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84話 砂をかける少女


──すっかりと肌寒くなった時候

遅くなった会社の帰り道、近道するために公園を通り抜ける。


俺の隣で付かず離れず付いてくる、長い銀糸の髪のメイドさん。

我が家の素直で愛らしい小狐式神の銀色である。


俺の視線に気づくと、ニコッっと微笑み返してくれる。

「癒やし」という言葉を擬人化したら銀色になるのかもしれない。


…そして、もう一方の隣には態度の悪いミニスカ茶髪ギャル。

我が家で飼っている座敷わらしの童女わらめである。


「傲岸不遜」という言葉が人化したらこうなるという悪い見本である。


「ケンカ売ってんのか?てめーは?」


ケンカ?

争いは同レベルのものの間でしか起こらないのだ。

であるから、決してケンカには発展しないのである。


「オメーとはいっぺん決着つけなきゃならんようだな?」


腕まくりをしつつ、物騒なことを抜かしてくる座敷ギャルであった。



──そんな俺と童女とのやり取りを

困惑の笑顔で冷や汗を垂らしながら眺めていた銀色だったが

突如ビクリッとして即応態勢の構えを取る。


見ると童女も公園の深い闇を、険しい表情でヤブ睨みしている。


「…妖気だ。」


オオッ!これはアレだな。

あの有名な妖怪フェーズドアレイレーダーってやつですね?


そしてその直後のこと、俺の顔に何かパラパラと降り掛かってきた。

顔を撫でるとジャリッとした感触、拭った手の平をを見ると、それは砂粒だった。


「…これは砂?」


ピンときたッ!

遂に妖怪さんにも、あの超メジャー妖怪キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!

姿を現せ!砂かけばばあ!


闇の中から不気味な含み笑いの声が響く

「…クスクス…うふふふ。」


風もないのに砂塵が舞い上がり、俺達の前に現れたのは…

砂色の和装に白い被布を羽織り、目刺し髪をした



「 幼 女 や な い か ッ !? 」



砂かけばばあじゃなかったよ!

改めて見れば七五三のような年格好の女の子だッ!


この俺の魂の問いかけに砂かけ幼女をヒョイと抱っこして

あやしていた銀色がポツリと答える。


「11月でありますしね…」


いや、そういうもんなのか!?

ババア要素どこよ?


「ナニ抜かしてんだお前は?」


呆れた口ぶりでお座敷ギャルが呟く。


「…あたいを見ろ。」


…結構おっぱい大きいですよネ?


「ソコじゃねえよッ! どこ見てんだお前は!?」


真っ赤な顔をして、両手でバストを隠す座敷わらし。

自分で見ろ、と言っておいて何という勝手な言い分であろう。


…お尻の方だったのか?


「違うわッ! あたいは何の妖怪だッ?って聞いてんだよ!」


えーと、確か童女は座敷わらし…認めたくないけどネ!


…あッ!そうか!


一般的に考えられてる座敷わらしってのは子供の姿をした妖怪だった。

だが、童女はコトもあろうに茶髪のミニスカギャル姿だったよ…トホホホ。


「オメーのガッカリ感は、この際ど~でもいいんだよ!」


銀色の抱っこから「おろしてー、おろしてー」と叫び

俺の足元で「キャッキャ!」とはしゃいでいる砂かけ幼女をマジマジと見る。


「砂かけばばあってのが最初からババアだと思うか?」


そんな童女の問いかけに、俺は砂かけばばあの生態を想像する…


砂かけ赤ちゃん

砂かけ幼女

砂かけ少女

砂かけ妙齢女性

砂かけ熟女

砂かけおばさん

砂かけばばあ

砂かけ後期高齢者


砂かけ婆ってか、妖怪って出世魚かなにかのようなモノだったの!?


そんな恐るべき現実に衝撃を受けていると

砂かけ幼女が、俺のズボンを掴んで引っ張ってきた。


「な、なんだい?」


屈み込み、砂かけ幼女の目線で尋ねる。

するとこの愛くるしい幼女は「エヘヘー」と、はにかむように笑う。


「エイッ!」


と、握った手から砂を俺の顔にぶつけてきたのである。


「ああああああああッ!目がッ!目がッ!」


砂が目に入ったッ!

幼さゆえの残酷さと言うか…トンデモねえイタズラっ子だ!


「まあ、砂かけ女の本能なんだろうなあ…」


ヤナ本能だなッ!ヲイ。

恐ろしい子ッ!



──水飲み場で目を洗い砂を洗い流す。

銀色が心配そうにタオルを差し出してくれる。


「ふぅ…ひどい目にあった。」


それにしても幾ら妖怪とは言え、こんな夜の公園に幼女が一人でいるとは

親御さんの砂かけママはどうしてんの?!


「ここが公園でありまするから、遊ばせていたのでは?」


真剣な顔で、そんなことを曰わってくる銀色。


こんな夜中にですかッ!?


ロリコンにでも見つかったら大変ですよ!

幼女だと思って油断して近づいてきたロリコンが目に砂入れられるがなッ!


「そっちの心配だとは思わなかったでありまする…」


なにやら思惑の違いに、額に汗をかいた銀色がそう呟く。


「あのぉ…ウチの子がなにか?」


突然、成熟した女性の声が俺たちに掛けられる。

そこには砂色の着物姿の涼やかな印象の美しい女性が立っていた。


「かかさまッ!」


砂場で砂遊びをしていた幼女が件の女性の元へ、そう叫んだかと思うと一目散にと駆け出す。

裾にしがみつき「抱っこー!抱っこー!」と甘えるようにせがんでいる。


すると、この女性が砂かけ熟女…もとい、砂かけママ?


「まあ一部の特殊性癖を持つ男にとっては、砂かけババアかもしれないけどな。」


そこの座敷わらし、黙らしゃい!失礼でしょ!?


──憂い顔で何があったのかを聞いていた

砂かけママこと「真砂咲まさき」さん。ちなみに砂かけ幼女は「砂樹さじゅ」ちゃん。


「それは…それは…ウチの娘が申し訳ありません。」


深々と頭を下げる真砂咲さん。


…まあ子供の悪戯ですしネ。元気があって結構けっこう!


「…あるじ様って、大人の妖怪女性には甘いでありまするよね?」


ジト目でそんな指摘をしてくる式神少女。

そんな追求にツイと目をそらし聞こえないふりをする俺であった。


「…本当に何とお詫びをしてよいのやら」


砂樹ちゃんを抱っこして背中をポンポンと軽く叩きながら

謝罪の言葉を述べてくる砂かけ人妻。

腕の中の幼女はウツラウツラとしながら眠りにつきそうだ。


…憂い顔の人妻ってナニかいいよネ!

銀色の刺すような視線を気にしながらそんな事を考える。


「本当に目は大丈夫ですか?」


心配そうに俺の頬をさすり目を覗き込んでくる砂かけママ

くんくん、はぁエエ匂いがする。


「奥さんボクはもう大丈夫ですヨ?」


キリリとした表情を無理やり作り、そんな強がりをしてみる。


「…ほんとうに?」


だんだんと顔が近づいてくる。

嗚呼、いけませんよ奥さん!ボクには許嫁が三人もいるんです…


「えいッ!」


顔にいきなり砂がかけられた。

砂かけママが、砂かけの本能に逆らい切れずに、俺に砂をかけてきたのであった。


また目に砂が入った!ああああああああああ、目がッ!目がッ!



「お前。ちっとは学習しろよ!」



そんな座敷わらしの言葉が夜の闇に響き渡るのであった。


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