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64話 でこぼこ


───妖刀と雲外鏡


春めいてきた日曜日の午後。


たまには雪音さんの、ひざ枕でゴロリと横になって甘えながら本でも読むか?

などと、よこしまな事を考えながら

一階へと降りて来たところ・・・


居間では、妖刀の「しのぶ」と

人化したばかりの雲外鏡の「きょう」が何か話をしいていた。




──余談ではあるが


雲外鏡の名前は「鏡」だから「きょう」という事に決まった。

単純で捻りも何もないが、これでも色々と揉めたのだ。


「「かがみ」だから「つかさ」にしよう!」

などという不埒な意見が、まかり通りそうだったのだ。


これに対して世帯主として拒否権を行使して

何とか阻止に成功したのである。


実に危ないところであった。


──余談が過ぎた。




妖刀は、ふんぞり返る様に胸を反らし

そのままブリッジ姿勢に移行できそうな程だ。


それに対して雲外鏡は、静かに正座し微笑みながら

妖刀の話に頷いている。


・・・実に対照的な妖怪たちである。



───「…と、言う訳で主様の危機を、幾度も救ったのでございますよ?」


妖刀の自慢話か?


考えてみれば、この屋敷に来た中では

妖刀が一番の新参だったからな。


なんか、馴染みまくって、そうだっけ?って思うことが多いが・・・


本人的には意外と気にしていたのかな?

ルーキーの雲外鏡登場ってことで、先輩風を吹かせたいのかもしれない。


「左様でございましたか。」


優雅可憐に、妖刀の話に合槌を打つ雲外鏡だった。



「流石は・・・流石は、妖刀先輩でございますね。」



この言葉を耳にした途端に

妖刀の頭に「ピョコン」とネコ耳が生えた。


瞳は何かを期待する、猫の様な眼付きとなり

鼻息が「フー!フー!」と荒くなった。



「コホン・・・今なんと?」



ワザとらしく咳払いなどしながら、再度聞き直す。


雲外鏡は、問いかけられ、花の様な笑顔を浮かべ



「流石は妖刀 セ・ン・パ・イ ですわ。」



妖刀は、立ったまま滂沱の涙を流し

「わたしは今、猛烈に感動している!」といった風情である。


相変わらずチョロいな妖刀こいつ

チョロすぎる。


見てると、飽きないなコイツ等。

面白いので午後の予定は、小奴こやつらの観察会に充てることにした。



「……ああ、何だか妖刀「先輩」と楽しくお話してたら、喉が渇きましたネ。」


「私が、何か持ってきますでございますよ!」



台所へと、すっ飛んで行く妖刀だった。

後輩が出来て、完全に舞い上がっとるな。


疾風の如きスピードで、たちまちのウチに戻ってきた。

手にはコップを持っている。


「はい! みず! 」


水かよ!?

しかも水道水っぽいぞ。


それでも雲外鏡はニコヤカに「わざわざ有り難うございます。」と受け取る。


だが、頬を赤く染め「ムフーッ」と鼻息を荒くする妖刀に

こんな要求を突き付けたのだ。



「先輩、わたし「あんぱん」と「コーヒー牛乳」が欲しゅうございますネ。」



ポン!と手を叩いて「これは気が付かなかった!」と妖刀は



「ちょっとコンビニ行ってくるから、待ってるでございますよ!」


「ダッシュでお願いしますネ?」



ニコヤカに・・・あくまで可憐な態度を崩さずに

そんな命令を追加するきょうであった。


・・・コヤツ、ひょっとして、結構いい性格してるのでは?


忍は窓から飛び出して、ピョンピョンと木樹の枝を伝いつつコンビニへと向かう。

その動きは、まさに忍者の格好に似つかわしい、ましらの如き動きであった。


それを眺めていた俺はボンヤリと

あいつ動こうと思えば、それなりに出来るんじゃん。などと思った。


そんな妖刀に、シミ一つ無いない真っ白なハンカチーフを振りつつ

「行ってらっしゃいませ」と見送る雲外鏡。


……えーと、これはどう考えてもパシリに使ってる?


