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48話 夏のプール


 学生時代はグライダー部だった。


「空を飛ぶ」とはカネが掛かるものだ。


だから学業に支障の出ない範囲でバイトをする。

それも割のいいドカチン仕事。

合コンとか女の子と遊ぶなんて異世界の話の様なもの。


ひたすら男ばかりの世界で

地上9割、空1割。講習や整備。体力つくりに時間を費やす日々。


「自分は、ひょっとして男子大学に入校したんじゃあるまいか? 」とすら考えた。

まあ「ア──ッ!!!」が無かっただけマシなのかもしれない。


プールとは「地獄」の代名詞。

体力作りの為と称した「シゴキ」。延々と泳がされた苦い記憶。


そんな「地獄」に女性と連れ立って来る。


それだけで、こうも心象が逆転するものなのか。

ボクは「地獄」が大好きになれるかもしれません。


目の前には、水着姿も鮮やかな女性たち。

まさに花の饗宴、百花繚乱。

眼福! 眼福! 拝んでおこう。


真っ白な雪のような白いワンピースに腰にパレオを巻いた雪音さん。


長い濡羽色した黒髪は後頭部にまとめ上げられ

大きな雪の髪留めで止められている。

細身の身体にキメの細かい純白の肌。

チラリとのぞくうなじとナマ足も素晴らしい。

清楚さとのギャップが、嬉し恥ずかしの艶めかしさ炸裂である。



赤と白のツートンのクロス・ホルターの玉藻さん。


ふわりとした黄金の髪を黒いシュシュで後ろにまとめ

お洒落なサングラスを少し下げ、魅惑の蒼玉サファイアの瞳が悪戯っぽく揺れている。

デンジャラスなボンキュッボンの肢体を、これでもか!と誇る。

まさにセクシー・ダイナマイト!

心のアルバムに、ずっと残しておきたい。そんな艶姿。



淡い緑と薄紫が眩しいタンキニの天狗の姫。


小悪魔がいます!

白銀色プラチナおさげに赤いリボンがアクセント!

誘うような翠玉エメラルドの瞳がジッとこちらを見詰めている。

ほどほどの大きさの美乳と美脚の創り出す愛らしさ。

少女から女の過渡期を感じさせる。



更に続くは式神美少女たち。


背伸びをしたいお年頃。

銀色はビキニ。朱色と藍色はセパレート。

これぞ若さ! の健康的な愛くるしさ。

タオルで顔を隠して、恥ずかしげにこちらの様子を伺っている。

うん! うん! 三人とも可愛いよ!

思わずGJ!と親指を突き出したくなる。


……天色と鈍色はスクール水着。


伸びきらない手足の子狐たち。

まだまだ色気より食い気。

向こうにあるフードが気になる様子

ま、まあ可愛いからいいか。

可愛いは正義!



キリリッ締まった水泳用フンドシがどこまでも似合う関取かっぱ

プリンとしたお尻と引き締まった身体が素敵!

がっしりと両腕を組み、流し目に闘う男の色気が感じられる。

夏の漢を感じさせるセクシー力士!

ウホッ! 良い河童! 特別ゲストの河童さんです。


あとはオマケで座敷わらし

青い海にハイビスカスの柄のビキニ。

ふーん。そこそこデカイじゃん。

良かったネ。


はい終了。


「おいッ! あたしだけ何で扱いがわりーんだよ!? おかしいだろ! 」


はいはい抗議はあとにしてね。

思いの外、水着解説で行数食ってんだよ!

話が進まないでしょ!


「河童枠とかおかしいだろ! 誰得なんだよ!? 」


納得の行かない座敷ギャルが食って掛かってくる。

あーうるさい。


まあ、全員が人間ではないのは御愛嬌。


「おいコラ! アタシは、まだ納得してねーぞ! 」





───デッキ・チェアに寝そべり

プールサイドの男達の視線を浴びていた玉藻さんが


「珍しいな。水神がおる。」


彼女は夏の強い日差しに蒼玉の目を細めながら

反対側のプールサイドを見る。


「水神?」

「ほれ、あそこに」


玉藻さんの指し示した方向には2人の人物がいた。


一人は浮き輪を腰に身につけ

恐る恐る水に足の指先を付けている、ツインテールでスクール水着の少女。

胸に「2-3 みずち」と書かれている。


そしてもう一人は

真っ黒に日焼けし引き締まった細身の身体にビキニパンツの青年。

夏の陽光にキラリと歯が光る爽やかさ。


あの青年だよな?

