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25話 降魔の僧

「そなた憑かれておるな?」


遅くなった会社の帰り路、こんな事を言われた。


「確かに、疲れているかも……」

「そうであろう。」


俺の身を心配してくれているのは

網代笠を被り、 墨染すみぞめ直綴じきとつをまとった若い僧だった。

目深に被った笠から鋭い眼光が覗く。


「でも大丈夫。栄養ドリンク飲んだし。」

「?」

「明日行けば土日は休みだから、心配しないでね。」


顔色が悪かったのだろうか?ここんとこ仕事が忙しかったもんなあ……

見ず知らずの人のこと心配してくれるなんて良い人だよね!


「そっちの「疲れている」ではない!「憑かれている」だ!」


思わずお尻を押さえる。

「そんな趣味ないし。」

そういうの好きなら二丁目に行ってよね!


「そりゃ「突かれている」だ!」


疲れるなあ……


「そなたは怪異妖異に「疲れてる」か?って聞いとんじゃ!」


「「憑かれてる」だよ!」

いや、待てよ…「疲れてる」でも合ってるかもしれない?


「わかってんじゃねえか!」

ゼエゼエと荒い息で僧は抗議をしてくる。

ボケなきゃいけないかと思って。



「……とにかく、そなたから容易ならぬ妖気を感じたのだ。なんぞ心当たりがあろう?」


心当たりなら山ほどある。

そもそも妖怪たちと同棲してんだもの。

妖気も疲れも出るだろう。

栃木名物しもつかれ。そーいえばアレ稲荷様にお供えするそうな。


「わかりますか?」

「わからいでか!只ならぬ妖気が残留しておる。」


僧は俺を上から下までジロジロと眺め「信じられぬ者を見た。」と言った風情で


「……有りえぬ話だが、まるで複数の妖異と一緒に暮らして寝食を供にしてるかのようだ。」


すげー。当たってるよ!

……この坊さんは一体、何者なんだ?


「あなたは一体…?」


問われた僧は網代笠を外す。

「私は降魔を生業とする旅の僧で「月照」と申す者。妖異に憑かれておるなら調伏して進ぜよう。」


キリッとした眉と凛とした瞳が印象的なイケメン僧だった。


降魔ってなんだっけ?退魔師みたいなもんだったか。

ウチには祓って貰うような悪い妖怪いないしなあ。


でも、こういう善意の人って良いも悪いもないからなあ。

妖怪イコール悪即斬みたいな。

すっとぼけて逃げるか。


「だーれーじゃ?」

俺がイケメン雲水と向き合っていると、いきなり後ろから目隠しをされる。

背中に当たる、この感触は…玉藻さんか…。厄介なときに厄介な妖怪ひとが。


「玉藻さんでしょ。胸があたってるもの。」

「貧相で、申し訳ありません。」


背後から雪音さんの冷えきった声が聞こえてきた。

身体中にブワッと汗が吹き出す。なんで2人が一緒にいるんだ?


「妖狐に雪女だと!災害ハザード級の妖異が集うとは…一体何事だ?」


空気読めよ!こっちは、それどこじゃないんだ!

如何にして、さっきの失言を誤魔化すか?それが喫緊の課題なんだ!

(でも、ボカァ大きいのも好きだけど程よい美乳も好きだなあ。)とか、どうだろう?


「おん あぼきゃ べいろしゃのう まかぼだら まに はんどま じんばら はらばりたや うん


突如、目の前の僧が経を唱えだす。ヤバイ!2人が祓われる!

と思って雪音さんと玉藻さんを見ると……

2人は顔を見合わせて「ポカ~ン」としていた。


あれ?


「むぅ…さすがは八寒地獄の冷気を司る雪魔と傾国魔性の妖狐よ!」

「万物の慈母の真言を持ってしても動ぜぬとは!」


誰?そのオドロオドロしい悪の妖魔っぽいの?

ひょっとして雪音さんと玉藻さんのこと?


2人を見るとヒソヒソと話をしてる。


「どうするアレ?」

「やられたフリしてあげましょうか?」

「なんで、そんなことしてやる必要があるのじゃ?」

「だって…」


全然、効いてない。良かった。


「ならば!これはどうだ!」

と僧は懐から紙を取り出すと読み上げ始めた。


「高天原に 神留坐す神漏岐、神漏美の命以ちて皇親神伊邪那岐の大神

 筑紫の日向の橘の小門の阿波岐原に禊祓ひ給ふ時に…以下略!!」

決して作者が挫けたわけではない。…くじけてないよ?


天津祝詞か!?これ神道だ!

「おい!仏教徒!!」思わず俺は叫ぶ。


しかし流石に、これはヤバイか?と思って2人を見る。

キョンとした顔して突っ立っていた。


およ?


そして玉藻さんがニヤーッと悪い笑みを浮かべる。

あ、これはネズミ見つけた猫の目だにゃー。……狐神なのに。


「ふははははははは!笑止!我等は妖怪!この大八州おおやしま八百万やおよろずの神々ぞ!祝詞など効くものか!」


言い方が、すごい悪の組織の女幹部っぽいです。

隣の雪音さんが玉藻さんの悪ノリに(はぁ…頭痛い)と頭を振っている。


その玉藻さんの哄笑に月照はたじろぐ。


「な、ならばこれならどうだ!!」


懐から十字架と聖書と瓶に入った聖水を取り出す。

「神と子と精霊の名においてエ゛ェェイ゛ィメン゛ッッ!!!」


もはや日本の宗教関係ねえ!

あ!玉藻さんに聖水飲まれた。


玉藻さんの悪ノリは続く。

「効かぬ!効かぬなあぁあ!!!」

両手を戦慄かせ、暗闇で眼を蒼く光らせながら哄笑していた。


雪音さんに「なんか大丈夫っぽいから飲み物で買ってこよう。」と提案し

2人で近くの自販機まで飲み物買いに行くことにした。

戻ってきてみたら、まだ続いていた。


玉藻さんは「退魔マダー?」と云いつつベンチに座って靴脱いでペディキュアを塗っていた。

さすがに飽きてきたらしい。塗った箇所にフーっと息を吹きかけている。


一方で月照はゼエゼエと荒い息を息をつきながら

「……急々如律令奉導誓願何不成就乎!」


道教まで出てきた。もうやめたげなヨ。可哀そうでしょ?

「玉藻さん!もう帰るよ。十分に遊んだでしょ。」と声を掛ける。


玉藻さんは慌ててパンプスを履くと、俺の腕に腕を絡めてきた。

「あー面白かった♪」

……程々にね


玉藻さんを見て手をワキワキさせていた雪音さんも、負けじと反対側に腕を絡める。

おお!両手に華!


疲れ果て手を地面につき、膝を着いていた月照が玉藻さんに訊ねる。


「はぁはぁ……ど、どうやったらお主らは祓えるのだ?」


ニコニコと俺の腕に引っ付いていた玉藻さんは

真面目な顔で振り返り、月照に向かって


「我らを倒したいか?ならば物理でこい!」

とドヤ顔で言い放った。



……あなた達を倒すのって戦術核が必要とか、絶対にそういうレベルだよね。

そんな事を考えながら帰路についた。


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