表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
71/88

70話 夏色セーラー服


───俺の目の前にいる2人の少女。


昨今では珍しくなった、白を基調とした夏色のセーラー服をまとい

よく梳かれ、長くなった黒い髪を背中へと垂らし

キレイにカットされた前髪には、デフォルメされた雪の結晶の髪留め。


片足を軸にクルリと一回転

すると短めのスカートがフワリと広がる。


ピタリと止まりポーズを決め、こちらに向かってビシリとVサイン。


「可愛い!可愛い!」


雪音さんはニコニコとしながら、手を叩いて少女をそやす。


───この黙ってさえいれば美少女な人物。

実は暴力巫女こと、「三条さんじょう日菜乃ひなの」なのである。


認識記号としての巫女服着てないと、誰だかわかんないよね。


「雪音さん、どうです? 私の制服姿」


「馬子にも衣装」


「あんたには聞いてない。」



・・・でも、性格がスゴく可愛くないよネ。


「お前、高校に合格できたんだ?」


せめてもの意趣返しに、ささやかな反撃を試みる。


「ブチ転がすわよ?」


すると暴力巫女は、すぅっと姫神流「漢波德ふんぼると企鵝ぺんぎん」の構えを取り

殺意を秘めた底冷えのする声で、そんな事を抜かしてきた。


「それで、どこに行ったのよ? 」


そんな暴力巫女の構えに対し

俺は姫神流「王様きんぐ企鵝ぺんぎん」の構えを静かに取りつつ尋ねる。


蓮峰れんぽう女子学園」


どこかで聞いたことのある学校名を

彼女は短く答えると、手足の構えを変えていく。


こ、こりっは!


凄まじいばかりの、闘気のオーラと共に姫神流究極奥義

皇帝えんぺらー企鵝ぺんぎん」の構えが完成する。


暴力巫女の背後に闘気によって巨大なペンギンの姿が形作られ

「くわーッ!」

と、クチバシを開け王者に相応しい威嚇の咆哮の幻影を見せる。


こ、コヤツめッ!

この若さで、もはやここまで練り上げよったか!?

なかなか、デキる!


因みに、皇帝ペンギンの名前の由来は

それまで知られていた大型種のキングペンギンより大きかったから。

と言う、スゴイ単純な命名であったと伝承にはある。


───「いい加減にせぬか。」


互いに相手の隙を狙い必殺の拳を繰り出さんとしていた

俺たちを止める涼やかな声。


ソファーへと気怠げに腰を下ろし、足を組んだ黄金の髪の狐神。

玉藻さんであった。


この制止の言葉に、暴力巫女は「はいッ!」と元気よく返事をすると

ニコニコと拳を収める。


くっそー

この娘ってば雪音さんとか玉藻さんとかの

俺以外の人の言うことには素直に従いやがんの。


本当に可愛くないッ!


「素直でよろしい。」


玉藻さんは優しげに微笑し、言い付けを守った我が子を愛おしむかのごとく

暴力巫女の頭をナデて褒める。

そうしてから、俺の方向へへと向き直ると


「夏樹も大人なのだから、子供相手にムキなってはいかぬ。」


酷い!どっちの味方なの!?


玉藻さんって、子供とか産んだら

絶対に旦那より子供の方の肩持つタイプだよねッ!


───「あのう・・・もう、着替えても良いでありまするか?」


俺たちの背後から、そんな声が掛かる。


長い黒の絹糸の様な髪に銀細工の髪留め

氷河のような薄蒼色の瞳を、恥ずかしげに潤ませた

もう一人の美少女。


これまた同じく夏色のセーラー服。


頬を朱に染めて、両手で短めな白のスカートを押さえている。

小狐式神の「銀色」である。


「「「 ダ メ 」」」


我が家の女たちは、目を細めホッコリした笑顔で不許可したのである。



*******************************



事の起こりは雪巫女の日菜乃が、夏休みになったので群馬の姫神村から

東京の雪音さんのもとへと、泊りがけで遊びに来たのだ。


・・・最初が大変だった。


俺を抹殺せん企む雪巫女の、理不尽な暴力に

小狐式神である銀色が反発し、事あるごとに衝突した。


が、次の日、プイッと2人で居なくなったと思ったら

夕方には、すっかり仲良くなって肩を組んで帰ってきた。


なんでも河川敷に行ってきたとのことだが

2人とも泥まみれ、草まみれで、ボロっとなってて・・・


「あんたやるわね?」


「あなたも、なかなかでありまする。」


など互いに褒め合い、称え合う始末。


河川敷でナニしてきたんだネ? キミたちは?