水神が浮き輪とか持つわけないもの。


「如何にも水神って感じだな。」

「そうかぁ?」


玉藻さんは俺の方を向いて、眉を寄せ同意しかねるように呟く。


浮き輪とビート板を使い

涙目で水に入ろうとしている先程の少女。


そして小学生と思しき女子たちに泳ぎを指導する青年。

他にも男子もいるようだが

彼は先程から女子しか指導してない。


「玉藻さんや。いささか、あの水神さんはロリっちくないかね? 」

「うーん……まあ、ロリっぽいと言えばロリっぽいかのぉ。」


玉藻さんは小さく唸って顎に手を当て同意する。

ぽいどころじゃなくて確定的にロリでしょう。


そして呆れたように呟く。


「しかし、あやつ水神のクセに相変わらず泳げぬのな。」


「えっ!?」


「えっ!?」


俺が聞き返すと玉藻さんも聞き返してきた。

水神って、あっちの幼女かよ!





───そんなわけで、みんなで向かい側のプールサイドにやって来たのだ。


水神の少女は、プールサイドで胡座をかき

「ムスッ」とした表情をして、背を向けていた。


……まあ、確かに知り合いに

こんな所を見られるのは恥ずかしい事なのかもしれない。


だが、その知り合いは一切斟酌などせずに

泳げぬ水神少女の傷口を抉る。


「水神なのに相変わらず泳げぬのか?」


「グサッ!」

と、少女の薄い胸に何かが突き刺さる音が聞こえた様な気がした……。


水神はクルリと振り向き

「ぐぬぬっ……」の表情で玉藻さんを睨みつけ


「わ、わらわはそなたと違って浮力となる駄肉が無い故な!」


勝ち誇った様に玉藻さんを煽る。


そんな水神の煽りなど微塵も気にせぬとばかりに

ニッコリと微笑む玉藻さん。

流石です。大人の女。


と、思った次の瞬間。


「(♯)おおっと! 足が滑ったのじゃ! 」


バシャーン!!!


笑顔のまま水神をプールへと蹴り込んだのだった。

前言撤回。大人げない女性ひとだ。


バシャバシャと水をかきながら助けを求める水神。


「誰ぞ!助けてたもれ!!!」


……ホントに泳げないのネ。





───結局、姫と銀色に救い出された水神はベソをかいている。


「グスッ……わ、笑いたければ笑うが良い。泳げぬ水神とな。」


彼女はプールサイドへと、へたり込み両手を着き

自嘲するように、そんな呟きを漏らす……



「ぶはははははははははははははははははっ!」



「笑うなっ! 」


イキナリ元気になってツマ先立ちして

抗議してくる。けっこう余裕あるじゃない。


「「惻隠の情」って言葉があるじゃろうがっ!! 察せよっ! 」


身長でもスタイルでも玉藻さんに敵わぬ水神はプリプリと怒りながら食って掛かる。

抗議されている方は、どこ吹く風とばかりに横を向いて口笛など吹いている。


わらわは、こう見えて蛇のように執念深い女じゃぞっ!」


蛇のようなって……

みずち」って「蛟龍こうりゅう」だから仮にも「龍神」の一種だろうに……


てか、手帳に何か書き始めた。

「恨みノート」かよ。ホントに、この娘ねちっこい性格してんな。



そんな水神の肩を「ポン! 」と河童が叩く。

そして、つぶらな瞳で「みずち」の顔を覗き込み、優しげに頷く。


「ごっちゃんです! 」


おお、力士かっぱが泳ぎ方を教えてくれるって。

これは、こころ強いな!


