35話 ぶんぶく茶釜の狸さん
「でけぇ!」
そんな俺の叫びに雪音さんが、スッと目を細くする。
うっかりの失言でございました。
栗毛色の長い髪のクリクリした大きな目をした
見慣れぬ女性妖怪の方がいらっしゃいまして
その方の…何と言いましょうか…おバスト様が大層ご立派だったもので、つい。
女性は慌てて立ち上がると
「お、お邪魔しておりましゅ…ます。」とペコリんちょ!と頭を下げた。
あ、噛んだ。くぁわいいな。この女性妖怪。
コホンとわざとらしく咳払いして
「雪音さんのお友達の方ですか?大変失礼しました。」
今更ながら、紳士だよーん的に取り繕う。
そんな俺の態度に雪音さんが女性に笑い掛けながら
「ね?面白い人でしょう?あ、こちらは狸の妖怪の「マミ」さん。」
「はじめまして「マミ」です。」
人好きのする溢れんばかりの笑顔で挨拶してきた。
タヌキさんだったのか。どうりで豊満な…ゲフン!ゲフン!
彼女の胸に目が行くと雪音さんが、賛美歌13番の狙撃手なみの鋭い眼光を向けてくる。
「こちらこそ初めまして。姫神夏樹です。」
挨拶は大事。メソポタミアの粘土板にも書いてある。
「狸の妖怪さんというと四国は阿波の方なの?」
四国の狸は有名だもんね。
「いえ、G馬県です。」
「群M県?」
「鶴舞う形の?」「G馬県!」
「ああ、ぶんぶく茶釜のタヌキさんか!」
なんだ同郷じゃねえか。緊張して損した。
考えてみれば雪音さんのお友達だもんね。そんな遠いトコなわけがない。
フランクにいこうや。おう、タヌキのネーちゃん焼きまんじゅう食うか?
すると狸のネーちゃんは勝ち誇ったように大きな胸を反らすと
「あ、わたしんトコ群Mって言っても利根川渡ればすぐにS玉県ですから。」
すぐ隣が、さ、埼T県だと………!?
これはトンだ失礼をば!!!
慌ててマミ様にDOGEZAをする。
「お……お見それしましたぁぁ!!!!!!」
群M県民は、住んでる地域がS玉県に近ければ近いほどステータスが上がるのだ!
この狸のネーちゃん。いや、お狸様は俺よりもはるかにヒエラルキーが高いのございます。
俺は揉み手をしながら、下衆な笑いを浮かべお追従をする。ゲヘゲヘ
「それで、やはり茶釜のお狸様ですから、化けたりできるのでしょうか?」
「モチロンですよ!」
エッヘン!ぷい!と自慢気に豊満なお胸をお張りになります。
雪音さんが恨めしげにマミ様のバストを睨んでいる。
「やっぱり木の葉とかで?」
狸や狐が化けるって言ったら、木の葉を頭に載せるもんね。
定番中の定番。
……ふと、思ったのだが玉藻さんも化けられるのだろうか?
マミさんは「チッチッチッ」と指を振り
「古いですねえ。最近は違いますよ。日々進化してるんですから!」
「ほほう」成る程。
「では、実際に化けて見せしましょうか。」
と云ってマミさんは鞄をゴソゴソと漁ると……
子供番組の魔法少女が使うような、マジカルでリリカルなステッキを取り出した。
「ちょっと待てい!!!」
「まさか、それで化けるのか!?」
俺のツッコミにマミさんが頭の上に「?」マークを浮かべ
「お化粧道具とか楽器とかの方が良かったですかね?」
そーいう問題じゃない。
てか、あるんかよ!そんな他の小道具も!
「おかしいよ!!!」
「タヌキが化けるのに魔法少女の変身アイテムはおかしいよ!」
おかしいよね?皆んなもそう思うでしょ?
「そんな事ないですよ!」
「それに、これ「大きなおともだち」たちの間じゃ大好評なんですよ!」
マミさんがムキになって反論してきた。
なんだよ?「大きなお友達」って?
「それじゃあ、こっちで」
と彼女が取り出したのはベルト…ベルト!?
「こうやって腰に装着しましてですね。」
ベルトが光り始めててキュンキュンうなってる
バッ!バッ!と腕を振りポーズを取る。
おほー!たゆんたゆんしよる!
彼女の手にカードが現れバックルの部分へかざす!
「変身!!!」
「Change! SNOW PRINCESS Form!!!」
何やら機械音声がベルトから聞こえる
「化けるんじゃなくて変身じゃねえか!!!!」
激しい光が部屋に広がる、光が収まった時にそこに居たのは
雪音さんだった!
雪音さんが2人いる!どっちだ!?どっちが本物だ!?
……あ!すぐわかった
「こっちが本物の雪音さんだ!」
本物の雪音さんを抱きしめる。
雪音さんは嬉しそうに俺の胸に頭を預ける。
「な!?どうしてわかったの!?」
雪音さんの姿のままでマミさんは驚愕の表情を見せる。
その問に対して、雪音さんの髪をそっと撫でながら
「愛ゆえかな…?」
(ホントはニセモノの方が胸が大きかったってのは黙っていよう。)
そんな茶番が行われている間に
鈍色と天色の最年少式神がマミさんの放り出した魔法のステッキを弄っていた。
何のはずみかステッキが起動し、2人の式神は光に包まれ魔法少女へ変身していく。
それも変身バンク付きで……。
……そういえば、この子たちも狐の式神だったもんな。
だが、魔法少女の衣装でポーズする式神たちが可愛かった。
うひょーこれはいいモノだ!
「言い値で買おうじゃないか。」
マミさんは「ひょっとして売り物になるのかしら?」とシゲシゲとステッキを眺めていた。
雪音さんも負けじとステッキを振り始めたのだが……変身できない。
そもそも雪女なんだから化けられないでしょ。
てか「魔法少女」なんだから雪音さんの場合は年齢制限が……
後日、玉藻さんも化けられるか聞いてみた。
そしたら、何やら強烈な光を放つカプセルとメガネのようなモノと化粧道具を見せられた。
……化け道具としての化粧道具に何か酷く生々しい物を感じた。