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47話 黄金の神


「おめでとうございまーす!」


目の前の少女は、クラッカーの紐を引き

「 PON! 」 と紙吹雪とテープを俺に浴びせつつ

突然そんな事を言ってきた。


会社の帰り道。

神社の前の道路での出来事である。


金色の髪と金色の瞳を持つ巫女姿の少女。

高校生くらいの年齢に見える。


巫女姿に金髪は兎も角として黄金の瞳だなんて

真っ当に考えるなら明らかに人間じゃない。


頭の紙とテープを払いながら

またか…と思いながら


「貴女は誰?」


と聞いてみる。


すると少女は薄い胸を張り「エッヘン! 」のポーズで


「私は「金玉」のさち。お金の精霊で妖怪です。わかり易く云うと「福の神」の一種です。」



「キ○タマ? 」



「違います!! カナダマですよ! カ・ナ・ダ・マ!!! 」


少女は真っ赤な顔をして抗議してきた。

案外ウブよのう。めんこい。めんこい。


「大事な事ですからね! 絶対に間違えないで下さいよ! 」


そう云って腕を振り上げてブンブンと振り回す。



それにしても「福の神」かぁ……


ウチには、もう「座敷ギャル」を一匹飼ってるしなー

拾って帰ったら、きっと怒られちゃうわ。


内心で、そんな事を考えていたら

自称「福の神」の少女は、滔々と語り始めた。


「私が来たからには、もう大丈夫! 最早お金の心配なんて二度と出来ませんよ!? 「ああ、偶にはお金の苦労とかしてみたいなー。」なんて愚痴が出ちゃうくらいなんだから! 」


彼女は「ズビシッ! 」と親指を立ててサムズアップをし

最高の笑顔でウインクしてくる。……ちょっとだけウザかも? と感じた。


「ビル・ゲ○ツが助走を付けてジャンピング土下座する位の、富豪にさせちゃうんですからね! 」


……いや、別にジャンピング土下座なんてされたくもないし。

そもそも「金持ち喧嘩せず」でしょ?


「いらないわー」


「えっ?」


「そんなにお金いらないわー」


過ぎたるは及ばざるが如しって云うしネ。

そんな大金なんて、きっと絶対に碌な事にならない。


「せ、世界一お金持ちですよ? こ、高級外車とか何台も所有して巨大なプールが付いた豪邸住んで、三度三度和洋中の有名シェフが作った豪華な食事出来て、じょ、女性だって取っ替え引っ替えみたいな…」


「やっぱり要らないわー」


だって外車なんて欲しくないし。

今でも都内で家賃無料のお屋敷住まいだし。

三度の食事は、雪音さんが美味しいもの作ってくれるし。

女性を取っ替え引っ替えは……生命は大切に。


ウン。いらない。



「そ、そんならどうです? 無人島とか買い切って、そこで超スーパーメカ作らせて世界で起る事故事件の救助にあたる成金富豪とか? 底辺を事故から助けて上から目線で「プーッ! クスクスクス! 」とか出来ますよ!? 」


「いらんわ! そんな悪趣味! 」


少女はガックリと地面に四つん這いとなり

滂沱の涙をハラハラと落とし大地を濡らしながら


「……くっ! 金玉カナダマと生まれてこの方、断られた事などないのに。……なんという強敵。」


そしてキン○マ少女は、その良く整った顔を上げて

ギュと拳を握りしめ唇を強く噛み締めながら己を叱咤激励する。


「でも、負けちゃ駄目よ幸! 私はやればできる子! 金玉カナダマ自尊心プライドにかけて籠絡するのよ!」

「断られれば断られるほど燃えてくる! バーニング! 燃え上がれ! 私の小宇宙! 」


ちょっと待った!

お前は籠絡の意味分かってんのか?


