1
どうやらリックは道に迷ったらしい。
まぁ同じことか、むしろ都合がいい。
リックは心の中で呟き、開け放たれた門をくぐる。
彼にとって今、怖いものはなかった、本国であの悪魔のようにタチの悪いレーサー達に比べれば!
安さだけが命のリックの整備工場に半月前やって来てからというもの、
無理難題を豪語しては脅してくる。
友人に相談したところ、日本にはメカニックに強い連中がたくさんいる、と話を聞き
なんとか力になる奴がいないかと思ったのだ。
だが日本大手の工場には断られ続けた。
それも仕方がない、いきなり見知らぬ外国人に力を貸してほしいなんて、怪しく感じないほうがどうかしてる。
もうこのさい学生だろうと、能力があれば雇おう。
リックは半ば自暴自棄になっていた、頼る当てが尽きた。
狭い公舎の横に規模の小さい工場。
授業で使うのか整理された道具と何台かの日本車があった。
スバル、三菱にホンダ…そしてトヨタ。
そのトヨタの前で、誰かが横になっていた。豪快ないびき、体調が悪いわけではなさそうだ。
どこの学校にもサボる奴はいるなと呆れて、リックはまじまじと眠る少年を見た。
短髪の黒髪、
力のなさそうな細い手足、
幼い顔つきで女みたいにまつげが長い。
彼の工場で働く男たちとは正反対の印象。
向いてなさそうだな、彼。
リックはつい苦笑いをしてしまった。
と、後ろから声。
振り向くと、少年と同じつなぎを着たがたいのいい青年が油まみれ出てて来た。
「おっと外人かよ…俺は、この、ヒロに用事があるんだ。
オーケー?」
リックに気付き、彼は困った顔をしながら、そう言う。
リックは少し微笑んで答えた。
「大丈夫、ちょっと話せる。ヒロってこのボーイかい?」
リックが日本語を話すと、男はなんだよと照れながら安心して、うなづいた。
「こいつはヒロっていうんだが、変わった奴でな。
おい、起きろ。杉田が来るぞ、
また点数もらえねえぞ!」
肩を揺らされても、ヒロは全く起きる気配がない。
男は諦めて、ヒロを背負う。教室に連れていくのだろうか。
「眠りが深いね、お昼寝?」
「いや、寝てないだろうからなコイツ。
組み立ててたからな、アレ」
男はトヨタを顎でさした。
リックは驚く。
まさか車を一人で組んだわけじゃないだろうが…日本は車を一台組み立てるなんて乱暴な授業をしてるのか?
「そんなことしてるのはヒロくらいだよ。
もともとバラされてた部品を、
一晩かけて元通りに組んじまうなんて…バカだよな」
リックは少年の寝顔を見る。
車は見たところエンジンもなく、部品も痛んでいる。
廃材だったのだろう…だが、エンジンがあればコレは走れる。
走れる状態まで計算して部品を組み、サスも調整した。
それを一晩で…。
プロでも一ヵ月はかかる完成度。
「ヒロか」
素晴らしい腕だ、とリックは素直に感激した。
これほどの腕なら働く場に困らないだろう。
ダメもとで交渉してみようと、職員室に入った。




