第二話 こうして私は異世界に来ることになった。
色々と使い方が分からず、右往左往しております(笑)
感覚では、一週間に一話書けるのかなと予想してます。
二話では、玲奈の過去語りをしています。彼女の過去の一部分が早くも分かるわけです。
それでは、どうぞお楽しみください。
第二話 こうして私は異世界に来ることになった。
「はーい!一旦止めるね。ちなちゃん、どうしてそこ感情引っ込めたの?」
「すみません。ちょっと言い過ぎるのは相手にひどいかなって思っちゃって。」
「この役は確かに引っ込み思案だけど、不満が溜まりに溜まって爆発するんだから、そこは気遣わなくていいよ。あきもその方がやりやすいだろうし。」
「私もここ、思いっきり来てくれたほうが返しやすいから。ちな、やっちゃって!」
「あ、はい!思いっきりやりますっ!」
「はい、じゃあ、第6場の佳奈子の台詞、『もういいっ!』から行くねー!よーい、はい!」
あれ?いつもの日常だ。演劇部のいつもの稽古。みんな和気あいあいとしていて、でも、凄くやる気に漲ってて。なんだか懐かしく感じる。最近、ピリピリしてて、こんな風に楽しくやってなかったからなぁ…。やっぱ演劇部はこうでないとね♪
それにしてもビックリしたよねぇ!昨日の夢に出てきた、猿の男と亀の男にはwww
やっぱ疲れてたんだろうなぁ。よし、じゃあ、稽古に戻らない、と!
…え?あれ?ふんっ!…あれ?体、動かないんですけど?
私には時々こういうことがあった。状況を見ているだけで、そこに今の私はいない。ただ、その思い出のようなものを、"そのときの私"という身体を通して見ることだけ。
こういう現象が起こる理由は分かっている。
夢だ。これは夢なのだ。気づいてしまえばなんてことはないが、いつもそれに気づくまで、私は"私"を動かそうと、夢の中の運命を変えようと必死なのだ。私は抵抗をやめ、大人しく成り行きを見守ることにした。
「ねえ、部長!ここやりにくいですよ!普通で良くないですか?そんなに重要なシーンでもないし。」
「あき、気持ちは分かるけど、思いっきりいこっ!それにここで悔しさを滲ませることで、あとの争いが活きてくるんだから。じゃあ、もう一度同じところからね!」
「無理ですよ!もう喉も痛いし…。明日にしません?」
「だめ。辛いのは皆一緒だし、今日、ここだけは完成させたいから。それに本番は喉痛いとか言ってられないんだよ?だから、もう少しだけがんばろ?ね?」
「…はい。」
………。
そうだ。みんな高校演劇コンクールで金賞取りたいって。だから、そのためにみんなで本気で頑張ろうって決めたんだ。なのに…。
「ねえ、聞いた?あきちゃん、喉潰して病院に行くことになっちゃったんだって。」
「俺も聞いた。あきは頑張ってたのに、部長が違うって言って何度もやらせるから。ひどい話だよな。」
「中嶋くん、言い過ぎだよ。部長だって良いもの作ろうと頑張ってたんだよ?」
「それは分かるけど、私も部長はひどいと思う。これであきちゃんの声が出なくなったしたらどうするつもりなんだろう。コンクールに出られなくなっちゃうよ…。」
「しっ、部長がくるよ!」
「おはよう、みんな。あきのことは聞いてると思うけど、さっき連絡あって、症状はそこまで深刻じゃないから、薬飲めば一週間ほどで治るって。大変なことにはなってるけど、ここが頑張り時だからね。あきの分までしっかり稽古しよ!」
(大変なことになってるのはお前のせいだろ…。)
(みんなに謝りもしないんだ。)
(私もあきちゃんみたいになるのかな…。)
まったく、良く出来た夢だ…。この世界では人の心の声まで聞こえるんだもんなぁ。
演劇部部長として舞台の成功に向けて頑張るあまり、私は色んなことに気が回らなくなってしまっていた。
