表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/88

40話 迷い人

「ふんふんふん♪」


思わず鼻歌が出てしまいます。

商店街で鮭の切り身が安かったのです。


最後の方は魚屋さんが泣いておりましたが……仕方ありません!!!

これも、私の大事な旦那様の夕飯のためです!

存分に嘆き悲しんで頂きます!


「誠心誠意とことん甘やかす! 」それが私の基本方針ですので。

如何にして! 旦那様を甘やかすか!? それに腐心する毎日でございます。

例え!例え全世界を敵に回してでも甘やかし続けますから!!!


矢でも米軍でも持って来なさい!



さて、この鮭は何にしようかしら?

シンプルに焼き鮭?それともムニエル?それともチャンチャン焼き?

悩ましいですわん。


「フーッ!ヌァーッ!ニャーッ!」


道端の植え込みの前で何やら猫さんが

前足を茂みに突っこんで何かを捕まえようとしているようですね?


私は猫さんの前に屈みこんで


「チッチッチッ。おいでなさいな。ホラお魚あるわよ? 」

と呼びます。


多めに買っておいて良かった。

魚屋さんの慟哭の涙は、決してムダにはしませんよ。


魚の匂いに釣られ「ゴロゴロ ぬあーご! 」と甘え声をあげて近づいてきました。

が、私と目が合った瞬間、猫さんは


「フギャーッ!!!」


と叫び声を上げて、どこかへと大慌てで逃げてしまいます。


(また逃げられた………。)


もふもふナデナデしたいだけなのに。


夏樹さん曰く「猫ってホラ魔性がわかるから…」とのこと。

猫さんには私が「雪女」だと、わかってしまうのでしょうね。


「ガサッ」

猫さんが前足を突っこんでいた場所から

何か小さな妖気が動く気配がします。


気になって覗き込んで見ると……

暗がりの中に小さな目が「パチクリ」としているではありませんか。

(小人の妖怪?)

これは絶対に「 可 愛 い ! 」私の雪女の超感覚が、そう囁きます。


小人は咄嗟に逃げようとします。

が、逃げないで。逃げられませんよ。ええ逃がすもんですか! 絶 対 に !!

左にブラフをかけ、私は右手でムンズとキャッチ。


「獲ったー!!!」


可愛いのが、私の手の中でジタバタと藻掻もがいています。

逃がさないように、そっと見てみると……

大きさが15センチほどで、アイヌの民族衣装の二等身の女の子の妖怪。

コロポックル(蕗の葉の下の人)だった。


やーん!!やっぱり か わ い い !!!

捕まえて良かった!何かがたぎってきちゃいますね!


「大丈夫!怖くありませんよー。」


………なぜ怯えてるのかしら?

じゅるり

あらあら?イヤだわ。ヨダレが出てましたわ。私としたことが。



「大丈夫。心配しなくても良いのよ?私も貴女と同じで妖怪だから。」


ニッコリと微笑んで「怖くありませんよ」アピール。

少し落ち着いてきたのか、涙を目に浮かべながらも私の顔をジッと見る。


「北海道の妖怪さんですよね?なんで東京に一人でいるの?」


するとコロポックルの女の子は

「えぐっ…えぐっ」

露草の雫のような小さな涙の粒を浮かべて再びベソをかき始め


「仲間と、はぐれちゃったの………。」


いやーーっ! いやーーっ!! か  わ  い  い  っ  !!!


……ブンブンと首を振り過ぎて、クラクラしてきましたわ。

すーはー。と深呼吸して息を整えていると


「きゅー…」


小さく可愛らしいお腹の音。

恥ずかしそうにお腹を抑えているコロポックル!


ふぉーー!! 可愛すぎ!! た ま り ま せ ん わ っ !!!


「はぁはぁ」と荒くなった呼吸を落ち着かせて

再びニッコリとコロポックルに微笑んで


「お腹空いてるのね? お姉さんに着いてきたらお菓子あげるわよ?」


自分では優しく笑顔で努めて冷静に言ったつもりだったのだが

何故かコロポックルの顔は引きつり、腰が若干引けていた。


じゅるり。


あら?……嫌だわ私ったら、またヨダレ垂らしてましたわ。ホホホ。





「かじかじ」とコロポックルは一抱えもあるビスケットを齧っている。

口中が粉っぽくなるのか、時おりペットボトルキャップに注がれた冷たい紅茶を

「ゴクゴク…ぷはぁー」と嬉しそうに飲んでいます。


その……その、あまりにも愛くるしい姿に

テーブルの周りに陣取って眺めている式神たちも「ほっこり」しています。

皆の目がトロ~ンと優しい目をしてコロボックルに釘付けです!

私も先程からヨダレが止まらない。


あーーっ! もうっ!! た  ま  ん  な  い  っ  !!!


目眩がします。酸欠かしら?


彼女の名前はホンヘレチュプ


アイヌの鉢巻を頭に締め、アイヌの伝統的な衣装の上に

手や首を各種の装飾品で身を飾っているのですが

とても、とても可愛らしい。


し  ん  ぼ  う  た  ま  り  ま  せ  ん  っ  !!!



何故、私を見て怯えるの?



