをやって、同じように後悔する。こんなことがあれこれ10年続いているんだ。臨終間際に後悔させる気満々か。

 その証拠になんだ。「効率化」という名目で私達から奪い取った時間を何に使っている?

 ボーっとしてるのか、動画を見ているのかは知らんがな。私はここ最近の休日、どんなことをして過ごしたか全く記憶に残っていない。

 私だけじゃない。左脳のネットワークに位置する住人全員が、週末の出来事を聞いても首を横に振るだけだ。皆一様に「その時間を確かに過ごしたことは事実だが、何をしたのかは全く印象に残っていない」と返答していたんだが、まさか、それすらも「効率化」で片づける気じゃないだろうな。

 知る必要の無い不適切な記憶として消去しているじゃなかろうな。

 だとするならば、脳内効率委員会がやっている所業とはまさしく……


 人生の浪費。お前達の大好きな主人マスターにとって、害悪にしかならない行為だ。

 


 脳内効率委員会の連中が、部屋中に張り付けたC4爆弾を取り除いている間、私と右脳は外で待機していた。

 双方とも顔を背けているので、実質背中合わせのようになっている。


 なあ、左脳よ。どうして助けてくれたのか、教えてくれないか。


 右脳の声は掠れるように小さい。それが聞き取れない訳ではなかったが、あえて聞き流そうとする。

 無視するなよと言わんばかりに、背中を指でつつかれる。むずがゆさが全身に行き渡り、思わず反射的に平手打ちをしたい衝動に襲われる。

 衝動を我慢しつつも、必死に言い訳を考えてみるが、作り話は右脳の得意分野で、私はそういう利口な手が使えない。

 はあ、と一息ついて、正直な気持ちを打ち明けた。


 お前の提案してくれた、ミリオン・ノベル・チャレンジ、な。あれ、案外悪くないかもしれないと思ったんだよ。で、その機会をあいつらに潰されるのは癪だったんで、助けた。


 右脳の声に久しぶりの活気が戻ってきた。脳内実装委員会が乗り込んできた話から、随分時間経過しているからな。

 そうかそうか、ようやく私の計画の素晴らしさを理解したのか、アッハッハーなどと今までの弱気な態度はどこへやら。すっかり有頂天である。

 そんな姿にどこか安堵しながら、私は話を続けた。 


 ああ。もっと自信を持って良いと思うぞ。なんたって、何の意図も持たない小説を延々書き続けさせられるなんて、苦行以外の何物でもないからな。そういう時だけ時間がやたら長く感じられるもので、2時間書いたと思ったら30分しか経過してないこともある。それが中々お得だなあと感じたのだが……ん?


 反応がないので、右脳の顔を見てみると、何故か仏頂面を浮かべていた。

 いつ見ても、不思議な奴である。



 左脳がちまちまと家計簿をつけている間に、右脳は小説を執筆していた。

 片方は一円単位での支出の計算でぶつぶつ言っているし、片方は100万文字の超大作に載せるにふさわしい、主人公の容姿についてぶつぶつ言っている。

 両者の顔は、さながら般若とおかめと言わんばかりに相反していた。

 なあ、とお互いの声が重なった。普通ならばここで、お互いに譲り合う展開となるはずだが、そうはいかないのが傲慢な筆者の脳細胞である。


 お前、私がいないうちにチョコレート買っていただろう?

 冷静系か情熱系どっちが良いと思う?

 しかも高いやつを買っている。250円の損失だぞ、損失。

 冷静系は良いよな。どんな問題でもクールに受け流せる主人公は、短編でも長編でも動かしやすいし、いざって時のギャップが映えるものな。

 コストパフォーマンスからすればだな、100円ショップの外国製の板チョコをまとめて買えばいいんだ。100円とちょっとで150グラムだぞ。

 でも情熱系も捨てがたいよな。なんたって王道だよ、王道。他人の心を動かし、果てには国すらも動かしていくんだ。そんな作品も書きたいよな。

 大体、コンビニに置いてある話題の新商品なんていうのはな、1か月もすればある程度は割引されるのだから、少しは我慢したらどうだ。

 どっちも我慢しろだって?それじゃあ仕方ないな。書きやすいのでいけば、小物みたいなやつとか、仙人みたいなやつとか……

 また、そんなものに時間をかけているのか。

 え?まだ書けてないよ。

 本当に協調性が欠けているよな、お前って……


 お互い様の彼らの旅路はまだ続く。

三日坊主を克服するのに、三日かかるという矛盾。

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