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51話 お盆 

「姫神女は?」


『地上最強!』


そう鬨の声があがると、みなが一斉に杯を干す。


もうヤダこの村。どこの「大陸軍ラ・グラン・アルメー」だよ?

まずもって乾杯の発声からしておかしい。




───お盆です。


姫神の村へ墓参りに帰ってまいりました。


玉藻さんに車を出してもらって

高速を使って何の連絡もせずの電撃的な帰省でした。


ところが車が村に入ったとこで、第一村人に発見され

あれよあれよという間に大宴会の運びとなりました。


だから「田舎へフェ○ーリは止せ! 」と云ったのに。


あちら側では雪音さんや玉藻さんが

村の男衆や女衆に十重二十重に囲まれ大騒ぎです。


四面村歌。


てか、宴会の準備が手慣れてやがる。

三分で用意しやがった。


豪快に酒樽が開けられ、湯呑みへとドンドン注がれ

酒肴が次々と各村民宅から運ばれて来る。


ここは神社に併設された集会所。


なぜ、こんな大人数が収容できる広さなのか?と以前から疑問に思っていたが

日常的に宴会場として使うためだったんだな。


俺の目に前には、ばーちゃんと貴兄が陣取り

2人共コップ酒を「クックッ」と美味そうに飲み干す。


「お疲れさん」

「よう帰って来た」


しばしの身内同士の歓談。


そこで俺は、気になっていたことを尋ねてみる。

そういえば何故、この村では「雪女」が神社に祀られているんだろうね?


「ふむ。」と、ばーちゃんが「姫神神社」の由来縁起語り始めた。


雪女が何故、神として神社に奉られているか?

電気も冷蔵庫もない時代

夏に取れた収穫物が冷凍できて誰も餓えなかったから

渇水時に上流に雪降らせてられたから

大水で堤防が切れそうな時、堤防ごと凍らせて決壊を防げたから

そんな豊かな村を狙う者を追っ払える力があったから


現代の目から見れば何とも思えなくても

過去の人間にとっては、これほど有り難い存在はないぞ。と


ああ、なる程。得心がいった。

心優しい雪女が神と崇められるのもむべなるかな。ってことか


それに俺等わしらも「雪女」の血を引いておるしな。


……何それ? 初耳。


質問を発しようとしたところで

俺は村の衆に囲まれた。


「おいおい夏樹よ。何でも玉藻さんは狐神だそうじゃないか? 」


驚き慌てて玉藻さんを探すと

向こうで村の者たちを相手に楽しそうに酒盃を呷っていた。


俺の視線に気づくと、手を振ってウインクして投げキッスをしてくる。

ヤメテ! 暴力巫女にでも見られたらどうすんの!


そういえばいないナ。

まあ、未成年だし酒席にいるわけないか。


「狐神もたぶらかしてくるとは、でかした。」

「もうひとつ神社建てて玉藻さんも祭ろう。狐神なんだから。」

「雪に狐が加わり最強に見える」


などと無責任に勝手な事を言ってくる。


アバウト過ぎる。いや日本人らしいと云うべきか。

気に入った物は、なんでも取り入れる。


向こうでは雪音さんが女衆に質問攻めされている。

何を話しているのかと様子を伺うと……


「痛かった?」


雪音さんは一瞬「キョン」とした表情を浮かべるが

すぐに紅い顔になってモゴモゴと「……ええ、まあ」と曖昧な返事を返す。


すると女衆は一斉に「キャー!」と嬌声をあげ

俺をニヤニヤと半目で笑いながら眺めてくる。


酷い! まだ何もしてないのに!!

これってばセクシャル・ハラスメントよ!




───酔い醒ましに外に出てみる。


「ふぅ」


皆の呵々大笑の声が中から漏れ聞こえてくる。


夕暮れに朱色に染まり、鬱蒼としたやしろの森

「カナカナカナ」と鳴く、ひぐらしの物寂しい蝉しぐれ


都会と違い、山間にある姫神の村には一足早い秋の気配が漂う。

心地の良い涼風が頬を撫ぜて吹き去ってゆく。


まさに「侘び寂び」を感じさせる日本の原風景である。


ふと人の気配を感じて振り返ると


そこには巫女姿の美少女が笑顔で立っていた。

手に夕日に鈍く光るナタを持って



出たぁ~!!!!




暴力巫女は「浮舟」と呼ばれる

姫神流独特の足運びで間合いを詰めて来た。


「話せば分かる!」


などと青年将校に屋敷に乗り込まれた首相のような説得を試みる。


「問答無用!」


やはり巫女は青年将校のように答えるとナタを一閃する。


このままでは生命が危険でピンチで危ない。

咄嗟に「真剣白刃取り」を試みる!


ハッシ!とナタの刃を両手を受け止める!


この奇跡の技は常日頃、屋敷で妖刀の忍とのジャレ合いの末に習得したのだ!

妖刀の一閃の剣速に比べるなら、遅すぎて欠伸が出そうなほどだ!


考えてみると、かなり危ないことしてるよなあ……


「暴力巫女、敗れたり!」


ナタを止められウンともスンとも動かず四苦八苦している暴力巫女に

クククッと笑いながら告げてやる。


すると暴力巫女はナタから、あっさりと手を放し

俺から距離を取ると足元の玉砂利を拾い上げ「くぬっ!くぬっ!」と投げてきた。


「痛い!痛い!」


おのれ!飛び道具とは卑怯なり!


