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73話 YOU!鶴!


───ソファーへと三人並んで座り、ニコニコと笑顔満開の黒金銀の美女たち。


「初めまして、許嫁の雪音と申します。」

「我は玉藻じゃ、これの婚約者ぞ。」

「ボクは姫、夏樹のフィアンセだよ。」


それぞれの美女が互いに目を合わせぬようにしながら

自己紹介をニコヤカに言い放つ。


俺の隣へと座っていた、リーマン風の男がクルリとこちら側を向き

額に青筋など立て、どこかしら怒りを含んだ口調で俺に告げる。


「・・・姫神・・・お前な、重婚は犯罪ですよ?」


この男の名は中島 疾風はやて

高校から大学までの腐れ縁の友人である。


むしろ悪友と呼んだほうが良いのかもしれない。


「まあ待て、これにはマリアナ海溝より深いワケがある。」


我が家に友人が訪ねて来る。

そう伝えた所、斯様な事態になった次第である。


この場で否定するのは容易いッ!容易いのだが・・・

俺は、まだ生命が惜しいッ! 故に肯定も否定もしないのだッ!


この異様な雰囲気に怯え、額に一筋の汗などかきながら

メイドさんスタイルの銀色が九染の前にコーヒーのカップをソッと置く。


「こんな、かわいいメイドさんまで・・・」


なにか彼の言葉に、殺意が含まれ出してきた気がする。


「で、相談てなんだ? 」


殺意の波動にでも目覚められても厄介であるので

話を逸らすべく俺がそう尋ねると、「ああ・・・」と些か歯切れが悪い。

そして彼はチラリ、チラリと3人組と銀色を見る。


銀色は、深々と一礼し笑顔で「どうぞ、ごゆっくりでありまする」と言い残し踵を返す。


「あ、席を外しますね。」

「男同士積もる話もあるじゃろう。」


スクッと雪音さんと玉藻さんが席から腰を上げる。

姫はニコニコと座ったままだったが、両脇を雪音さんと玉藻さんに掴まれて強制退場と相成った。




───愉快な自称婚約者たちが退席すると、中島は話を切り出した。


「・・・実は、とある女性と交際しててな。」


そこまで彼が切り出したところで、俺は彼の語りを手で遮ると、そっと入り口へと近寄り

ガラリと勢い良く扉を開ける。


そこには愉快な三人組が聞き耳を立てたポーズのままで折り重なっていた。

「ケホン」と軽く咳払いすると、三人は「ホホホ」と笑いながら逃げていった。


「好奇心が強いのばかりでスマンね。」


「お前も、お前で大変なんだなあ・・・」


同情されたッ!


で、話を先程の話題へと戻すべく、話の続きを促す。


「まあ、さっき言った通りで交際する女性が出来た。」


「ふむふむ?」


まあ、20代半ば近くなれば、交際女性の一人もいるよね。

それから暫しの沈黙が続き、彼は躊躇いながら衝撃的な一言を吐く。


「そんなで、そんでな・・・子供が出来た・・・らしい。」


驚愕の一言であった。


「なッ!? 貴様! 童貞さんを卒業した自慢しに来たのかッ!? 」


「お前の驚く所はポイントはソコなのかよ!?」


中島は激高しテーブルをドンと叩き、ソファーから立ち上がり


「てか、許嫁が3人もいるようなヤツに、そんなこと言われる覚えはないッ!」


残念でしたー。俺はあの三人とはマダ何もしてないもんねー!

お生憎様ーッ!


・・・なんか哀しくなってきたわ。


それにしても恐ろしいッ! コヤツ桜会の血の掟を破ちゃったというのか!


説明せねばなるまい!

俺と中島の母校の大学グライダー部のOB会、通称「桜会」

結婚するまでは「えっちな事はいけないと思います!」を理念とする

魔法使い達によって指導されるという究極のOB会である。


会合においては大魔導師グランド・マスターと呼ばれる正体不明の大先輩が

鷲の置物の目を光らせて開会の挨拶をしてくる謎の組織でもある。


俺は、腕を組み脂汗を滲ませ中島に無情告げる。


「・・・これはOB会に報告すべき事案ですな。」


一瞬、怯みの色を見せた中島だったが

血相を変えて、俺にこんな事を告げてきた。


「そしたらお前が許嫁を3人も侍らかしてるのも報告してやんぞ?」


その一言で、俺には雷で打たれたような動揺が走る。


き、貴様ッ! 脅迫する気かッ!?

