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39話 妖刀

目の前に一振りの日本刀。

とは云っても刀ではない。脇差と呼ばれるものだ。

ピタリと鞘に収まり、まだ抜いてはいない。


屋敷の倉庫から見つかった脇差。

箱に収められ、厳重に布で梱包されていたとの事。


ただ日本刀は手入れを怠れば錆びてしまうとも聞くから

これは、抜けないし使い物にならないかもしれない。


手に持ち十分注意しながらソロリと抜いてみる。

鞘から抵抗なく「スッ」と抜ける。慌てて力を緩め、慎重に抜いていく。

驚いたことに全くサビなど浮いてはいなかった。


直刃と呼ばれる刃紋が美しい逸品だった。


(何でこんなモノが倉庫に?登録とかどうなっているんだろう?)


そんな事を考えていた時のこと。


「そなたが我の主人あるじかえ?」


そんな声が聞こえてきた。手に持った抜身の日本刀からだ。


「刀がしゃべったー!!!」


危うく放り投げそうなった。

すると脇差しから霊気の様なものが湧き出て

目の前で一人の女性の姿になった。


黒髪を首の後ろで縛り黒い瞳。一見して女忍者くのいちのような出で立ち。

あいええええええ! ニンジャ!? 忍者なんで!?


「我は、この妖刀の魂魄ぞ。」


口の端を吊り上げ「クククッ」と妖しげな笑みを浮かべる。

た、玉藻さんみたいな口調の妖刀……


困るわ!キャラ被るでしょ!!!

ただでさえ妖怪やら何やらキャラ多いのにどーすんのよ!?


「そ、そんな事を我に言われても……か、可愛い語尾とか付けたほうが良いか? 」


この妖刀…間違いなくバカだ。少し安心した。


「じゃあ、語尾に「にんにん」とか付けろ。」

「に、にんにんか?」


あ、語尾は「にゃん♪」でも良かったかもしれないにゃん♪。


「……で、ではゆくぞ。」


顔を赤らめ、チラチラと俺の様子を伺いながら

女忍者くのいちは「こほん!」と咳払いをしてから


「わ、我は、この妖刀の魂魄にんにん! 」


固いなー……まだちょっとテレがある。

もっと自分の魅力を信じて! さあ! 自分を解き放て! もう一回!

あ、今度は語尾は「にゃん♪」な。 


「わ、我は、この妖刀の魂魄にゃん♪」


いいね! 実に良い! その恥ずかしがる顔と仕草が堪らない!

じゃあ、今度は一枚脱いでから言ってみようか!!


「いい加減にしろにゃん♪! じゃなかった! いい加減にせよ! 」


チッ! バカのくせに気づきやがったか。


「そんな事より我が主人あるじよ。……我は血に飢えておるぞ。クククッ。」


血に飢えているだと!

こいつマジモンの妖刀だったのかよ!

バカのくせに。


「今チラリと、失礼なことを考えおったな?」


カンがいいな、この妖刀。

バカのくせに。


「またバカって思った!! 」


キリがない。


しかし血に飢えた妖刀か。……危険な代物だな。

危ないよな。危ないから処分しよう。そうしましょう。

溶かすか?折るか?それとも粉々に砕くか?


「やめて!!! 主人あるじ様!!!」


女忍者の表情は恐怖で引きつり、俺の手に持つ脇差しはガタガタと震えだした。


だって妖刀コイツは血に飢えてるし……。

人でも斬ってからじゃ手遅れだものね。さっさと処分!とっとと処分!


「やめて!! 我まだ人斬ったことない妖刀だから!! しょ、処女なんじゃから!!!」


人を斬ったことも無いのに血なんか欲しがるな!!

どこの耳年増だ! お前は!


「だ、だって妖刀たる者「血に飢えなきゃ三流」って教わったもの。」


どこの底辺校だよ!?

妖刀が席に立てかけられて授業を受けてる光景が浮かんだぞ! コラ!


しかし血か……厄介だな。


とりあえず冷蔵庫にあった紙パック入りのトマトジュースを与えてみた。

女忍者くのいちは鼻でクンカクンカと匂いを確かめている。

そして、おもむろにストローに口を付け「チュー! チュー! 」と吸い始めた。


途端に顔をしかめ、ペッペッと吐き出す。


「ま、不味まじゅい……」


やっぱり無理か!

もう処分するしか手はないのか……。


「あるじ様! 諦めと絶望は愚か者の結論でございますよ!!! 」


女忍者くのいちは必死な顔で俺を説得に掛かって来た。


そんな事云ってもねえ。

血か……血ねえ……血液の成分。


ダメ元で鉄分補給飲料でも与えてみようか。


「なに? これ! すっごい美味しい!!!」


「あるじ様!!! お代わり!! 」


大好評だった。

本当に嬉しそうに美味しそうにゴクゴクと飲んでいる。


1パック250円のディスカウント品の鉄分補給飲料。

……安い妖刀だなあ。






そして妖刀がどうなったのかと言うと……


「よいしょっと。」


サクリとマグロの柵に刃が入る。

雪音さんが嬉しそうに、次々と切り身にしていく。


結局、妖刀は雪音さんの包丁代わりとなって我が家で使われることになったのだ。


「……あのう、奥方様?」

「我も一応は妖刀ですので、あんまりこんな事に使って頂きたく無いのですが? 」


雪音さんはサクサクと妖刀でマグロを切り分けながら


「まあまあ、あとで鉄分補給飲料あげますから。」


その言葉を聞いた途端に妖刀は


「まことにございますか!我れ頑張っちゃう! 」


本当に安い妖刀だった。

だけど人など斬るよりは、遥かに素晴らしい。


その点、実に立派な妖刀だった。

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