表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/88

55話 外来種


「ギィギィギィッ!!!」


夜のとばりが降りた、都会の闇。

血のように紅い月が、妖しく夜空に輝く。


そんな魑魅魍魎の跋扈しそうな夜に、不気味な叫び声が響き渡る。

電球の切れ掛かった街路灯が、怪しげな生き物を浮かび上がる。


黒い身体、コウモリのような翼を持ち、恐竜のような長い尻尾

顔と思しき部分には目も鼻も無く、縦に裂けた口がある。


まるで西洋の悪魔を更に不気味にしたような生き物。

悪夢の世界から抜け出してきた怪物。




「外来種でありまする! 」




古風な英国調メイド服を着た式神の銀色が、俺を庇うよう、守るように前に立つ。

そして俺達の前に迫る、奇っ怪な生き物。


「外来種? 」


そんな俺の疑問に、銀色が周囲を間断なく牽制しながら、手短に説明する。


日本の妖怪でも無い、西洋の妖怪でも無い、異層次元から侵入者インベイダー

それが「外来種」だと。


まさか、こんなのにエンカウントするとは夢にも思わず

妖刀は屋敷に置いてきた。


当たり前だよ!


ちょっと銀色連れて、近所のコンビニまでのお出かけだったんだから!

刀持ってコンビニ入ったら、速攻で通報されるわ!


兎にも角にも、俺も銀色も徒手空拳。

頭にバルカン砲でも付いてれば良かったのにネ。


「あるじ様……ここは、身が食い止めまするので、逃げて欲しいのでありまする。」


……はっ? 逃げろ?

バカを云っちゃいけない。


女の子を置いて逃げたとあっては、男児一生の不覚!

銀色を置き去りにするくらいなら、一緒に死んでやらあ!


一瞬、銀色が泣き笑いの表情を見せた。


「あるじ様は、本当に「妖怪女たらし」でありまする。」


銀色は夜魔から目を離さずに、小さく呟く。


妖怪「おんなたらし」かよ?

だが、ここは素直に誉め言葉と、受け取っておこうか。


「 ……でも、あの外来種は、あやつの主な攻撃は「くすぐる」ことでありまする。」


………はい?


コチョコチョする、あの「くすぐり」?


「だから、逃げて欲しいでありまする。」


自分は大丈夫! だから、俺は逃げて。か……


「………。」


駄目だ!  絶対にダメだ!

ダメに決まってるだろ!


やっぱり、銀色を置いて逃げるわけにはいかないっ!!!


主要攻撃手段が「くすぐる事」だなんて相手だぞ!


ちょっと皆さん想像してご覧なさい!

そんなのに、銀色が捕まって攻撃されているところですよ!


すごくヤバイ! そもそも絵面的にヤバイ!

薄い本の内容的なヤバさ炸裂!


いやらしい! R18指定されちゃう!


そんなの、お父さんは絶対に許しませんよ!

これは尚更、逃げる訳にはいかなくなったわ!


「あるじ様は、鈍感でありまする。」


銀色が、頬を「プクーッ」と膨らませてムクれている。


……どうして怒るの?


俺なにかヘンな事云ったかなあ?

何故なんだろう? わからん。


この年頃の娘は、扱いが難しいなあ。


「ギィギャァ!!!」


シビレを切らせたのか、無視されたのが気に障ったのか

夜魔が俺達へと襲い掛かってきた。


その攻撃を姫神流体術で捌き

後ろで構えていた銀色がカウンターを入れる!


「ハッ!!! 」


霊力を纏わせた鋭い正拳こぎつねパンチが、夜魔の顔面へとめり込む。


「グギャァッァァァァ !!! 」


どうやら異層からの怪物にも痛覚はあるようだ。

そこへ、俺が体重を乗せた胴廻し回転蹴り「旋風脚」を叩き込んだ。


「ゴギュッ!!! 」


夜魔は、大きく吹き飛び、塀に激突した。

銀色ナイス連携技コンボ


2人でも何とかなるかな?


だが、夜魔はムクリと起き上がってきた。

やっぱり、駄目だったよ!


コイツってば無駄に頑丈でやんの!


「グルルルルゥ……」


しかも、怒ってるし! 

怒りっぽいのは、カルシウムが足らない証拠ですよ!



……こりゃあ大ピンチですぞ。




──ヴォォォォォォォォォォォォオオォン!!!


その時に遠くから、オートバイの甲高いエンジン音が轟く。

見ると眩いライトの光源が、急速に俺達の方へと近づいて来る。


こっちに来ちゃ危ない! 引き返せ!

そう叫ぼうとした、その時!


……そのまま、バイクは怪物を撥ねた。

夜魔は跳ね飛ばされ、道路に「グシャ」と嫌な音を立てて叩き付けられた!


「キキーッ!」とバイクは急停車する。

……今のって完全に撥ねてから、ブレーキ掛けたよネ。


だが、あろう事か、夜魔は立ち上がってきた。

少しばかりボロッとして、額?から黒い血を滴らせていた。


人外の怪物で良かったよネ。

人間だったら、大変な人身事故ですよ!


「キシャ───ッ!!! 」


彼の怒りは、俺達からバイクのライダーへと向かったようだ。


だが、バイクの主は、少しも慌てた様子が無く

「ドゥルン! ドゥルン! 」

と、エンジンを吹かし、ゆっくりと夜魔を眺めている様子だ。


黒いライダージャケット、同じく黒いフルフェイスのヘルメット

黒の革手袋。がっしりとした体格の男性の様である。


バイクはスポーティなレーサーレプリカを思わせるタイプで

白いカウルの車体には、赤いストライプが走っている。


そして風防下のカウリングに………「狸」のエンブレム? が描かれている。


この外来種を前にしての、落ち着きぶり……

どう考えても、このバイク乗りは人間じゃないよな。


妖怪だとすると「朧車おぼろぐるま」か「片輪車かたわぐるま」か?