この娘、ヘンな方向にスイッチが入ったみたい。


「まあ、落ち着けキン○マちゃん」


取り敢えず燃え上がった小宇宙とやらに

水をぶっ掛けて鎮火しとこう。


「ちがうぅもおぉぉぉぉんっ! キンタ○じゃないもーん! ○ンタマじゃないもーん!」


五体投地してバンバンと地面を拳で叩いて抗議してくる。

余程「金玉」という名前に劣等感コンプレックスを抱えている様子だ。


「カナダマですってば!! 」


さちの抗議を聞き流しながら

そんな事考えていた時の事だった。



「オーッ! ホホホホホホホホホ! 」


突然の高飛車なまでのテンプレ的な哄笑が響く。


(またか……。)

再び内心で、そんな事を思いつつ振り向くと


そこには……


巫女服に黄金のティアラ状の前天冠

そして、まさかの金髪縦ロールにさちと同じ黄金の瞳の女性が立っていた。


「貴女もキン○マ? 」


女性は扇で口元を隠し眉を顰めると


「んまっ! ワタクシを、そこの銅貨の「おキャンタマ」風情と一緒になさらないで下さらないこと? 」


「お」を付けたって、お上品じゃありませんことよ?

てか何故「おキャンタマ」だと伏せ字にならないのだろう?


「……金霊かなだまですよ。私達、金玉カナダマが霊格を高め進化すると金霊かなだまになるんです。彼女は12人しかいない金霊の(かなだま)1人なんですよ。」


ブスッとした表情をして

金玉カネダマの幸が、目の前に現れた金髪縦ロールを指差す。


金霊かなだまだとか金玉カナダマの違いとか面倒くせえ。


「そう、ワタクシが金玉カナダマ達の頂点に位置する至高の存在。黄金の金霊かなだまの、その1人。「零華」でしてよ?」


勝ち誇るように、その豊かな胸を反らす。

なるほど……確かに黄金ゴールドと呼ばれるだけの事はある。


「でも零華てのは自称で本名は「富子とみこ」ですけどね。」


「いやあああああぁぁぁ!! 「富子」じゃありませんわ! ワタクシ「富子」なんかじゃありませんわああぁぁ!!! 」


いきなり頭を抱え、楳図顔になってブンブン! と首を振り始めた。


……こっちはこっちで自分の名前に劣等感コンプレックスを抱えてんのか。

取り敢えず全国の富子さんに謝れ。話はそれからだ。


「……ごめんあそばせ。」


ふんぞり返って、すげえ上から目線で謝る「富子」さん。

この女性ひとは友達のいないタイプだな。


まあ素直に謝るだけマシか。


「それで、富子さんは何の御用で? 」


「……「零華」様とお呼びなさいな。」


さり気なく名前の訂正を要求しつつ

彼女は、そのゴージャスな黄金の髪を「ふぁさぁ」とかき上げると

その白く細い指で俺を指し示し


「このワタクシが貴方に富と栄光を授けてあげても宜しくてよ?」


零華様の、この失礼極まる物言いに

俺が反論するより早く金玉の幸が抗議の声を上げた。


「ズルい!! 私が先に目を付けたのに! 」


そんな抗議を耳にした富子さんは「サッ」と優雅な動きで腕を一振りすると

幸は「ドカァ!! 」とばかりに吹き飛された。


富子さんの手先から凄まじいばかりの霊圧を持つ霊気が

「シュウ…シュウ…」と陽炎のように立ち昇っている。


「ふっ……。青銅ブロンズ貨如きが黄金ゴールド貨に勝てると思ってかしら?」


あまりと言えば、あまりの仕打ちに

俺は幸の元に駆け寄り「大丈夫? 」抱き起こす。


「くっうぅ! さすが黄道12人の黄金ゴールド金霊かなだまの1人だけの事はあります。」


ちょっとボロッとしてたが意外と元気だった。


しかし改めて聞くと、どっかで聞いたような設定ですね?

ひょっとしてキミ達ギリシアか何処かのご出身か何かですか?


「オッーホホホホ! 身の程を知りなさい。」


「貴女達の野望は必ず阻止してみせるわ!」


何こっちゃ?


「かつて、この島国では金霊かなだま金玉カナダマ達が、この国の民の皆が裕福で豊かな暮らしが送れるように頑張っていたんです。」


「ですが一部の金霊かなだま達が


「あれ?大勢を裕福にするよりも個人に富を集中させる方が私達が楽じゃね?」


と気づきまして、特定の富裕層ばかりを優遇し始めたのです。モチロン金霊かなだまの多くは反対しましたが「トリクルダウン」とか「均霑理論きんてんりろん」とか小難しい言葉を並べ立てられて全員が沈黙せざる得ないハメになったのです。」


要するにバカばっかりだったのネ……反対派が。

てか、キミもさっき俺を富豪にしようとしてたよね?