玄関から「コン!コン!」とドア・ノッカーの音が響きます。

来客のようで、銀色が名残惜しげにコロポックルの側から離れて行きました。


それにつけても、コロポックルの可愛さよ。


仲間とハグレちゃったのなら、このままお屋敷に住んでしまえば良いのに……

手縫いで可愛いお洋服とか小物も作って……


「!」


急いでドール・ハウス買ってこなくちゃ!


そんな思いつきをしてお財布のお金を確認している時に

銀色が見知らぬお客様を連れてやって来ました。


年の頃なら14~15才。

コロポックルと同じような、アイヌの民族衣装に身を包んだ少女でした。


「申し訳ありません。仲間がこちらにお邪魔していませんか? 」


ああ、この方がコロポックルの主人あるじ様なのかしら?

彼女もヒトではないわね。やはり超感覚でここがわかったのしょう。


少女の表情からは困惑しつつも、コロポックルが無事であった安堵感が読み取れます。

見るとコロポックルも目に一杯の涙を溜めて少女を見つめています。


……残念だけど……やっぱり、好きな主人あるじ様と一緒のほうが良いわよね。


「うんうん」

頷いて感動の再会を見守っていると



「 み ん な 迎 え に 来 て く れ た の ね ! ! 」


そうそう、みんな貴女を心配して迎えに来てくれたのよ。

良かったわねぇ……


「???」  「………みんな? 」


感極まったのか迎えに来た少女も号泣し始めると

P O N ! とした音と共に彼女はバラバラに分裂しました!


コロポックルが一杯!!!


みなが一斉に保護したコロポックルのところへ群がります。



ヤバイわ! マズイわ!! かわいいわ!!!


鼻   血   出   そ   う   !!!!



コロポックル掴み取り大会がしたくて堪らないわ !!!

きっと楽しい! すごく楽しい! 絶対に楽しいに決まってる!


手をワキワキさせながら、そんな事を考えていた時


「みんなー! 合体よー!! 」


一人のコロポックルが叫びます。

それまでワイワイガヤガヤしていたコロポックルたちは一斉に静まり返りました。


「は? 」 「合体とは……いったい? 」



「全員集まれー!! 」


「わー! 」っとコロポックルたちはリーダー?と思しき個体を中心に集まり

組み体操のような要領で人型になっていきます。


……すると、どうしたことでしょう!

見る見るうちに、一人の成人女性の姿へと変化したのです。


長い黒髪、灰色掛かった切れ長の瞳、全体的に彫りの深いかんばせ、手足は伸びきり

アイヌの民族衣装に鉢巻き、手に腕輪、首には首飾り、首にはチョーカー。

そして、「少し」ばかり大きな胸!


………ズバリ! 旦那様の好みのタイプの大人の女性。


「ああ、良かった! 元に戻れた! 」


くだんの美しいアイヌ女性は、顔の前で手を合わせて

無事に元の姿へと戻れたことを、まるで花開くような笑顔で喜んでいます。


………これは、まじぃですわ。


非常に危険です。

さっさと帰しましょう。


「良かったですねぇ。」


なるべく、こちらの真意を悟らせないようにしながら


「東京には何か御予定でもお有りなの?」


そんな私の問いにコロポックルの「集合体」は何の疑いも抱いていない様子で


「はい! 東京こちらでは、これから友人に会う予定でして…」


少し申し訳ないな。とは思いましたが……

仕方ないですよね! 

これ以上ライバルに増えられたら、こっちだって困るんです!


「本来なら仲間を保護して頂いた恩義にお返しをせねばいけないのですが……」


いいのよ。いいのよ。恩返しなんて

貴女が旦那様に会わずに帰ってくれるのが、私にとっては一番の恩返しなの。


「そんな事など気にしなくてもいいのよ? 同じ妖怪同士なんだもの困った時はお互い様よ。」

「お友達と約束があるんでしょう? まずは行ってらっしゃいな。」


ニッコリと微笑む。

もちろん心の中のドス黒いモノは完璧に隠して。


コロポックルは感激した様子で、目元をハンカチで拭いながら


「い、いつか必ずや、この御恩に報いに参ります。」と


何度も何度も頭を下げなら去っていくコロポックルの「集合体」。

それをハンカチを振りながら笑顔で見送る。


よっしゃー!! 勝った!!!

心の中でグッと拳を握り締めてガッツポーズ。






さて、その晩の事です。


「ただいまー」と旦那様がご帰宅。

「お帰りなさいませ。」と、三つ指着いてお出迎え。


? 旦那様の胸のポケットの中で何かがモソモソと動いている。


私がポケットを凝視しているのに気付いたのでしょう。

旦那様はニカッと悪戯っぽく笑みを浮かべると


「ああ、これ? そこで拾ったんだ。」


!!! まさか! またコロポックル!


旦那様は、ソレを手の平にソッと載せて私に見せる。

日焼けした黒い顔の健康的な小人の妖怪だった。良かったコロポックルじゃない。

それにしても、この子も か、カ・ワ・イ・イ。


「沖縄の妖怪の「キジムナー」だって。何でも友達に会いに来て仲間とはぐれちゃったんだってさ。」


その時、玄関のドア・ノッカーが重々しく響いたのです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