敵なのか? それとも味方か?


果たして、彼の正体は一体?



俺が、そんな事を考えて思い悩んでいると


「ギッギャーッ!!! 」


夜魔はライダーへと襲いかかる! 危ないっ!

すると!


「むんっ!!! 」


ライダーの気合い一閃のコブシが、怪物の顔面へとめり込む!

ドウっ!と音を立てて怪物が吹き飛ぶ。


うわっ!バイク乗り強いっ!


そして、彼はゆっくりと鉄馬バイクから降りると

カツーン、カツーン、とアスファルトで、ブーツの踵を響かせ

倒れた夜魔へと近づいていく。


ヘルメットのバイザーを上げながら

地面にうずくまる夜魔に向かって、渋い声で


「出たなぁ! 外来種めっ! 」


それ今更かよ!?

てか、イケメンで屈強そうではあるが、初老っぽい男性だった!


「……あの妖怪ひとはッ!? 」


俺の隣で、成り行きを見ていた銀色が呻く。

彼を知っているのか?


倒れていた夜魔は、その恐竜のような尾で奇襲を仕掛けた。

恐らくは油断を誘っていたのだろう。

男性は、咄嗟に右腕で防御ガードして攻撃を防ぐ。


その隙きを突いて、怪物はコウモリの様な翼を広げ

跳躍すると、男性から少し離れた場所へと着地する。


どうやら距離を取って、仕切り直すつもりのようだ。

指をワキワキと蠢かせ、くすぐり倒す気マンマンだ!


それに対して男性は、ヘルメットを脱ぎ捨て

脚を半歩開き、不思議な構えを取った。


そして開いたジャケットの腰部のベルトが輝いていた。


腰のベルトぉーッ!!


まさか、もしや、この既視デジャブ感は!

以前に出会った「茶釜のタヌキ」のマミさんを思い出す。



「 変 身 っ ! ! ! 」



あの、じーちゃんてば「狸」じゃねーか! 


「やっぱり! 隠神刑部いぬがみぎょうぶ様でありまする! 」


銀色が叫ぶ。


隠神刑部って云ったら、タヌキ界の超大物じゃないか!

そんな大物までものが、昨今は「化ける」んじゃなくて「変身」なのかよ!?


どーなってるの「化け」業界!? 

大丈夫なの? 「化け」業界!?


「確か、今期の外来種駆除の当番役が、隠神刑部いぬがみぎょうぶ様のはずでありまする。」


また回覧板で回ってくる当番役か。


以前に玉藻さんの云ったことが、俺の頭の中で再生される。

『近年、ヒトに仇なす「妖異怪異」は我々妖怪が持ち回りで退治しておるのだ。』と


他にどんな役があるんだろ?



───その時に、ドコからともなく

謎の声が聞こえて来た。


『仮面タヌキは一体、誰なのか? その正体は謎に包まれているのである。』


誰が喋ってるの!? このナレーションは?

いや、正体不明も何もバレバレですがな。


「形部様で、ありまするよね?」


首を傾げ、唇に指を当てて銀色も呟く。


『その正体は不明である。』


「「 あ、はい。 」」


大事なことなので、と言わんばかりに繰り返されたら

俺達としては、そう答えるしか無い。


「とぅ!」


俺達が謎のナレーションに言い含められている時、隠神刑部の声が響いた。

しまった! また変身シーンを見逃した!


そんな俺達の前に居たのは


………バッタだった。


それも人間サイズの巨大な濃緑のバッタ。

首?の場所には、何故か真っ赤なマフラーが巻かれていた。


「 ゆくぞっ! 外来種っ!!! 」


でかいバッタが、そんな事を叫びピョーンと跳躍する。

シュールな光景だわぁ……。


夜魔も翼を広げて、空中で迎え撃つ。

が、「ガシッ」と空中交差して、はたき落とされたのは夜魔の方だった。


昆虫であるバッタの脚力は凄い。

それが人間サイズなら、どれ程の威力があるのであろうか?


夜魔はフラフラと立ち上がる。

もはや、立っているのもやっとのようだった。


そこへ隠神刑部は決めの一撃を繰り出す。


大きく跳躍し、空中でクルリと一回転すると

強烈な蹴りを、異界の怪物の身体にへと叩き込んだのだ。


バッタキックだ!


「ギィ──────ッ!!!」



弾き飛ばされ、地面に倒れた夜魔は……


「ド────ンッ!」


爆発したぞ! おいっ!

どんな理屈で生き物が爆発するんだよ!?


そんな、光景を睨んでいる、何時の間にか人間体に戻った隠神刑部。

再び、例の謎ナレーションが聞こえてきた。


『仮面タヌキは「変身タヌキ」である。


彼は日夜、日本の平和を守るために

異界からの侵略者、「外来種」と戦っているのである!


負けるな! 仮面タヌキ! 

頑張れ! 変身タヌキ! 』



もう、好きにして下さい。





───「ハッハッハ。それじゃあ、気をつけて帰るんだよ。」


俺達にそんな言葉を残し

隠神刑部は夜の街へと、颯爽とバイクを駆り去って行った。

銀色は、彼へと手を振っている。


俺は、バイクで走り去る隠神刑部を見ながら


町内会で役が回ってくると

妙に張り切っちゃう、近所のお爺ちゃんの事を思い出していた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