連込宿
皆さんは狐の好物と問われれば、何を連想されるでしょう?
「お稲荷さん」や「油揚げ」と思われる方も多いと思われます。
少しばかり調べてみますと、狐とは「肉食に近い雑食性」とあります。
そうです。狐とは基本的に「肉食獣」なのです。
連れ込まれた俺は、とっさに逃げようとした。
だが、女の手にムンズと掴まれ肩に担ぎあげられた。
「やめて!」
そんな俺の言葉を無視して
「さ、ひと汗流して往こうぞ。」
女は楽しそうな笑顔で俺を担いだままラブホのロビーへと向かう。
有り得ない。
通常の場合、こういった秘め事の行われる場所は
男が躊躇する女の手を引いて入るものだ。
どこの世界に嫌がる男を担いで入る女がいるというのだ?
なまじ華奢に見える金髪碧眼の美女が実に嬉しそうに
こんな事をしている。
注目を浴びないはずがない。
すれ違ったカップルは呆然とした顔をしていた。
男の身で悪漢に攫われるお姫様の気分など理解したくなかった。
無人受付ではなく有人式であった。
「大人二枚。」
遊園地の乗り物じゃねえよ!とツッコミを入れたが無視された。
さすがプロと言うべきか否か。この有様に何の驚きも見せずに
「部屋をお選び下さい。」との一言。
……ひょっとして、こういうカップルって多いの?と真剣に考えた。
鍵を受け取ると、そのまま部屋に連行されベットに放り投げられた。
彼女は後ろ手でカチャカチャと施錠しながら舌舐めずりをしている。
食われる!。色んな意味で!
そして彼女は、俺の側までやってくると
そのまま俺に覆い被さってきた。
「痛くしないで!」
常識的に考えれば、これは女性側が発すべき台詞である。
だが、何時までたっても何も起こらない。
俺の顔に何か熱いもがポタ。ポタと落ちてきた。
「ようやく。ようやく巡り会えた。」
玉藻は泣き笑いの表情で涙のしずくを落としていた。
「百年、二百年は必死で転生する主を探しまわった。」
「三百年目には絶望した。四百年目には自棄になった。」
顔をクシャクシャにして号泣する。
「せめて子供がいたならば。と思うたこともある。
さすれば魂と血の繋がりを眺め暮らすこともできたであろう。」
…女の涙は狡いな。
「誰も彼もが、我を置いて逝く。もう独りにしないで…」
彼女の頭を抱きしめて、そっと髪を撫でてやる。
しばらく玉藻の嗚咽が続く。
泣き止むまで俺は頭と髪を撫で続けた。
「落ち着いたか?」
「…ん」恥ずかしげに頷く
「せっかくの美人が台無しだ。ほら顔を洗ってこい。」
「前世の俺ってさ…どんなやつだったの?」
「そう。…強くはなかった。ヘタレでもあったな。」
今と同じかよ!
「それと助平でもあったわ!女房にするからと云って、祝言もせぬうちに我の純潔を奪った!」
うわー最低。
「あの時の破瓜の痛みは今でも忘れぬぞ!」
なんか…もう…うちの自重できない魂が色々とすいません。
「…でも、そのために殺されてしまった。」
玉藻は酷く悲しそうな顔で俺を見つめた。
どこかで100年200年の間に主人公探しまわった時代の
スピンオフの「玉ちゃん暴れ旅シリーズ」書きたいです。