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85話 岬の七人


──「ミサキ・レッド!」


俺の前で、何やら決めポーズを取り、高らかと名乗りを上げる一人の男。

キリリとした精悍な顔つき、鍛え上げられてはいるがスマートな体格。


そして続けざまに、彼の仲間と思しき

幾人もの男女がポーズを取り、名乗りを上げてきた。


「ミサキ・ブルー!」

「ミサキ・イエロー!」

「ミサキ・ピンク!」

「ミサキ・グリーン!」

「ミサキ・ブラック!」

「ミサキ・ホワイト!」

「ミサキ・バイオレット!」


そんな全員の名乗りが終了すると、横一列に整列し



『 我 等 ! 七 人 ミ サ キ ! 』



直後、彼等の背後に爆発が起こり、各々を模した色とりどりの爆煙があがる。

やがて煙が晴れると、一糸乱れぬ動きで一斉にポーズを決める。


「ドヤァ…」とでも言いたげな顔をして、彼等は俺たちを凝視する。


……この事態に、俺はいささかの軽い頭痛を感じ、こめかみを揉みながら

未だにポーズを取り続け、何かを期待しているような彼等に尋ねた。


「…いま何って言いました?」


この俺の発した一言に、彼等の間には動揺の色が走った。


『 ザワリッ!! 』


彼等は途端にざわつき始め、

やがてリーダーと思しき旅の僧形に赤の黒衣を着た人物が

唇を噛み締め、意を決したかのような表情で、一歩前に出て…


「ミサキ・レッド!」


再び名乗りを上げたのだった。


「そこじゃねえよ! 最後だ! 最後らへん!」


お約束のボケに、堪らず些かキツめの叱責の叫び声を上げる。

そんな俺の指摘に、紫色の衣装を着た小柄な女性が

オドオドとしてビクつきながら前に進み出てきて…


「ミ、ミサキ・バイオレット!」


「違う!その後のセリフだ!」


俺の魂の叫びに「はい!スイマセン!」と、目に涙を浮かべながら仲間の背中へと逃げていく。

そして彼等は困惑しながらも


『…えーと…我等七人ミサキ?』


自信なさげに、名乗りを上げてきたのだった。

まあ良い。ここは良しとしよう。


だが、本当のツッコミはここからだ。



「…ひい、ふう、みい、よお、いつ、むう、なな…やつ。」


隣に居た古風な英国ヴィクトリア朝風のメイドが眉間にシワを寄せ、小さな声で数を数え直していた。

俺に仕える子狐の式神の銀色である。


そんな彼女は、長く美しい銀髪をフワリと翻し、俺の方へクルリと振り向き叫ぶ。


「あるじ様! やっぱり、何度数えても8人いるでありまする。」


…ですよねー。

その言葉に思わず頷き、七人ミサキたちに尋ねる。


「おかしいと思わない?」




 8 人 い る が な !




***********************


「ふぅー!!」


この愉快な8人を前に

可愛らしい牙を剥き威嚇の表情を見せる、式神メイドの銀色。


「あるじ様に仇なすなら…容赦しないでありまする!」


妖怪七人ミサキ。


7人組の怨霊で、出遭った人間を病気などにして取り殺すという妖異である。

取り憑いた人間を死に至らしめると、7人の怨霊の内の一人が成仏し

7人組を常とし、増減することはない。と伝えられている。


はずなのだが…


「…勘違いしないで欲しい。」


さっきから幾度も人数を数え直している俺と銀色へと

ミサキ・レッドと名乗った男が語りかけてきた。


「吾々はヒトに害をなる、悪霊の七人ミサキではない。安心して欲しい。」


怨霊ではない七人ミサキ?


「そう…我等は正義の七人ミサキ!」


セリフを決めると同時に再びポーズを取り始める…いちいち全員でポージングしなくて宜しい。

しかし、正義の七人ミサキだと?一体それは何だ?


まあ、悪霊じゃないのは理解できたけれども

人数のほうの問題は、まだ納得できてませんよ!


そんな俺のツッコミに


「説明せねばなるまい。」


とクールな印象の青い装束をしたミサキの一人が答える。

それを、でっぷりとした体格をした黄色が引き継ぐ。


「溺死した者の怨念の集合体が、妖怪七人ミサキと成るでがんす。」


「我々も溺死した人間の集合体として妖怪化した存在だ……。だがッ!」

「私達は全員が溺者を救助しようとして、命を落とした者たちッ!」

「弱気を助け、強きを挫くッ!そんな熱い想いを持った人間の霊体の寄り集まった存在ッ!」


更にグリーン、ピンク、ブラックの三人が被せるように解説を入れてくる。


「それが我等、 正 義 の 七 人 ミ サ キ ッ ! 」


ホワイトの女性が、歌い上げるよう高らかに説明をシメる。


「ナントッ!……すると皆さんは生前はライフセイバーさん達か何かだったとッ!?」


「いえいえ、単なる正義感の強い素人集団でしたッ!」

「みんな後先考えずに救助に行ったら、しがみつかれて溺死しちゃったのよね。」

「単なる二次遭難の犠牲者集団かよ!?」


ボクちゃんの感動を返して!


「そして恐らく君たちの云う、ヒトに仇なす七人ミサキとは、暗黒七人ミサキ衆!」


……あちこちに居んのかよ七人ミサキが。


「ウム。暗黒ミサキを首魁とする、恐るべき悪の妖怪だ。」

「かの者の下に、集う暗黒七人ミサキ四天王…暗黒七人ミサキ12神将などが…」


「おかしいでありまするッ!」


「キミ達もそうだけど、暗黒何とやらも数がおかしいッ!」


たまらずツッコミを入れる俺と銀色であった。



「えッ!? …いや、そんな事言われても。」

「そうよッ! 他にも七人ミサキ28部衆とか、七人ミサキ108星とかもいるんだから!」


そこは抑えろよ!数をッ!7人で!


「さ、最近のお約束では1,2人とか少し多いのが当たり前でして。」


どこのお約束だよ!?


「リーダー!…やっぱり私が要らない子なのでは?」


紫色の衣装の美女が涙を流しなら、そんなことをのたまう。

泣くようなことなのか?


「イヤ!…そんな事はないぞ!キミあっての七人ミサキなのだ!」


いや、いや、いや、8人いたらおかしいってば。


「そうだぞバイオレット!リーダーの言う通りだッ!」

「貴重な女の子枠を減らすとか、訳わかんない!」

「どうせリストラするなら、デブっちょのイエロー辺りをだね…」

「オイッ!?」

「よく考えてッ!黄色枠は大事よ?」


…七人ミサキたちの間で内輪もめが始まったんだが。

しばらくそんな醜いリストラの押し付け合いをしていたと思ったら


なんかイキナリ逆ギレ気味になってきたらしく


「ちょっと前までは3人でやってたら「足りない!」罵られたし」

「じゃあって事で5人に増やしたら今度は「舐めてんのか?」って怒られ」

「…増えたら増えたで「多い!」怒られるのはおかしいですよ!納得いきません!」




枠が7人埋まったところで止めときなさいよ!


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