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3話 社畜ストライク!


皆さんは、公衆の面前で妙齢の女性を跪かせ

「ご主人様」と呼びかけさせる様な男がいたとしたら如何思われるであろう?


変質者!変態!ドS!等であろうか?


或いは他の言葉を連想されるかもしれない。

しかし恐らくはポジティブな受け取り方はなさらないであろう。


少なくとも俺はそうだ。





今、眼前に妙齢の美女が片膝を着き


「あるじ様。」


と俺に呼びかけている。

俺が勤める会社のロビーでの話である。


スーツ姿の女性は、どこか大企業の有能な秘書を思わせ

長い黒髪を後ろでまとめ上げ

目元の泣き黒子がセクシーさを醸し出している。


周囲からのひそひそと声が聞こえてくる。

冷汗三斗とはこの事か……。


「と、とにかくお立ち下さい!」


慌てて女性に立ち上がるよう促す。


「いえ身の如き者が、あるじ様と対等に接するなど畏れ多き事ゆえ。」


頑なに拒否する美女。


「いえ、私も困るものですから。」

「あるじ様がお困りになられるのは身の本意ではございませぬ。」

「それでは、大変に恐縮でございますが」と


「スッ」と女性は立ち上がる


ハイヒール履いてるのもあるんだろうけど、俺より少しだけ背が高いな。

まるでモデルさんのようなスタイルの女性だ。


「あるじ様には、お初にお目にかかりまする。この身は浅葱あさぎ色と申す者にございます。」


浅葱あさぎ」色ね。「色」ね。あーなるほど。。。


アレの関係者かよ!!!


「ごほん。えー、浅葱さん。で、よろしいでしょうか?」

「どうぞ浅葱と、お呼び捨てにして下さいませ。」


(できるか!)


俺は彼女の要請を、聞かなかったことにして尋ねる。


「それで浅葱様は本日どのようなご用件で私を?」


「はい。主上さまからの言伝を」


(電話かメールにしろよ。。。)

(いちいち使いのあさぎを寄越すんじゃねえよ!会社に!)


そんな事を思ったが、口には出せないヘタレな俺であった。


あくまで!あくまでこれはビジネス上での件なんですよー!という口調で


「それで先方様は何と?」


「愛してる!!! 捨てないで!!!」


浅葱色はロビーに響き渡る声で言伝を伝えた。


そしてロビーは「シーン」と静まり返った。



昼休み。俺は自分の机で頭を抱えていた。


ポンと誰かに肩を叩かれる。


ああ、これがあの有名な肩叩きってヤツなのか……

さよなら社畜人生。

辛いこともあったけど、それなりに楽しかったよ……


「よう! 大変だったみたいだな。」


笑いを噛み殺したような声の主は大西次長だった。


「俺クビですか?」

「なんでよ?」

「だって会社のロビーであんな騒ぎを……」


次長は大振りに手を振って、笑いながら


「あんな事くらいでクビにするわけねーだろ。」


「むしろ男を上げたくらいだろ?」

「女が会社まで追っかけて来て跪いて「捨てないで!」だもんな!」

「山本本部長だってニヤリとしてし、堀顧問だって「若いのにヤるねぇ」って笑ってたぞ。」


そんなエライさん達にまで知れ渡ってんのかよ!


「まあ、何にせよイザって時は俺が庇ってやるから気にすんな!」


次長!俺一生あんたに付いて行きます!


「今日は弁当じゃないのか? じゃあ外に食いに行こう。奢ってやる。」


弁当は忘れました。

今朝、屋敷で騒ぎがありまして・・・電車に乗ってから忘れたの気づきました。

その騒ぎの結果が、あの伝言すてないでだよ!!


