表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/88

雪女と式神とインターネット

平日に社畜が会社に行ってしまえば

屋敷に残った女達にやることはあまり無い


なにしろ家事掃除洗濯は手際よく済ませてしまうし

雪音と式神たちと手数も多い

屋敷の手入れだって一旦終わらせてしまえば

そうそうはやる事などない

夜も遅くならないと社畜は帰ってこないから

夕飯の支度だって急いでやる必要はない

都会では知り合いなど殆どいないし

越してきたばかりで御近所とも

さして親しくしているわけではない


要するに、この屋敷の女達は暇を持て余し始めたのだ


最初は問題なかった

テレビを見たりお茶飲んでお喋りしたりしていた

その内に誰かが書斎にあったパソコンに目をつけたのだ


使い方は雪音が知っていた


姫神村の神社にもパソコンは設置されていたし

ネットも繋がっていた

ただ、村では他にやることもあったし

知り合いも多かったので

それほど熱心にネットを使っていたわけではない


しかし今、女達は暇を持て余していた


興味本位で電源を入れ

ネットを見る

次から次へとサイトを巡る

そして彼女達は、とあるサイトへと辿り着いたのだ


社畜はこの時点で気づくべきであった


だが連日の激務と心労に苛まれた社畜は


メシ!風呂!寝る!


という昭和の亭主関白を繰り返し続けてしまった


屋敷の女達も悪かった。と言わざる得ない

夫唱婦随や良妻賢母を当たり前の美徳として受け入れ

社畜を甘やかしてしまっていた


事態は静かに静かに悪化の一途を辿る事になる


最初に、この変化に気付いたのは

たまたま屋敷を来訪した玉藻だった

社畜の迂闊さである


彼女は式神たちの分のノートパソコンまで持ち込み

ネットに接続せしめた

ここに到って事態は完全に分水嶺を超えたと見ていい


「ただいまー。あー疲れた疲れた。」

社畜にとって一日で最も安らぎの時である


「旦那様、お疲れさまです」

「あるじ様、御帰りなさいませでありまする」


美しい許嫁と愛らしい式神たちの笑顔の出迎え

擬似的ではあるが一家の団欒

社畜は一日の疲れが癒される思いを味わう


「あー腹減ったー。んー良い匂いだなあ。今晩なに?」


「テンプレ」


「は?」


「天ぷらですよ?」

不思議そうな顔をして雪音は夕飯の献立を答える


なんだ自分の聞き間違えか。と社畜は納得し


夕食の前に一風呂済ませた

屋敷にあった湯殿は、かなり立派なもので

浴槽はかなりの広さがあり足を伸ばせるほどだ


湯を浴びて遅めの団欒の夕食をとる

見目麗しき雪の精霊の酌でビールの杯も進む

食事の時に行儀が悪い行為ではあるが

テレビは点けっ放しで

ニュースは日韓関係の問題を報道していた


「日間」


「ん?」


「いえ日韓」


これは本格的に疲れてるな。と

社畜は早々に布団に入ることにする

明日を乗り切れば休日である


「お休みなさいませ」

「お休みなさいませでありまする」


休みの挨拶をし顔を上げた女達は

一様に不気味な薄笑いを浮かべていた


若干、気にはなったが

社畜は布団へ入ると、すっと睡魔に襲われ

そのまま眠りにつく


社畜が真夜中に目が覚めたのは

「いい加減に気づけやボケが!」という天啓だったのかもしれない


手洗い場に行くため廊下を歩いていると

書斎から明かりが漏れているのがわかる


気になって、そっと中を覗くと

女達がキーボードでカチャカチャと何かを打ち込んでいる

それはそれは嬉しそうに

ニンマリとだらしのない笑顔で


「フヒヒヒヒヒヒ」

普段の雪音さんからは

とても想像も出来ないような笑い声をあげる

「ククククククッ」

銀色たち式神が悪い笑顔を浮かべ不気味に笑う


ちょっとしたホラーだった

悪い夢だと思いたかった


「投稿完了」

意味不明の呪文を唱える


「なにしてるの?」

人とは恐怖のあまり思わず声を出すものらしい


女達の動きがピタリと止まる

そして彼女達はゆっくりゆっくりと、こちらへと振り返り


「見ーたーなー」


思わずチビりそうになった





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・






彼女達を後ろに正座させ

サイトの中身を検証する


『作家になりましょう』


どうやら彼女達がハマっていたのは

素人が小説などを投稿できるサイトだった

最初は自作のポエムやエッセイなどを書いて投稿していたらしいが

だんだんと欲が出た


そこで人気の異世界ファンタジーなど書いて投稿し始めた…と


…読んでる人達も異世界ファンタジー書いてるのが

雪女と式神たちだって知ったらビックリするだろうよ


まさに「事実は小説よりも奇なり」だ


おのれの妄想を書き綴っているうちに

あのヘンな笑いが出たらしい


まあ、おかしな有害サイトじゃなくて安心した


「問題ないようだから、もう正座やめていいよ」

「熱中するのもいいけど程々にね?」


女達はコクコクと無言で頷く

それだけ言い残すと俺は寝室へと向かった




後日、彼女たちの作品とその感想をこっそりと見てみた



             投稿者 鈴木次郎

「一言

 毎回、毎回メインヒロインのお姫さまが

 他のヒロインのフラグ圧し折るのは仕様ですか?」


とか


             投稿者 頼三

「一言

 いささか妖怪無双が酷すぎるような?

 それにコレ中世ヨーロッパ風の世界じゃなかったっけ?」




あとは、明らかに関係者だろ?これ?ってのも




             投稿者 雪巫女

「さすが雪ね・・・雪舞先生の作品はいつも面白いです

 これからも頑張ってください!

 ポイント入れまくっておきました          」


             投稿者 狐美人

「なぜ、いつも悪役が狐女なのか? そなた我に恨みでもあるのか?

 ブクマ外しておいたのじゃ             」


みたいなのまであった





まあ害はないから放っておくことにしよう

ただ、最後にポイントは入れまくっておいた

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