※姫神流「蒼龍拳」VS小狐アッパーカットで相打ち



二人が宿命の対決とやらをしていた間に

姫神村の日菜乃のママンから、不肖の娘へと大きなダンボールの宅急便が届いた。


戻ってきた日菜乃が荷物を開けると、各種の着替え類に加え

置いてきたはずの夏休みの課題と共に、高校の制服が入っていたのだ。


なんで東京に来るのに、高校の制服が送られてくるのであろうか?

“外出する時には、学校の制服を着用すること”みたいな規則


この雪巫女も、やはり田舎の女子高生である。


「うっさいなあ・・・これ着てれば大統領にでも会えるし、園遊会にだって行っても良いんだからね?」


お前に、そんな人に会う予定も、呼ばれる予定もないだろが。


そして「逃さないわよ!」と、存在感を誇示する夏休みの課題に「ウへェー・・・」と

苦り切った表情を浮かべていた雪巫女だったが


後ろから荷物解きを「ほへぇー」と覗き込んでいた銀色に


「貴女も着てみる?予備入ってるんだ。」


などと、現実からの逃避を始めたのであった。


銀色が首をフルフルさせて「良いでありまする」と遠慮していたのだが

たまたま近くにいた、雪音さんや玉藻さんが


「似合いそうだから着てみたら良いのに」


と、無理やり衣装替えをさせたのである。


「ど、どうでありまする? ヘンじゃありませぬか? 」


「ぐはぁ! なんという清らかさ」


着る人物が違うというだけで、ここまで制服の印象が変わるモノなのであろうか?

汚泥を目にした直後に、新雪を見て受ける清らかさと爽やかさもかくやである。


「どーゆー意味よ?」


「説明しようか?」


誰が汚泥で、誰が新雪なのか? 


俺が微に入り細に渡り懇切丁寧に説明しようとしていた

その背後から聞こえてきた、あり得ざるべき言葉。


「じゃあ、次は私が」

「次は我ぞ?」


と、何故か雪音さんと玉藻さんがニコニコとした笑顔で

銀色と雪巫女の前に立ったのである。


マイン ゴット!

雪音さん、玉藻さんも止めてね。


(こういう衣装には年齢制限があるのです。)

(2人が着た場合、なんか特殊なお店のお姉さんみたくなるから)


本音としては、そう言いたかったのだが

なるべく2人を傷つけまいと、言葉を選びながら


「・・・俺としても見てみたいけど、サイズ合わないからなあー」


雪音さんはともかく、玉藻さんが着たら絶対に

おバストの部分が裂ける。おヘソも出ちゃうよ。


「あー残念だなー。」

「二人のセーラー服姿見たかったのに、本当に残念だなー。」


などと、いささかワザとらしいか?と思えたが

惻隠の情を持って、遠回しに制止にかかったのである。


・・・だが


「そうか・・・見たかったのか・・・」


何故か頬を赤く染めて、潤んだ目でこちらを見ている。


「ならば!」


玉藻さんは胸元から赤いメガネのような物を取り出すと・・・


「むんッ!」


と叫び、目の部分にかざす。


すると、玉藻さんの身体は、渦巻くような霊力の輝きに包まれると

その衣装が、何か別の衣装へと作り変えられていく。


「キツネの変身って、そっち系なのかよッ!?」


思わずズビシッ!とツッコミを入れざる得なくなった。


タヌキがアレ系なら、キツネはそっち系。

他の化ける妖怪たちの変身系統が非常に気になる。


光が収まったあと、玉藻さんは・・・


セーラー服姿だった。


白の上、黒い膝下のスカートのセーラー服

赤いスカーフまで付けて、白いソックス・・・髪も首のところで縛って

昭和の女子高生感、丸だしである。



「可愛いであろう?」


はにかみながら尋ねてくる。

可愛い・・・可愛いって何だっけ?

うーん、どちらかというと「いかがわしい」


だが、そんな玉藻さんの事を

銀色は、両手を組み瞳をキラキラさせて尊敬の眼差しで


「主上様ッ! 大人っぽくて素敵でありまするッ!」


・・・いや、セーラー服着た人に、その褒め言葉はどうだろう?

てか眷属ってのも大変なのね。




そして雪音さんは、玉藻さんが高く掲げたメガネに飛びつかんと

ピョンピョンと跳ねて叫ぶ。


「そのメガネ貸してくださいな!」


「貸しても良いが、そなた雪女じゃから化けられぬぞ?」


それを聞いて「・・・む~っ」と下唇を突き出し

不満げにしていた雪音さんであったが


突如、頭の上に豆電球が現れピカリと点灯し

「あッ!」と叫ぶ。


「ちょっと待ってて下さいねッ!」


そう言い残すと、バタバタと2階へと向かって行ったが

暫くして雪音さんは戻ってきた。


やはりセーラー服姿で。


夏色セーラー服・・・なのは良い。

良いのだが・・・


だが、スカートじゃねえ!