「うっさい! この浮気者!」


俺は姫神流の「蛇形拳」のポーズを取りながら叫ぶ。


「貴様の様なロリっ娘など彼女にした覚えなど無い!」


「あたしの事じゃねーわよ!」


そう叫んでブンブンと石つぶてを投げて来た

俺は「あちょー! あちょー!」と蛇の構えをもって、それ等を尽く撃墜する。


「……ぐぬぬっ! 変質者の分際で生意気な」



すると、いつの間にか境内に居た、筋骨隆々としたいかつい顔のオッサン2人の観客ギャラリー


「むぅ!……これは!」


「知っているのか!? 雷神!」


「うむ、風神よ。あれは確か「姫神流格闘奥義」の一つ「蛇形拳」! 」

「中国は少林寺拳法の蛇拳に源流を発する格闘術だ。」


「姫神流とは一体……」


タラリと汗を流しつつ俺達を睨む、もう1人のオッサン。


「「姫神流」とは、かの聖徳太子が開祖とする謎の「十七条拳法」の一派と伝承されておる。」


筋肉でぶっとい腕を組み、静かに瞳を閉じて

暗唱するかのように解説を始めるもう一人のオッサン。


「「刀剣戦闘」「古武術」「骨法」は言うに及ばず「空手」「柔術」「合気道」「中国拳法」「マーシャルアーツ」「システマ」「スコップ格闘」果ては「ゲーム」や「マンガ」の技すら取り込むという恐るべき総合格闘術よ!」


「……それって節操なしの流派って言わネーか?」


どうやら「風神」と「雷神」らしい。

余計なお世話よ! 姫神流バカにしないでよ!


日菜乃、暴力巫女には「風神」と「雷神」が

見えないのか、それとも単に無視しているだけなのか


彼女は俺に対して無数の手刀による突きを繰り出してくる。


「ぬぅ!……これは!」


「知っているのか雷神!?」


「風神」が再び「雷神」に尋ねる

その問に「雷神」重々しく答えるのだった。


「うむ。姫神流奥義「百烈猫手ひゃくれつねこパンチ」。「ゲーム」から取り入れられた格闘技である。」


「……もはや節操なしとか、そーゆーレベル超越しとるにも程があるゾ?」


黙らっしゃい!


日菜乃の鋭い攻撃を捌きながら

観客ギャラリーの「風神」と「雷神」の的確で鋭いツッコミにツッコミを返す。



だが東京で日々、圧倒的な身体能力を誇る妖怪たちに接してきたのだ。

俺にとっては雪巫女の繰り出す攻撃など児戯じぎにも等しい。


遅い! ぬるい! 弱い!


小娘め。貴様の攻撃には「速さ」が足りない!


雪巫女の繰り出す手刀を見切り

「むんずっ!」と、か細い手を掴み攻撃を封じる。


クックックッ。どうれ……余り甚振いたぶるのも可哀想だ。

そろそろ一思いにトドメを刺してくれよう。


日菜乃の手を放し自由にしてやる。

そして俺はスーッと姫神流「墨西哥鯢ウーパールーパー拳」の構えを取る。


「くっ!殺せ!」


覚悟を決め地面に座り込んだ

日菜乃は悔しそうに呟く。


……幾ら何でも殺さないよー。


フッフッフ。まあ、いい。恐れいったか!

「 男子三日会わざれば刮目して見よ!」と「枕草子」にも書いてあるではないか!


だが追い詰められた雪巫女は、俺を動揺させる一言を発したのだ!


「ねーわよ!!!」


……「蜻蛉日記」か「更級日記」の方だったか?


ひょっとしたら「うつほ物語」か「古今和歌集」の方だったかもしれない。

それとも「土佐日記」だったかな?「大和物語」だったかなあ? 


どれだっけかなー???


「全部違うっ!!! 」


げ、「源氏物語」だったかしら?


「それも違う!」


「…………。」


ヒント! ヒント! ちょっとだけヒント頂戴!!


「……え、えーと」


なんだ、お前だってわかんねーんじゃん!知ったか乙!

「あんたもね!」とか酷い事を言われた。


一時休戦して、2人でスマホを取り出してピッピと検索してみる。

便利な世の中だなあ


「出典は「三国志演義」じゃない!」


暴力巫女は、激高しながら

自分のスマホを俺の頬にグリグリと押し付けてきた。


いひゃい!いひゃい!

それにしても「三国志演義」だったかあ。……惜しかったなあ。


「かすってもいねーわよ!!」


そんな時の事だった。


「おんしら、何遊んでおるんじゃ?」


煙草盆を持った、ばーちゃんだった。

どうやら外に一服付けに来たらしい。


「暴力巫女に生命を狙われました。」

「変質者に手籠めにされそうになってました。」


互いに相手を指差しあい、非難合戦をする。


「「誰が!」」


俺達の見苦しい責任のなすり合いを

黙って聞いていた、ばーちゃんだったがポンと火を盆へと落とし。


「んで、おんし墓参りは?」





「あっ!」





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