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婚活天狗

ひめ様、わたくし結婚したいです。」


ショートの黒髪、キツめの目をして如何にも有能な秘書!と云った風情の

烏天狗の女性である八咫やたが何かを、思いつめた様子で切り出した。


「はい?」

長い長い銀色プラチナの髪をゆったりと、おさげにした緑色エメラルドの瞳を持つ女性が

にこやかな笑みを浮かべて聞き返す。


「結婚したいんです!」


八咫は真剣な表情で繰り返す。


「突然どうしたの?誰か結婚したい人でもいるのなら別に構わないけど。」

「そんな人いませんよ!」


わけがわからない。困惑の表情で姫は事情を八咫に訪ねた。


彼女の説明よるとこうだった。


仕事が終わって自宅に帰り、一風呂浴びて冷蔵庫からビールを取り出し

テレビのスポーツダイジェストを見ながら

チビチビっていたら突然に「結婚したい!」という衝動が襲ってきたのだと。


「仕事一筋300年。私だって、そろそろ女の幸せを掴んだって良いと思いませんか?」

「掴めばいいじゃない。」

「相手がいないんです!」

「探せばいいじゃない。」

「見つからないんです!」


電車道のような会話だった。太郎坊ひめは匙を投げることにした。

サジを社畜に丸投げしたのだ。



「なぜ俺に投げる?」


期待に満ちた目で社畜を見つめる八咫がいた。


「300年間の男日照りで、いささかこじらせたようなので。」

天狗のひめの説明に「…知らんがな。」と社畜。


「世話をしろと言われても……天狗仲間じゃ駄目なのか?」

「それはNGです。」とキッパリとした口調で八咫が否定する。


太郎坊ひめが補足する。

「向こうが怖がって駄目なんです。」


この八咫ポンコツは、こう見えて仕事はデキる女らしく

いわゆる人間の女性で云えばバリバリのキャリア・ウーマンに相当するそうだ。

で、男のカラス天狗たちにはとっては、近寄りがたい存在である。とのこと。


「ポンコツだって事、教えればいいのに。」


佳い女とは、それとなく男に隙を見せるものだ。


八咫の場合はポンコツっぷりを見せれば

「あ、こいつちょっと可愛いとこあるじゃん。」と思われることだってあるだろう。


「仕事に支障をきたしますので。」と八咫。

(そもそも天狗の仕事って何よ?)とは思ったが


「まさか人間の男を紹介しろ。と?」


良いのかよ?と太郎坊ひめを見る。


「まあ、ボクが君に言い寄ってる時点で、お察しして欲しいんだけど。特に問題はないよ。」


紹介しろと言われてもな。頭の中で数人リストアップしてみる。

貴兄は…八咫ポンコツが親戚になるのは嫌だ。

友人たちは…結婚してたり彼女がいる。


「諦めてくれ。」「嫌です。」


いきなり即答された。


「会社の同僚とか誰か居ないんですか?この際、男なら誰でも良いです。」


ギラギラとした瞳で俺の顔を覗き込んでくる八咫ポンコツ


ハハハ!コヤツめ!……単に発情期なだけなんじゃねえの?

烏天狗に発情期とかあるかどうか知らんけど。


会社。会社の同僚ね。

「……妖怪だって最初から教えるのか?」

当たり前の事実に戦慄する。冗談じゃない!こっちだって会社での立場ってもんがある。


『結婚願望のある妖怪の女性に男性を紹介してくれ。って頼まれたんだけど一回会ってみない?』

『お前、頭大丈夫?』


こうなるの確実じゃねえか!


「そこは心配御無用!」八咫は握り拳を作って力説する。

「まず既成事実を作って抜き差しならない関係になってから説明すれば良いんです!」


彼女はそう云って、握った拳の真ん中から親指を出す仕草をする。

駄目だ。こいつ早く何とかしないと……。ポンコツどころかスクラップじゃないか。








「次長。そーいえば次長は独身でしたよね?」

書類を提出するついでに大西次長に訊ねてみる。


書類の数字を確認しながら次長は

「ん?……ああ、何となく結婚しなくて独身のままズルズル来ちまっただけだけどな。」


俺は次長に耳打ちするように話す。


「見合いの真似事とか、してみる気はありませんか?」

「何だ其れ?」

「いや、知り合いの女性に良い人がいたら紹介してくれ。って頼まれちゃって。」


彼は俺に書類を渡しながら

「へえ、どんな女性ひとだ?」あれ?食いついてきた。

「(見てくれだけは)綺麗な人です。」

次長には悪いが肝心なところは省略させてもらった。


「まあ会って食事するくらいなら良いぞ。」

「俺も一人じゃそろそろ寂しくなってきたからな。良い機会かもしれん。」


「……嫌なら断っても良いんですよ?」俺は念を押す。


「世話したいのか?世話したくねえのか?」


そう云って笑いながら書類を丸めて俺の頭をポンポンと叩く。

……良い上司なんだよな。あんなの紹介して大丈夫か?



で、数日後にセッティングされた居酒屋で、飲み会と云う名のお見合いが行われる事になった。


驚いた事に八咫は気の付く尽くす女を演じていた。

何時ボロが出るのやらとヒヤヒヤしていたが、最後まで乗り切ったのである。

これは、もう奇跡である。


で、連絡先を交換して無事にお開き。

意外なことに次長もまんざらではなかった様子だ。……あんた騙されてるよ。






翌日、出社すると大西次長は机で頭を抱えていた。

(ああ、あの八咫ポンコツ何かやらかしやがったな?)と察する。


「次長。お早うございます。」(何かありましたか?)と小声で訊ねる。

「ああ、姫神か。……すまん。あの話は無かったことにしてくれんか?」


やっぱりな。と思いながら

「……彼女が何かやらかしましたか?」


次長が語った顛末によれば………









飲み会が終わって次長が自宅のマンションに帰宅してロックキーを解錠していると

いきなり耳元にふ~っと息を吹きかけられた。


驚いて振り返ると、八咫が妖艶な笑みを浮かべてそこに立っていた。

今まで誰が居た気配もないのに、忽然と彼女は背後に現れた。

おかしいな?酔っているのか?と思ったが然程呑んだ記憶はない。


そもそも住所も教えていないのに、何故ここがわかったのか?

「……珈琲を一杯、ご馳走して下さらないかしら?」

彼女は次長の顎を撫でながら艶然と云った。


訳がわからなかったが「まあコーヒーの一杯くらいなら」と部屋に上げたまでは良かったのだが…

彼女は、そのままキッチンでは無く寝室へスタスタ歩いて行くと

ベッドに寝そべり「COME ON…」と手招きした。


………結局、そのまま帰ってもらった。




「俺は、ああいうの駄目なんだわ……なんつーかギラギラした肉食獣っぽい女性は」

俺は、それを聞いて頷き。



「断っときます。」と明るく言い放った。



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