67話 MOTHER
あ・・・ありのまま今、起こった事を話すぜ!
「母の日に、母親がカーネション持って、息子の家にやって来た。」
な・・・何を言っているのか、わからねーと思うが
俺も何をされたのか、わからなかった・・・。以下略
───「何しに来たんだよ? かーちゃん。」
すると母は不思議そうな顔をして
「母親が息子のとこに来るのに理由なんているの?」
一触即発の空気。
「まあまあ二人共。」
そんな可燃物質が充満する空気の中
我が家のマイペースな雪女さんはお茶を運んできた。
「あ、雪ちゃん、すみませんね。ウチの愚息が面倒掛けて。」
誰が愚息やねん!
「ちーちゃんも相変わらずね。」
なんだろう?この圧倒的アウェー感。
まるで中学生の頃の三者面談を思い出させる居心地の悪さ。
「はい、これ雪音さんに。」
そう云って母は、持ってきたカーネションの花束を雪音さんに渡す。
おかしい。
どこの世界に「母の日」に
息子の許嫁にカーネーションを贈る姑が居るんだ!
嫌がらせか? 絶対に嫌がらせだな!
これがウワサに聞く『嫁イビリ』ってヤツだな!
母は「ナニイッテンの?このバカ息子は?」といった表情で俺を見る。
口に出さんでも、そう考えてるのはマルっとお見通しだ!
遺伝子様ナメんなよ!
「だって、私が子供の頃に雪音さんに面倒見てもらったのよ?」
だからといって息子の許嫁にカーネーション贈るのか?
普通はしませんよ? そんな事。
「一時期、神社で村の子供達の保育所みたいなことしてましたから。」
微笑みながら雪音さんは、昔を懐かしむ様に語る。
「雪音さん幾つなの?」
俺がそう尋ねると、ビクリッ!と肩を震わせて
許嫁の雪女は、俺から目を背け、壁の方向へと視線を彷徨わせる。
そして、ポツリと一言・・・
「じゅ、じゅうななさい・・・」
・・・OK、オーケー、まあ良いとしよう。
俺は座ったままクルッと母の方向へ向き直る。
「かーちゃんは?」
「17歳よ!」
母はいっそ自慢げに胸を張って言い放つ。
「ウソつけッ! よんじゅ(ピィ───ッ!!!)歳のクセしやがって!」
もう、いい加減に2人とも、その宗教は棄教して改宗しなよ?
───「ところで夏樹。」
母は態度を改め、真剣な顔と声で俺を呼ぶ。
「なんだよ?」
こんな時の母は、昔から苦手だ。
何ていうか・・・全てを見透かされてしまっている様な気分になる。
「孫は、まだなの?」
思わず口に含んでいたお茶をプーッ!と噴き出す。
「イキナリ何言い出しやがるッ!」
あんたの息子は、まだコウノトリさんを呼ぶ儀式もしてないのよ?
わかりやすく説明すると「ロベスピエールさん」なんですッ!
この母の問いかけに、俺の隣に座っていた雪音さんは
真っ赤な顔をして、テーブル上で、指でクルクルと回し
「・・・まだ、ちょっと早いかな? とか」
と、のたまい・・・
「でも、旦那様が望まれるのなら・・・覚悟完了します。」
と云い「イヤン、イヤン」と顔を両手で覆い隠して
首を振りて、その身を震わせる。
そんな風に雪音さんが身悶えしていると
居間の入り口から金髪碧眼の美女が口を挟んできた。
「義母上殿、その件に関しては、我に任せよ。バンバン産んで進ぜよう。」
ピタリッ!と動きを止めた雪音さんは、一瞬にして玉藻さんの元に走り寄ると
つま先立ちして喰い付かんばかりに
「何時から居やがりましたかッ!?」
「朝から居ったぞ?」
そう、玉藻さんは朝から居た。
「母の日」との事で、銀色たち式神一同から花束を贈るイベントに呼ばれたのだ。
すぅー・・・と、まるで雪の円舞を舞うかの如く雪音さんは構えを取る。
そして、キッと玉藻さんを睨みつけ
「夏樹さんは私の許嫁ですわよッ!」
対する金色の狐神は、蒼玉の眼を細め
しなやかに流れる様な優雅な動作で構えを取り
「・・・夏樹を他の誰かが愛していようが関係ない。」
クワッ!と眼を見開き、雪姫に告げる。
「我が夏樹を愛してるッ!」
この玉藻の言霊に気圧されたのかの如く
雪音さんの構えは動揺し、クッ!と紅く美しい唇を噛みしめる。
「この女狐・・・恥ずかしい台詞を、堂々と吐きやがりましたね?」
この雪音さんの言葉に
玉藻さんは「フッ」と短く嘲笑するかの様に息を漏らす。
「そなたは夏樹を愛しておらんのか? 「波」に惹かれただけなのか?」
蒼玉の瞳は、射抜くかの如く雪姫の双眸を見詰める。
この眼力に耐えかねたのか、たまらず雪音さんは叫ぶ。
「私だって貴女に負けないくらい夏樹さんを愛してますッ!」
この言葉を耳にした狐神玉藻は
瞬間、目を丸くし「プッ!」と吹き出し、ニヤニヤしながら・・・
「小っ恥ずかしい雪女め! 」
「あんたがゆーなッ!!!」
顔を真っ赤にして、指をわななかせ
雪音さんも叫んだ。
「日本の少子化問題は我に任せろー。」
「私が産みますってば!」
・・・あー、何時ものグダグダの展開になってきた。
───「んじゃ、そろそろ帰るわ。」
向こうの方で「フーッ!」とか「フミャーッ!」と
威嚇し合う猫の様な2人を眺めていた母は立ち上がり俺にそう告げる。
「・・・もう帰るの?」
微笑し俺の眼を覗き込みながら、母は尋ねてくる。
「母さん帰ると寂しい?」
「ちげーよッ!」
バックを肩に掛け、玄関に向かうため俺に背を見せ
「父さんにゴハン作んなきゃいけないしね。それに安心したし。」
「安心?」
ここで振り返った母は
満面の笑みを浮かべて、俺に告げる。
「あんた愛されてるみたいだしね。」