次長の後に付いて一階へと降りる。


「いつもの弁当は今朝の女に作らせてたのか?」


「違いますよ!」と否定する。


「ま、そうだろうな。」


「前に味見させてもらったが、あの味は今時の若いもんに出せる味じゃねえしな。」

「お袋さんあたりか? あの煮しめ食った時には、俺は死んだ故郷くにのお袋を思い出したぜ。」


次長、作ってるひとは、たぶん亡くなられたお母さんより年上です。



ロビーまで来ると

手に大きな風呂敷包みを抱えた中学生くらいの女の子が

キョロキョロと誰かを探している。


こちらを見ると一直線に飛ぶように向かってくる。


そしてパッと荷物を脇に置くと、その場に平伏し


「あるじ様。お忘れ物のお届けにあがりましたでありまする。」


「お前、銀色かぁー!!!」

狐の仮面を外した銀色だった。


俺が銀色の来社に驚いているとポンと肩が叩かれる。


「すまん。これはもう、ちょっと庇いきれないかもしれない……」

次長が首を振りながら告げる。


「い、妹ですよ! 夏休みで田舎から出てきてるんです! 」


「え? でも、お前確か一人っ子のはずじゃ……」


「お、親父の隠し子で! は、腹違いなんすよ!マジで! 」

 

ゴメンナサイお父さん。今あなたに娘ができました。


「さ、お兄ちゃんと一緒に外で飯食おう!」


銀色の手を引き慌てて外へと逃れる。



会社からある程度離れた公園のベンチにドッカと座り

「あーヤバかった……」と呟く。


すると荷物を抱えたままの銀色が

「あるじ様、銀色が来たの迷惑だったでありまするか? 」


銀色は泣きそうだ。

素顔を晒してる今なら良くわかる。


俺は「フッ」と笑って


「バカだなー。銀色が弁当持ってきてたんで嬉しいよ! 」


そう云って優しく頭を撫でてやる。


すると今まで泣きそうな顔をしていた銀色は「パーッ」と笑顔になる。


「良かったでありまする!」


……か、可愛いなコイツ。

い、いかん俺はロリじゃない!ロリじゃない!必死で自分に言い聞かせる。


「さ、さあ、一緒にお昼にしよう。」


と、誤魔化すようにベンチに重箱を広げ銀色と食べ始める。


「あるじ様、奥方さま。雪音様より言伝です「ごめんなさい」だそうでありまする。」


雪音さんまで、お使い便かよ……


ふと気づいて銀色に


「なあ銀色。外で……他の人が居るとこで「あるじ様」なんて言っちゃダメだぞ?」


「それでは何とお呼びすれば良いでありまするか?」


「そうだな・・・「お兄ちゃん」って呼べよ! 」


「「お兄ちゃん」でありまするか? 」


「うん「お兄ちゃん」だ。」


「あとな、平伏すんな。お願いだから。土下座して頼むから!これ大事!すごく大事!とても大事!」


銀色が真剣に頷いて


「わかりましたでありまする。ある・・・お兄ちゃん」


思わず2人で吹き出す。


昼が終わる。「んじゃ気をつけて帰るんだぞ?」

銀色は俺より強いけどな!


仕事場に戻ると女子社員に取り囲まれた。


「ちょっと!今朝の件もそうだけど、昼の件は何?」

「あんな中学生くらいの子を土下座させるなんて!あんた何様!?」


俺がタジタジになって言い訳を考えていると


「妹だぞ!」


次長席から声が飛ぶ。


「あれは姫神の田舎から出てきた腹違いの妹だ!」

「兄貴をカラかおうと、ちょっとしたイタズラだったそうだ!」


「わかったら全員席に着け!もう午後の業務は始まってるんだぞ!」


俺の周りに集まっていた女子社員たちは「は、はーい!」と席へと戻る。


俺が次長を見ると、彼はニヤリと笑った。









で、終われば良かった。


勤務が終わり会社を出ると皆が俺を待ち構えていた。


「あの・・・今朝はすみませんでした!」

「我も悪かった・・・すまぬ。」


雪音と玉藻が揃って頭を下げる。


「ふ、もう怒ってないよ。」


2人に優しく声をかける。


「せっかくだからな。皆で、なんか食って帰ろう!」


こうして皆を引き連れて食事へと向かった。




翌日、会社では「姫神が着物と金髪と大勢の幼女引き連れて帰っていった。」

てな噂が流れた。

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