徐々に稽古も空気が悪くなり、結果部員たちの心は離れてしまった。
この日も、稽古にやってきたのは、二人だけだった。みんな何かしら理由をつけて稽古に来るのを拒んでいた。
その日の稽古で何をしたかも覚えてない…。
帰り道、私はまっすぐ家に帰る気にもなれず、通り道にある公園に寄ることにした。
夕方とはいえ遅い時間だったため、公園には誰もおらず今の私にはちょうど良かった。
そこでふと、私の目に入ったのは、昔良く遊んだブランコだった。
立ち漕ぎでジャンプしてどこまで飛べるかなんて競争を、男子に混じってやったもんだ。
「よし!久しぶりにやってみますか!」
"私"は、そう高らかに宣言し、おもむろにブランコの鎖に手を掛けた。
ガチャガチャと音を立てるブランコ。あれ?こんなに鎖って細かったっけ?そんなことに驚きつつ、ゆっくりと板に両足を乗せる。体重で揺れるブランコ。この浮遊したような感覚が懐かしく、少し気持ちが高揚した。
"私"は後ろに揺れると同時にしゃがむような体勢で勢いを付ける。
キーコキーコと揺れに合わせて鎖が鳴る。それに合わせて景色も前後に動く。
『柵を越えると願いが叶う』
そう誰かが言い出したのを思い出した。柵というのはブランコによる事故を防止するための柵だ。子供の頃は届かなかったんだよね、結局。
今の私の願いはどうだろう?そんなことを思っていた。
私は、ただ、みんなと楽しく素敵な舞台をやりたい…!
あの時見た舞台のように、思いっきり、情熱的に、魂の叫びを、表現したい!
お願いします!私の願いを叶えて!
怖くて固く握った手を更に握り混み、足に力を込める。ブンと風を切る音が耳に入ってくる。ブランコの鎖が45度に到達した瞬間、手を離す。物理で習ったんだ。この角度が一番遠くまで跳べるって!
"私"の身体はふわりと飛び上がり、黄昏の空に綺麗な放物線を描く。
やった!柵を超えた!
そして、着地だ、と思ったときだった。目が覚めたのは。
「大丈夫か?お前?」
「君、僕らを見た途端に気を失ったんだよ?覚えてる?」
起きたばかりで思考が働かない…。男の声が2つ聞こえてくることだけ分かった。
心なしか夢で見た猿と亀の男に似ている気がした。
「さてはお前、タート族見たことねえんだろ?確かにこんな変な顔見せられたら気絶もすらぁなww」
「ち、ちょっとひどいよ!ポッキー!もしかしたら、モンケヨル族の君の顔を見て気絶したのかもしれないじゃないか!」
「はぁ?んなことあるわけねぇだろ!天下のモンケヨル族だぞ!お前みてえな、ちっせえ島に暮らす特殊民族と同じにすんじゃねえ!」
へ?なに?…たあと?ぽっきい?もんけよる?何の話をしてるんだろ?
明かりの眩しさに目をそばめつつも状況把握に努めてみる。
男が二人…。何やら言い争っている。そして、その横顔は夢に出てきた猿と亀だった。
人の胴体にくっついているから不自然極まりない…。そのインパクトにまたもや目がくらみそうだ。
「うそ…?なにこれ?夢から覚めたらまた夢…?」
「だからー!…ってどうした娘っこ?これは夢じゃねえぞ。お前、うちの倉庫に盗みに入ったろ。話を聞かせてもらうかんな。」
「まあ、まだ取ったって決まったわけじゃないけどさ。でも、どうやってあそこに入ったの?」
「…え?これ、夢じゃないの?」
「あぁ。」
「うん。」
「うそ。」
これは紛れもない現実だった。私は何がどうなったのか、見知らぬ土地に飛ばされて、もとい、跳んでしまっていた。
いかがでしたでしょうか?
あまり長くなりすぎないよう調整していますが、長いようならコメント等に書いていただけると助かります。半分に分けて投稿しようとも思いますので。
マールー富山