あのモテない先輩方が、そんな事を知った日には・・・


怪しげな三角頭巾を被った男たちに取り囲まれ

天上から吊るされた縄に縛られ、クルクルと回される自分を想像して戦慄する。


まるで部屋の空気が鉛にでもなったかのような、重苦しいまでの緊張感。

暫時の睨み合い、壁に掛けられた古風な時計の時を刻む音だけが、部屋に響き渡る。


その果てに俺が下した結論は


「うーん・・・参ったぁ。」


俺のその一言に、中島はすっかり冷めたコーヒーを口へと運び、喉を潤すと


「・・お互いに黙っていよう。」


相互のための安全保障条約の締結を提案してきたのであった。



───「で、ここからが衝撃の事実なのだが・・・」


ふんッ! 童貞じゃ無くなった事以上の衝撃の事実など・・・

きっと俺に自慢とオノロケ話するために来たのネ!


「・・・実は・・・実はな、彼女は人間じゃなかった」


「ふーん、だから何?」


「そこは驚けよッ! てか一番驚くとこだぞッ! コンチクショウ!」


彼はイキナリ立ち上がり、髪を掻き毟って激高し始めた


「あ、さては信じてないな?」


「信じる、信じる。」


今さら人外嫁とか驚く事かよ。そんなの珍しくもなんともないものねー。

中島はしばし絶句し「そうかなー? そんな物なのかなー? 」と首をひねった。


だって、今さっきお前が会ってた女性陣は一人として人間いなかったからな?


「それでどんな女性なんだ?」


「キレイな娘だぞ?」


「長い黒髪がキレイでな、肌も抜けるように白い。着物姿の似合う和装美人だ。」


「フムフム」


「そんで瞳が紅い。」


その時点で気づけってばよ。


だが、そんな特徴を持つ女性か。


・・・という事は。

そこの窓にへばりついてるのがそうかな?


我が屋敷の頑丈な窓の枠に、手と足袋の親指を使ってガッシリと掴まり

クワッ!と見開いた、真っ赤なまなこを爛々と輝かせて中を伺っている女性がいたのだ。


「ハニーッ! どうしてここにッ!!」


「 探 し た わ よ ッ !!  ダ ー リ ン ッ !!! 」


お前ら、ダーリンとかハニーとか呼び合ってるのか・・・



───「初めまして。鶴音・ソーネチカ・ミグと申します。人間で言えば25歳相当です。」


窓を開けて室内へと招き入れると、そんな自己紹介を始めた美しい一人の女性。

中島の説明通りの、黒髪紅眼の色白の女性であった。


「すでにお気づきかもしれませんが、わたくし鶴の妖怪でございます。」


頬を朱に染めて、口元を袖口で隠して

奥ゆかしく恥ずかしげに、そんな告白をなされる。


ああ、そうなの・・・でも今さらそんな殊勝そうに振る舞っても無駄だから。


くだんの鶴さん、もといミグさんは

白系ロシア人の血でも入っているかの様な顔立ちの美人さんでもある。

その和装姿は僅かに灰色味の入った白い着物姿で

そこに立体的な鶴の刺繍が施され、黒と赤の美しい帯で纏められている。


ただ・・・ただ着物の袖の部分に

何故か小さな赤い星が描かれているのが、ちょっとだけ気になる。


なんかマッハ3で飛ぶ直線番長みたいな名前の女性ね

それにジュラーヴリなのに名前はミグさんなんだ・・・


「どうぞ、ソーニャとお呼び下さいませッ! 」


彼女は・・・ソーニャさんは、すんごい良い笑顔で、そう言い放ったのだった。





───そもそも、こんな面白い・・・もとい素敵な女性との馴れ初めは何でしょう?


「なんで、こんな人外の女性と知り合ったんだ?」


コヤツも妖怪女性に好かれるような特殊な波でも出してんのかしら?

中島は腕を組み、フムと唸る。

何から説明したものか?と思案顔をしてから経緯を語りだしたのである。


「実は出張で、まあ北海道に行ってな。」


そうなの。で、お土産は?

中島は、そんな俺のお土産の催促を軽く聞き流すと


「函館空港の脇の草むらの中で、一羽の鶴が倒れてたのを発見してな。」


鶴が空港脇で倒れていた?

