対決
草木が風に揺れる
キュキュッと雪音さんが着物にタスキを掛けてゆく。
遠くからゴロゴロと鳴る音が響く。
「覚悟は良いか生娘?」
風にその黄金色の髪を揺らしながら真剣な表情で玉藻が雪音に声を掛ける。
「今日という今日は決着を付けましょう。」
長く美しい髪を後ろでまとめ上げハチマキを締めた雪音が玉藻をキッと睨み拳を構える。
玉藻はサッと上着を風に投げ捨てると、やはり拳を構える。
俺達は、そんな2人を遠巻きに見つめる。
「どっちが勝つと思う?」
「両者共倒れに一票。」
他人事のような会話する座敷わらしと天狗の娘。
ゴロゴロと音が近づいてくる。
緊張感は嫌が上にも高まる。
「いざ!」 「おう!」
両者、構えを取り、今まさに激突せんとする2人の間を
3輪車に乗った子供たちがゴロゴロと音を立てて通り抜けていく。
「はーい危ないから、皆お姉さん達から離れてねー。」
と、俺は子供たちに注意する。
近所の公園でのことであった。
構えを取ったままの2人に子供たちがまとわりつく。
「ねえねえ、おねえちゃんたち何してるのー?」
「ケンカしちゃいけない。って保育園のせんせーがいってたよ?」
保育園児に諭される齢数百年の妖怪たちって一体………
「……愛ゆえに」
「愛ゆえに人は争わなければならないのです。」
悲壮な顔をして子供たちに、そんな説明する雪音さん。
どこぞの聖帝様みたいなこと言い出した!
「哀しい女よ。誰よりも愛深きゆえにな…」
闘気を滾らせつつ玉藻が言う。
こっちはこっちで、どっかの伝承者みたいなこと言い出した!
何で、こんな事になったのか?と問われれば、何時もの通りのパターンでと答えるしか無い。
最初の頃はオロオロしていた俺も、最近ではすっかり慣れた。
2人にとっては定期的なジャレ合いだと理解している。
だが釘は差す。
「雪音さん、玉藻さん!子供たち巻き込んだら幾ら2人でも許さないからね!」
2人の動きがピタリと止まる。
そして、いそいそと子供達を抱きかかえて、安全圏の俺たちの所へと運んでくる。
「いざ!」 「おう!」
子供の一人が俺に尋ねてきた。
「なんで、おねえちゃんたちケンカしてるの?」
俺は天を仰ぎ見て目を細める。
「なんでだろうねえ………」
「おめーのせいだよ。」
座敷わらしから的確なツッコミが入る。
「……どっちも好き。じゃ、やっぱり駄目だよな?」
「アホか?女てのはな、三歳児だろうが千歳だろうがオンリーワンじゃなきゃイヤな生き物なんだよ。」
フーッ!フーッ!と猫みたいに威嚇しあってる二人を見ながら座敷わらしは続ける。
「以前は玉藻のアホも二号さんだ三号さんだの冗談言ってたが、最近じゃ雪音相手にムキになって張り合うようになってきた。」
ジロリと俺を睨みながら
「本気になって来てんだよ。そのくらい鈍感のおめーにだってわかってんだろ?何時までトボけてる気だよ?」
「…うん」
そんな煮え切らない俺の態度を見て座敷わらしの童女は吐き捨てるように
「……何時か刺されるからな?」
それは困る。「夏樹死ね!」コールは勘弁願いたい。
「……とにかく!じゃれ合ってる内に止めてこいや!」
そう言って彼女は俺の背中を力いっぱい叩く。
「わかった。」と二人を止めるべく歩き出す。途中振り返り座敷わらしに
「童女。お前、良いやつだな。」
そう言うと童女は顔を真っ赤にして
「バーカ」とそっぽを向いた。
天狗の娘は、そんな俺達を見て笑っていた。