この俺の指摘に、金玉カナダマさちは肩をビクリと震わせて

「ギギギッ」と油の切れた機械のような音を立てて顔を俺から背ける。


「……キノセイデスヨー。」


いや、確かに言った。


「スビバセーン!! ホンの出来ごころだったんですぅ───!!! 」


涙と鼻水を垂らしながら彼女は弁解をしてきたのだ。


「辛かったんです! 苦しかったんです! 大勢に福を与えるのがメンドクサだったんです! 」


最後にチラリと本音が駄々漏れしてるな。


……しかし、この国での格差拡大の原因がそんな事だったとはネ。


「解説は終わりましたかしら?」


何時の間にかテーブルと椅子が用意され

そこで優雅なティータイムを楽しんでおられた「零華様」さんが問うてくる。

卓上のベルを鳴らすと黒子が現れ、そそくさと撤去を開始した。


「この愉快な「波」の人は、あなた達のように闇堕ちした金霊かなだまには渡せません!」


お前も闇堕ちしてたがな。

と喉元まで出掛けたが「グッ」と堪える。


「あらイヤですわ。再び黄金ゴールド金霊かなだまの力を味わいたくって? 」


流れるような優雅な動作で

「すぅーっ」と拳を構えていく「富子」さん。


「零華」ですってば! 」


それに対して「バッ! バッ! 」と激しく腕を振り構えを取る「キ○タマ」。


「カナダマです! 」


そんな2人からツッコミを入れられていた時。



───一陣の風が吹き、ひらりはらりと桜の花弁が舞う。

そして鈴を鳴らすような可憐な音声が響く。


「何ば騒いでおっのじゃっ? 」


……そんな漢らしさ溢れる美声。


しまった。


そういえば、ここ神社の前だった。

よりにもよっての第三の乱入者。三柱目の神だよ。


「こんばんわ女神様。標準語。」


「わかってます。」


眼をパチクリさせ「ドンデンドンデン! 」と漢らしく腕を組み、仁王立ちした女神様が頷く。

木花咲耶姫が顕現したのだ。


「なななななっ!! ホンモノの神様とか! ズルい! 」

「そ、そうですわよ! 反則にも程がありますことよ! 」


正真正銘本物女神様の放つ神圧霊圧に

金霊かなだま金玉カナダマのパチモン福の神の2柱に動揺が走る。


「単にやしろの前が騒がしいので顕れただけです。このヒトの子にも多少のえにしもありましたゆえ。」


ふわりとした雰囲気の中にも、凛とした神性を感じさせる。

黙ってさえいれば。


だが、2柱の金霊金玉かなだまたち

そんなことは知らぬとばかりに捲し立てる。


「コンビニの学生アルバイト相手に、本部企業の重役が出てくる見たいなものじゃありませんか!! 」

「子供の草野球の試合相手がメジャーリーガーだった。みたいな? 」


ジッと目を閉じ、そんな言い分を黙して聞いている木花咲耶姫。

だが、その額には青筋が立っているのを俺は見逃さなかった。


おいバカやめろ!と目配せで注意を促すが

2人は止まらない。


「「 大人げない。 」」


そうさちと富子さんがハモった瞬間に

遂に木花咲耶姫はキレた。



「ちぇすとー!!! 」



真・桜花無双乱舞!


激流の様な桜の花弁と共に神気霊圧が2人を包み込む。

「ぎゅるるん! 」と回転しつつ空中高く巻き上げられ

碌な受け身すら取れず2人は「ドシャア! 」と地面へと激突する!


そんな2人に指をポキポキ鳴らしながら

ゆっくりと歩み寄る女神様。

その可憐で美しい顔に、薄っすらと笑みすら浮かべている。


怖え! 怖えよ! この女神様!


「おまんさらは、ちくとばっかい教育いっど。」(訳:貴女たちには、少し教育が必要ですね。)




───その後に何があったのか?


この事は、あまり語りたくない。


ただ、金霊かなだま金玉カナダマの2柱とは、その後また出会う機会があった。

彼女たちは…………。




「「贅沢は敵だ! 」」



そう叫んでいた。

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