「おおっ! 流石は同じ水商売の妖怪同士じゃ! 期待してよいか?」


水神は両手を合わせ希望に満ちた眼差しで河童を見詰める。


彼はキリリッとした眉でコクリと頷く。


男前すぎる!

こんなん惚れてしまうやろ!


そんな風に感心していた皆の目の前で河童は


「どすこい!」


と、水神をプールへと突き落とした。

「ふぁ? 」


バシャーン


彼女は目を丸くし訳もわからぬまま、盛大に水飛沫をあげて水の中へ……


「ごっちゃんです!」


腕を組み仁王立ちしながら河童が叫ぶ。

なるほど! 「習うより慣れろ! 」の教育方針ですか!


でも、あれどう見ても溺れてますよ?

……あ、沈んだ!


「ごっちゃんです?」


いや、そんな不思議そうな顔されても……





───水底から再度サルベージされた水神。


雪音さんが腹を押すと「ピューッ」と口から噴水の水のように吹き出す。

古典マンガの表現みたいだ。




───水神は体育座りをして


「えぐっ……すんっ……えぐっ…」と泣いている。


最早、生意気な口を利く気力も無いようでションボリしている。

ちょっと罪悪感が湧くなあ。


「可哀想じゃないですか! 」


そして先程から、玉藻さんと河童が正座をさせられて

雪音さんから説教を受けている。


熱く焼けたプールのコンクリートの上で正座ってかなりの拷問です。

2人が「くぉーっ!」とか「むむむ! 」と苦悶の表情で、それに耐えている。


お気の毒様。

まあ、自業自得ではあるんですが。


取り敢えずの説教が終わったのか

雪音さんが、俺と水神のところに来て「みずち」の手を握り


「こうなったら私が教えてさしあげます。」


えっ!? 雪音さん泳げるの!?

水にも入らず、ずっとパラソルの下にいたから泳げないのかと思ってたわ。


「こう見えても「姫神の雪河童」と呼ばれていましたから。」


「エヘン」と控えめなバストを、お張りになる雪音さん。

雪河童……。ま、まあ、幼少のみぎりには熊と戯れていたくらいだからね。


これには水神が歓喜の表情を見せ。


「おお、雪姫が教えてくれるのか!」


「ええ、私ごときで良ければ。」


雪音さんは胸に手を当てて

はにかむように優しげな微笑で応える。


予想すらしなかった優しげなコーチ役の登場に

水神は大喜びして雪音さんの手を取り、ブンブンと上下させる。


「そなたには期待しておるぞ! 何しろ妾と同じ貧乳仲間ゆえな! ……もっとも妾には未来という可能性が残されておる訳だがの!! 」


水神は雪音さんから手を放し

腕を組み眼を瞑り笑顔で、そう一気にまくし立てる。


「えいっ」


雪音さんは笑顔のままで、水神をプールへと突き落とす。

再び「バシャーン! 」と盛大な水音と飛沫が上がったのだ。


「習うより慣れろですわ(#」


「バシャ! バシャ! 」


突然の出来事に必死で水中で藻掻く水神。

そんな彼女を笑顔のまま眺めつつ雪音さんはそう言い放った。


……今のは水神が悪い。





───式神の幼女たちを引き連れてフードコーナーへと行っていた天狗の姫が帰ってきた。

近くのパラソルの下では玉藻さん河童と雪音さんが缶ビールをあおっている。


頭からタオルを被り体育座りをし腕で足を抱えて「ガタガタ」と震える水神。


「……みず……こわい……みずがこわい。」


ブツブツと小声でそんな事を呟いている。


座敷ギャルの童女わらめがトウモロコシを咥えながら

水神の目の前で手を降っているが反応が芳しくない……。


そんなみずちを見て天狗の姫は首を傾げ尋ねてくる。


「一体、何があったの?」


「……トラウマが深まった。」


俺は、そう応えるのがやっとだった。

姫は「??? 何がなんだかわからないよ!」と言った顔をする。


後ろの方で問題の3人組の「「「かんぱーい!! 」」」の声が大きく響き渡った。


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