たまに妖刀をパシらせてる、俺が云えた義理ではないのだけれども

ここは、やはり注意すべきだろうと思った。


幾らアホの子でも、先輩をパシらせるのは感心しないもの。



「ちょっと良いかな? きょう。」



俺が声を掛けると、雲外鏡は正座の姿勢から、深々とお辞儀をする。

・・・一見、お淑やかで、礼儀正しそうではあるんだけどな。



「旦那様、何か御用でありましょうか?」


「あー、何というか・・・コホン。」


「むー、あのさー、妖刀は確かに、ちょっと「かわいそうな子」だけど・・・」



俺としては、なるべくは直接的な表現は使わないように

若干の気を使い、そう表現した。


「あんまり妖刀のこと、苛めないでやって欲しいんだ。」


キョトンした顔をするきょう

だが、暫し沈思黙考し、やがて顔をあげると



「旦那様、妖刀センパイってチョロいですよね?」


「確かにチョロい。」



否定できなところが辛い。あるじ様としては非常ひじょーに辛い。


俺が、そう答えると彼女は

両手を合わせ、モジモジとして頬を赤らめながら



「・・・カワイイって思いませんか?」



あれが「可愛い」とか、とても斬新な意見だ。



「そ、そうかなー?」



アレが「可愛い」という評価を否定するのは

あるじ様として、また人として如何なものか?と思わないでないが

つい疑問形で答えざる得なかったのだ。



「あの、お手軽、お気楽なところが、可愛くて、かわゆくて・・・」



雲外鏡は、そっと眼を閉じ、両手でおのれの身を掻き抱くと

クネクネと夢見る乙女の如く、妖刀のお手軽さを褒め称えたのだった。



「つい「いぢわる」したくなっちゃうんです。」



そして、ポッと頬を朱に染め

真剣な表情と眼差しで、そんな主張をしてきたのだ。



( こ い つ 、 ど エ ス だ ! ! ! )



てか、好きな娘ほど、「いぢわる」しちゃうメンタリティとか

お前は小学生か!?


ドン引きしている、俺の気配を察したのであろう

雲外鏡はジト目となって、いささか不満げにではあるが



「旦那様が止めろとおっしゃのならば、止めはしますが・・・」



できれば止めてあげて欲しいなあ。


鏡は、俺からそっと眼を背け

窓から空を自由に飛ぶ鳥を、悲しげに見つめてポツリと呟く。



所詮しょせん、私は旦那様に買われた身の上の女ですから・・・」



ちょっと! 人聞きの悪いこと云わないで頂戴!!


そりゃあ買ったのは事実ではあるが

あくまで「かがみ」として買ったんだからね!?


その言い方だと、まるで俺が、お前を奴隷市場か何かで

慰み者にでもするために、買って来たみたいに聞こえるじゃない!



「買って来たでございますよ!!!」



ゼイゼイと息を切らし、髪に木の葉っぱの乗せた妖刀。

お前は、どこ突っ切って来たの?


てか、このタイミングで「買ってきた!」とか云わないで欲しいわ!

ホントに!



「センパイありがとうございます。」



このドSの鏡の女は、妖刀が息せき切って買ってきた

「あんぱん」と「コーヒー牛乳」には目もくれようともせず


物憂げにカウチへと座り、女性雑誌に目を落としながら

そんな事を抜かすのだった。


そして、ふと顔を上げ

顎に、そっと白く細い指をあて「うーん・・・」と一唸りして


「先輩、今度はアイスが食べたいです。」


「すぐ行ってくるでございますよ!」


聞くが早いか、行くが早いか

窓枠にへと、手を掛け、足を掛け、すぐに飛び出して行く妖刀であった。


完全に立場を忘れ、パシらされる妖刀先輩であった。

ある意味において、「良いコンビ」なのかもしれないと思うことにした。



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