モンペって奴だコレ!

しっかり髪まで三つ編みにしてる!


雪巫女は、そんな雪音さんの姿にドン引きするどころか

まるでスーパーモデルの登場を目の当たりにしたかオッカケのごとく

キラキラとした目で・・・


「清楚で素敵ッ!」


怖えッ! 狂信者の感覚ってば怖えよッ!


しかも昭和は昭和でも、戦前戦中まで行ったぞコレ!

日の丸ハチマキと竹ヤリ持たせたら、スゴイ似合いそうだよネ!


「姫神のお婆ちゃんたちから聞きましたけど」

「雪音さんは戦時中に竹ヤリでB-29を墜したことがあるそうですよね!」


マジか!

自業自得とはいえ、竹ヤリに落とされたパイロット可哀想!




************************



───なんかドッと疲れた。主に精神的に


「ちょっとコンビニまで行ってくる」


気分転換にでも、少し出掛けてこよう。などと考え

愉快なコスプレ・ファッションショーなどを繰り広げる女たちに、そう告げる。


俺の言葉に、セーラー服姿のままの銀色がキッと表情を引き締め

妖刀を掴み、スッと立ち上がる。


「では身が、お供するでありまする。」


そんな銀色に、玉藻さんは穏やかに告げる。


「よい、たまには我が付き合おうぞ。そなたは休んでおれ。」


「・・・私も行きます!」


雪音さんが、何やら嫉妬心と対抗意識を燃やし、慌てたように叫んでくる。


ちょっと待って!2人共そのコスプレしたままで付いて来る気なの?


「気にすることはないぞ。」


「そうですよ、『じょしこうせえ』が連れ立って歩いているだけですもの。」


「うむ『じょがくせい』がコンビニに征くだの話じゃ。」


自信満々に、そんなことを言ってくる2人に

正直、頭を抱えたくなった。




───ホントにコンビニまで2人共着いてきた。


「・・・え、えーと・・・全部で560円になります。」


ドン引きしているレジの女の子。


アルバイトではあってもプロ意識故なのか? はたまたマニュアル故なのか?

さり気なく目をそらしながらも、キチンと接客の応対をしてくれている。


上機嫌で店を出た2人の後を追って自動ドアをくぐる時に

背後からアルバイト達のこんな会話が聞こえてきた。


「・・・プレイ? 」


明らかに彼女たちに、ボクちゃん特殊な性癖の持ち主だと思われました。

もう、このコンビニ来られないわ。



************************


───そんなコンビニでの、羞恥プレイの帰り路。


屋敷へと続く暗い路地で、突然に何者かに

まばゆいばかりのマグライトの光を当てられ声を掛けられたのであった。

見れば、それは年配と若い2人組の警察官であった。


「おい、こんな夜中に未成年を連れて何をしてる? 」


若い方の警察官が、目を三角にして俺に、そんな質問してくる。

すると年輩の方の警察官が「こらこら」と若い警官をたしなめると


「申し訳ありません。」


俺の方へと向きを変えると、相棒の失礼な物言いに

制帽を取り、頭を下げて謝罪の言葉を述べてきた。


そして、ニコニコとした笑顔で


「お忙しいところ大変申し訳ありません。」

「ただ、こんなご時世ですので、ちょっと質問させて宜しいでしょうか?」


所謂いわゆる、職務質問というやつを受けることになったのだった。


別に疚しいことなど無いので、素直に応じるつもりで

俺が警官たちに応対していたところ、後ろのコスプレ・コンビが


「玉藻さん!大変!私達補導されてしまいますわ!」


「雪音よ、「せえらあ服」を着た「若い娘」が補導されるのは致し方無しじゃ」


「そうですね。「若い娘」じゃ仕方ありませんね」


このセリフに、若い警官がライトで2人を照らし確認した。


そして、彼は俺の方へと顔を向け

その額にタラリと一滴の汗を流しながら


(本当に18歳未満なの?)


「解せぬ・・・」とばかりのアイ・コンタクトを送ってきた。

俺は彼のアイ・コンタクトに黙してプルプルと首を振る。


そんな俺達の様子を伺っていた、もう一人の年配の警官は

雪音さんと玉藻さんの元に歩み寄ると


「・・・今回は特別に見逃しますが、「若い娘」が夜に出歩いてはいけませんよ?」


など諭し始めた。

2人は「ハーイッ!以後気をつけマース」と上機嫌で答えていた。


ありがとう!お巡りさん!

さすがはベテランさんは違うでぇ!



───で、屋敷に帰ってから

2人は「危うく補導されるとこだった」と皆に自慢していた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