何かの事故? 航空機と接触でもしたのかしら?


「んで、抱き起こしたら「お腹減った・・・」って鶴がヒトの言葉を喋ってな。」


「あの時はВКС(ロシア航空宇宙軍)の追撃が激しくて激しくて・・・限界速度を越えて振り切ったので

お腹がペコペコになってしまいました。」


「で、食堂連れてって、ご飯食べさせた。」


鶴を? 食堂に? 

お前も案外と動じないな。てか判断がおかしいわ


ミグさんは、「キャッ!」と短く叫び、顔を赤らめ

「ダーリンてば、男らしくて素敵ッ!」と中島を褒め称える。


ええーッ?




───「そしたら、その日の晩だったかなあ?」


「夜に予約してたホテルでベッドに寝転がって本読んでたんだが」

「・・・いつの間にか部屋に忍び込んでた彼女が「恩返しです」とか言って枕元にニコヤカに立ってた。」


ご飯一食で恩返しとか、チョロすぎるにも程がある。

いや、そもそも忍び込んでくるのがおかしい。


「あんな親子丼セット程度で、恩返しなんてイイデスヨーと断ったのだが・・・」


「ちょっと待てや・・・まさか、お前は鶴に親子丼食わせたのかよ? 」


そういえばミグ25で日本に亡命してきたベレンコ中尉も

日本で出た親子丼を食べて、あまりの美味しさに感動した!とか言ってたな。

あれも函館空港だっけ。


「だって美味しいだろ親子丼。俺はカツ丼より好きだな。」


中島は俺に向かって、心底不思議そうな顔をしてそんなことを言ってきた。

たしかに親子丼も美味しい。だが、ソースかつ丼のほうが美味しいでしょ!

群○県民として!


「登○平の「鳥めし」も美味いよな。」


などと、俺と中島が他県民にはわからないような会話をしていると

それを黙って聞いていた、鶴のミグさんが静かに語り始めた。


「わたくしもダーリンの、そんな謙虚さ溢れるやり取りににブチ切れまして・・・」


顔を上げたミグさんは、目を細め妖艶に微笑み


「面倒くさくなりましたので「どッせーい! 」とダーリンをベッドに放り投げましたの。」


マジですかーッ!?


そんなミグさんの肉食系女子発言に、驚き中島を見やると

ポッと頬を赤らめて下を向き


「・・・んで帯を解きながら、「へっへっへ、ウブなネンネじゃあるまいし」とか口走りながら近づいてきてな。」


男が顔を赤らめてモジモジ、クネクネすんなッ!キモいわ!


「あの時のダーリンの「アッ───!!」って悲鳴が可愛かったですわん。」


絶句ッ! 何で!そうまでして恩を返そうとするのッ!

ねえねえ!どうしてッ!?


「受けた恩は、相手を拉致して、椅子に縛り付け、嫌がる相手の鼻を摘んで、無理矢理にでも口にネジり込んででも返せッ!というのが鶴の妖怪の生き様なのです。」


鶴の恩返しとは一体・・・てか、それはもはや恩返しじゃねえ。


「その結果、因果として生まれたのがこの卵ッ!」


ミグさんは懐をゴソゴソと漁ると、一つの玉子を大事そうに取り出して来た。


これはタマゴッ!? 卵生ッ! 

あかん!哺乳類ですらないッ!


ニヤリと悪い笑顔を浮かべ、美しい髪をウネウネと蠢かせドス黒いオーラを背にまとい。


「恩を受けた以上は絶対に逃がさないッ! 」


まさに妖艶なまでの色香をたゆらせながら、グッと拳を握りしめ

鶴としての魂の叫びを吐露してきた。


「例え地の果てまで追い詰めてでも、必ず恩を返しますよッ!」


ミグさんは笑顔で・・・だがその真紅の瞳は決して笑ってなどいなかった。


なにこれ怖いッ!

これは「本当は怖い鶴の恩返し」な事案ですよッ!



*****************************


その後、どうやら2人は結婚した。


どうやって鶴との婚姻を役場に認めさせたのかは分からないが

送られてきた一葉のハガキには、そう報告されていた。


あの時の卵も無事に孵り子供も生まれたようだ。

生まれた子は女の子で、名前は「中島・スターリナ・スホイ」ちゃん、通称スターシアだそうな。


皆さんは、鶴を見かけても迂闊には助けないようにネッ!

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