玉藻
玉には何が起こったのか最初は理解できなかった。
目の前で若者が。自分と一緒になると言った若者が。
玉藻様に剣で貫かれているのだ。
若者の背中から突き出した切っ先は血に濡れている。
玉藻は視線を玉に向けるとニヤリと笑った。
周囲には村の主だった重鎮がおり、この痛ましい惨劇から目を背けていた。
(どうして?なぜ?どうして?どうして?どうして?)
「祝いじゃ」と玉藻は玉の心を見透かしたように云う。
「我と同じ異形。我と同じ異能。それが只人の幸せじゃと?女としての喜びじゃと?。」
「断じて認めぬ。断じて許さぬ。」
玉藻は若者から剣を引き抜く。
支えを失った若者は、その場に力なく倒れこむ。
その時に始めて玉は絶叫した。
「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
玉は慌てて若者に駆け寄り、その身を抱き締める。
巫女の貫頭衣が血に染まっていく。
「いやだ!いやだ!嫌だ!嫌だ!」
血で染まることも厭わず若者の顔に頬ずりをする。
こんなにも愛おしい。
こんなにも狂おしい。
それを見ていた玉藻が笑う。
「悔しいか?悲しいか?辛いか?我が巫女よ!。」
「お前の愛した。お前が契りを交わした。その者が死するのが怖いか?。」
玉藻は持っていた血塗られた神剣を玉の側に投げて寄越す。
「…我が憎かろう?我が恨めしかろう?お前の男を殺した我が、さぞや憎かろう?」
玉は目の前に置かれた神剣を見る。
(許せない!許せない!許せない!許せない!許せない!許せない!許せない!許せない!)
玉は、その血塗られた神剣を掴む。
(憎い!憎い!憎い!憎い!憎い!憎い!憎い!憎い!憎い!憎い!憎い!憎い!)
(わたしのひとを!わたしの夫を!わたしの男を!殺したあの女が憎い!)
玉藻は、そんな玉の様子に狂したような喜びを見せる。
「そうじゃ!もっと憎め!恨め!」
「我を憎め!恨め!そしてその神剣で我を貫け!」
玉は、ゆっくりと神剣を構える。
「その神剣でなければ我を殺せぬ!我は死せぬ!さあ!貫け!」
ズッ!
神剣「無銘」は玉藻を貫いた。
貫かれた玉藻は両刃の剣を掴み「まだじゃ!まだ足りぬ!」と自ら押し込んでいく。
「死ねる!ようやく死ねる!虚無の静寂へと!輪廻の海に帰れる!」
玉は更に神剣を玉藻の身体へと押し込んでいく。
「玉よ。…我が巫女よ。お前に我がチカラと名を与えよう。以後はぬしが玉藻だ!」
「者ども聞くが良い!以後は、この者が玉藻だ!新しき狐神だ!」
神剣から玉へと何かが熱い何かが流れ込んで来る。
貫かれ死の間際を向かえた玉藻には何かが見える。
「…待っていた。迎えに来てくれたの?。ずっと会いたかった。」
穏やかな微笑を浮かべ玉藻は息絶える。
玉は神剣を引き抜くとカラリと取り落とした。
そして愛おしい男の元へと駆け寄る。
抱きしめると、若者からは、今まで感じられなかった温かさと優しい「波」を感じる。
「死なないで!」「わたしを独りにしないで!」
若者は薄っすらと目を開け「泣くな。」と呟いた。
「…またいつか会おう」と最後に言い残すと「波」は引くように消えていった。
玉は何時迄も若者の亡骸にすがって泣いていた。
書いておいて何だけど
ほのぼのタグぅ・・・(´・ω・`)