38話 木花咲耶姫
ひらりひらりと桜の花びらが舞う。
一陣の風が吹き、桜の花びらが舞い上がる。
薄桃色の花びらの吹雪。
夏の話である。
ここは屋敷の近くにある猫田神社。祭神は木花咲耶姫。
「クシュン!」
目の前で女性がクシャミをする。
するとブワッとした勢いで花びらのお代わりが来た。
木花咲耶姫。
どうしよう…マジモンの神様出た。
「はぁ、都会ば空気わるか。びんてくる。」
そう呟くと女神様は箱からムンズとテッシュを掴むと
「ぶぁーぶ!ばぁー!!」と豪快に鼻をかんだのだ。
しかも鹿児島弁。
見た目だけは純情可憐で乙女ちっくなだけに違和感バリバリ。
すごい漢らしい。
あ!こっち見た!
女神様がスタスタと本殿の端まで歩いてきて
そこから「ヒョイ!」と飛び降りた。……身のこなしの軽い神様だな。
そして俺の近くまでやってくると
俺を下から可愛らしく覗き込んできた。ニコッと微笑む。
さすが美神!クラっと来る可愛さ。
そして腕を組み「よか!よか!」と云った後に
「よか、にせどんじゃっどね?」
……女神様が何を言っているのかわからない。
ひょっとしたら「首を置いていけ。」と言っているのかもしれない。
緊張で身体中から、ヘンな汗が流れ出てくる。
「ごめんなさい!首は勘弁して下さい。」
「?」
フームと可愛らしく顔に指を当てて考えていた様子だったが
何かに気づいたらしく「ポンッ!」と手を打ってから
「ああ、標準語で喋りましょうか?」
最初からお願いします。
「それで、どんな願いでしょう?」
さすが日本神話で美人の代名詞のような女神様の一柱。
その美貌に蕩けるような笑みを浮かべて、俺の願い事を聞いてくる。
しかし、困った……。
帰り路のついでに、思いつきで参拝に寄っただけで
願い事なんか、何も考えてなかったぞ。
俺如きの参拝で、わざわざ出てこなくても良かったのに……
こんな思考が表情に出てたようで
いきなり女神様が桜島の如く怒髪天を衝いて怒りだした。
「おまんさーな!おなごけっされか!」
おい!キレやすいな!この女神様!しかも、また薩州弁に戻ってるぞ。
終いにゃ泣くぞ俺が!あー!
そんな事考えてたら、なんか女神様イライラして来たみたいで
「はよ願いばしやい!」
ボクの願い事は……
「とりあえず標準語でお願いします。」
主人公たちの住んでる、お屋敷の近くの猫田神社の祭神様。