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34話 来訪者

誰かが玄関のドア・ノッカーを鳴らしている。


雪音様は不在。

商店街に、天色と鈍色をお供に買い物へと出掛けたのだ。


屋敷の奥から飛ぶように駆ける。

この身は姐さまが仕立てたのかメード服を着ている。


スカートの長いヴィクトリア朝の英国風のメード服。

カチューシャを頭に載せ、大きなヒラヒラのV字エプロン。

加えて、首元に大きな白いリボンタイを付けている。


それにロングスカートなので、以前のようにイチゴ柄を見られる心配が格段に減る。

色々な意味で実用性が高い。


今は衣装に合わせてイチゴではなく白のレースにしてある。

式神の姐さま達がプレゼントしてくれたものだ。


……もっとも姐様達は嬉しそうに黒を薦めて来たのだが。


あるじ様は「すごく可愛い!」と鼻の穴を膨らませながら、手放しで褒め讃えて下さった。

雪音さまは、ふるふると震えながら何かをたぎらせておられた。


概ね屋敷の主人様たちには好評でした。

現在は銀色と藍色と朱色がメード姿だが

これなら追加で天色と鈍色にも用意しよう。と考えております。


……ただ…あるじ様は巫女衣装もお好きなのだ。兼ね合いが難しい。


何しろ巫女衣装よりもメード服のほうが、暗器が隠しやすく取り出しやすい。

身としてはメード衣装の有用性には「浅葱色姐様もきっと褒めて下さるだろう。」と確信している。


来客に失礼の無いように扉の手前で、駆けるのを止め、ゆっくりと歩く。

呼吸を整え、身嗜みを軽く吟味する。

ちょっと背伸びをして、お澄まし顔で扉を開けてお客様の応対する。


「はい。何か御用でありまするか?」


……この口調だけは直らなかった。


お客様に社交界の貴婦人のようにスカートを摘み優雅にに一礼する。

何か盛大に勘違いをしているような気もしないでもありません。


扉の前で待っておられたのは尼僧姿の女性でした。

優しげな目をして、しっとりとした印象のある美しい人です。

が、式神としての感覚で彼女もまたヒトではないことはわかります。


「雪音さんは御在宅かしら?」


涼やかな声で女性は訊ねる。


「生憎と主人は、ただいま買い物へと出ておりまする。」


女性は少し落胆した様子ではあったが

身がシュンとしているのを見ると笑顔を作り


「可愛らしいメードさん。所用があって近くに来たついでに寄っただけなの。」

「約束も何もしていなかったの。だから、あなたが気にすることはないのよ?」


そう云うと、彼女は身の頭を「良い子。良い子。」と撫でられました。

何だか子供扱い。でも優しさにムズ痒くなります。


丁度そこへ「やあ。」と、もう一人の来客です。

天狗の姫様です。


今までは快く訪問をお迎えしておりましたが、今後はそうはいきません。

事もあろうに皆様の面前で、あるじ様に…せ、接吻を致したのでござます!


許せません!

何だかわからないけど、許せません!

後ろを向いて「打つべし!打つべし!」していると


「やあ比丘尼か。懐かしいね。」

「……驚いた。あなた太郎坊なの?」


どうやら2人はお知り合いの様子です。


「何年ぶりだろう?」

「かれこれ100年ぶりかしら?本当に久し振りだわ。……ところで。」


「女性化してしまった……と言うことは。」

「そういう事です。」


どういう事なのでしょう?首を傾げるばかりです。


「勿体無い!!」


「は?」

いきなりの大きな声だったので身は吃驚びっくりしました。天狗様も驚いたみたい。


「ああ、なぜに…なぜに変態メタモルフォーゼなど……もったいなぁい。」


とても……とても比丘尼様の口調がヘンです。首もプルプルと振ってイヤイヤをしておられます。

天狗様の肩にポン!と両手を置いて比丘尼様は真剣な目で


「………真実の愛とは男同士のカップリングにこそあるのよ?」


「えっ!?」☓2

天狗様と身の声が見事にハモリました。


「…………どっちか受けでどっちが攻めか?それが問題だわ。」

「常識的に考えれば、太郎坊が受けなわけなのだけれども………」

「やはり、この場合は攻めの方が…いや待てよ?………待てよ?よーく考えろ!ワタシ!」


「おーい」


「………………。」


真剣な表情で何やら考え始められた尼僧様。

深い深い思考の渦に巻き込まれ、その深淵へと潜られてしまわれた御様子です。

天狗様の呼びかけも、完全にシカト状態でございます。


「……んじゃ!ボクは帰るから。あ、これは甘いもの。おちびちゃん達で食べてね。」


身にお土産の紙袋を渡されると、そう云って天狗様はお帰りになられたのでございます。


いつも身共にお気遣いくださる天狗様を

「許せない」などと考えていたことを、とても恥ずかしく感じまする。


ただ尼僧様は、未だにピクリとも動かれません。


それから30分後、突如として動き出され


「あら?太郎坊は?」

「……帰った?…あらそう残念だわぁ。これからが私の説法の真骨頂だったのに。」


と心底、残念そうな顔をなされ


「あらやだ!もう、こんな時間!ごめんなさいねメードさん。」

「雪音には近いうちに「八百比丘尼」が、また来ますから。と伝えて頂戴。」


「急いで池袋に行かなくちゃ!」


と言伝を身に伝えると、大急ぎで帰られたのでございます。

この顛末を、ご帰宅なされた皆様へお伝え致しましたところ。


あるじ様は


「八百比丘尼?「801比丘尼」じゃねーか!……いや、むしろ「池袋の女」なのか?」


との事でございました。


何やら高尚なお話の様で、浅学の身には全く理解できなかったのでございまする。

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