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ギターを抱いた不審者

「ちょっと待ちな。生き急ぐ若者たちよ。」

男はテンガロンハットを目深く被り、ギターをポロンポロンと爪弾きならが俺達に近づいて来る。

どこか昭和から抜け出きたような、そんな風体をした男だった。


「ボクたちは、互いの愛を確かめに行くので邪魔しないで下さい。」

雪音さんを引き寄せながらキッパリと言ってやった。


チッチッチッと指を振る。

「いや、早まってはいかん若者たちよ。」


「ボクたちは世に許された許嫁同士なんです。ほっといて下さい。」

こっちだって必死だ。


大体なんだ?このオッサンは。

こういう時は「がんばれよ若人」と優しく見守るのが大人の役目てもんじゃないんですかね?

こんなことしてる間にも雪音さんの気が変わったらどうする。

女心と秋の空って言うだろ!


ああ、そうだよ。やりたいさ!やりたいよ!やりたくってたまんないよ!

でも、それの何が悪いというのか。

健康な男性なら魅力的な女性に劣情抱くのは当たり前じゃないか。

魅力的な男性に劣情抱けとでも云うつもりか?

ふざけんな!


ふう


オッサンが懐からタバコを取り出すと口に咥える。

火は着けずに「ふーっ」とため息をつき、俺を憐れむような眼で見てから。

「…お前全部口にしてたぞ」


「うそぴょん!」


雪音さんは人差し指をと人差し指を合わせながら

俺をやはり憐れむような申し訳なさそうな眼で見て

「…あの…その…なんかゴメンナサイ。」

そんな哀れみと同情の眼差しで見ないで。


「これが滲み出る童貞臭というモノか。」

「ど、ど、ど、ど、童貞ちゃうわ!」

「動揺し過ぎ。」


なぜ初対面のオッサンにここまで言われなきゃならないのだ。

「さあ、もう行こう雪音さん。」

雪音さんの肩を抱こうとした俺の手はスカッと空を切る。アレ?

ススッと俺から離れる雪音さん。捕まえようと近づくとその分離れる。


「なんか…今は…イヤかな?」


髪をくるくると弄びながら恥ずかしそうに

「何か欲望のはけ口にされそうな感じが…その…ちょっとイヤ。」


そしてなにか、ウットリと夢見るような様相で語り始めた。

「やっぱり、こういうのって雰囲気ムードって大切ですし…愛し合う2人の気持ちが盛り上がって自然に。…ね?」

処女か!?そうだ処女だった!こじらせてる!。

「ごめんなさいね。」

と手を合わせてウインクしてくる。


「ホラ気が変わったー」絶望のどん底。


「やっちまったなー」

とポロンポロンと悲しげな曲を弾くオッサン。ニヤーリと不気味な笑み。


膨れ上がる妖気。オッサンの雰囲気がガラリと変わる。牙が生える。

「労せずして目的の一つは達成できた。かな?。」



雪音さんが俺を守るように前へと出る。

「気をつけて。ヒトではありません。」と警告を発してくる。

女の子に守られる俺すごい格好悪い。


雪音さんはスッと右腕を上げると男に警告する。

「動かないで下さいましね。」

(ああ、この雪音ひとも、やっぱり姫神女の一人なんだなあ。)と実感する。


男はヤレヤレといった風情で首を振ると

「雪姫と、やりあう気はないんだ。。げボぉ!」


男のミゾオチに雪音さんの正拳がめり込む。

せめて口上くらい最後まで言わせたげなよ。


「……も、申し訳ないが、いま退くわけにはいかないんだなあ。」

みぞおちを押さえ脂汗を流し、雪音さんをからかう様に男が笑う。

…無理すんなよ。すごく痛いんだろ?。




その時だった。俺はイキナリ誰かに引っ掴まれて地面から跳躍させられた。

ドンドン地面が遠くなる。雪音さんがこっちを見て慌てている。


やがてはビルの屋上へと俺を攫った何者かが着地する。

見ると厳つい顔をした大男だった。正直怖い。

屋上には細い目をした小男が待っており、彼は何かの油瓶ようなモノから油を広げると

そこへ飛び込んだ。続いて大男は俺をその中へ俺を放り投げた。




雪音は、自分の迂闊さを呪いながら、愛おしい男が消えたビルの上部を目で追う。

だが既に、その姿はなく声すらも拾えない。


キッとなって正面のテンガロンハットの男へ向き直ると

「返して!あの人を返して!」と哀訴する。


男は怯えるように雪音を見ると

「とりあえず、その拳をこっちに向けるのはやめてもらえませんかねぇ。」


ジリジリと男は雪音から距離を取る。

「では、雪姫。おさらば。できれば、もう二度と会いたくありませんな。」

男も雪音の一瞬の隙を突いて跳躍する。


その場には雪音だけが残された。





屋敷では式神たちにと、雪音が作っていった稲荷ずしが山と積まれていた。


それを一つ摘んで寿司の表面を舌でそっと舐め、そして軽く噛む。

「あの二人どこ行きやがった?」

茶髪のギャルを思わせる座敷わらしが天狗の娘に聞いた。


モグモグと咀嚼し終えてから銀髪おさげで緑眼の天狗の娘が答える。

「デートだって。羨ましいよね。」

手についた油を口でペロリペロリと舌を出して丁寧に舐めとる。


今この場にツッコミ役の社畜が不在である事が実に惜しまれる。


銀色たちは式神は稲荷を夢中で食べていたが、ピクリとして玄関の方を向く。

「帰られましてございまする。」


ドタドタという足音が聞こえたかと思うとドアが開かれ

髪を振り乱し、泣きながら雪音が飛び込んで来た。


「どした?いきなりパンツの中に手でも突っ込まれたか?」

座敷わらしが茶化すように云う。


雪音は泣き崩れるようにへたり込み

「だ、旦那様が……誘拐さらわれちゃった。」


ピタリと皆の動き止まる。

「誰によ?」怖い顔をして座敷わらしが聞く。

「天狗達に招集かけるよ。場所はどこ?」



「こんな事になるなら、嫌がらずホテル行ってあげれば良かった。」


「………」

「今なんつった?」

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