第二話 最初の仕事
第二話 最初の仕事
地獄流しを任された俺ーー鹿屋勝(今は閻魔勝)ーーは仕事の要求が入ってこないので、地上世界に戻ることにした。閻魔大王によると俺は地獄と地上世界とを行き来することが出来るらしい、ただし名は閻魔勝で行けと釘を刺されている。
「ここが地上世界の入り口か…」
数分地獄の道を歩いていると、重々しい扉の前にたどり着いた。ここから地上世界に出れると確信し、扉を開けた。
すると体が上に引っ張られる感覚に見舞われた。
「うわっ!!」
気付くと俺は平井学園の正門前に立っていた。服も平井学園の学生服に変わっていた。ただし手首にある数珠と俺が腰につけていたポーチの中の藁人形だけは変わっていなかった。
「うっ…」
しばらくしていると俺は首の後ろに痛みを感じた。それは依頼主が地獄絵馬に何かかいたのだ。それと同時に目の前に窓のようなものが出てきた。依頼主の要求は『平井正人を地獄に落としてください』とあった。俺は至急閻魔神社に向かった。
◆
「俺を呼んだか?」
後ろから声をかけられ朝島啓子 は後ろを振り向いた。そこには平井学園の学生服を着た男子生徒だった。
「あなたは…?」
「俺か?俺は閻魔勝。地獄流しを担当している。受けとれ」
朝島は閻魔から藁人形を受け取った。
「この紐を解くと俺との契約は成立…契約の証として胸に刻印が浮き出てくる…憎い相手はすみやかに地獄へ流される…ただし」
彼はここで言葉を切った。
「ただし…?」
聞き返すと彼の目は紅く鋭くなった。
「人を呪わば穴二つ…怨みを晴らす代わりにあなたの魂も死後地獄へ落ちることになる…よく考えて使え」
「あの…どういう…」
朝島は閻魔を止めようとしたがその場に閻魔は居なかった。
◆
「うう…どうしよう…」
朝島は学園の図書室にいた。昨日閻魔勝からもらった藁人形を持ってきてしまったのだ。それも平井正人を地獄に落とすために。
「いやあアイツ死んでよかったな」
複数の不良グループの内トップに位置している男子生徒、シャツを出し、ネクタイはよれていて、ボタンをわざと外している。彼こそが朝島が落とそうとしている生徒、平井正人だ。
最近鹿屋勝が死んだという噂を聞く。勝は成績がよく、クラスの中では最優秀の成績を納めている。しかし能力は少し苦手ならしく余りむやみに能力を使わない大人しい少年だった。しかしそこに目を付けたのだろう。不良たちが勝を囲い込み苛めている光景を何度か目にした。しかし何も対処できない自分に腹がたった。そして勝は死んだ。
朝島は彼が好きだった。彼の隣にいると分かり合える気がした。しかしそれもできない。
「鹿屋君…天国で見ててね…私、君の代わりに借りを返すから…」
朝島は紐を引いた。
ーー怨み、聞き届けたり。
そんな声が聞こえた。しかし何もいない。そして手に持っていた藁人形は消えていた。そして胸に目線を下げると、確かに証が入っている。円の中に炎のデザインだった。
「リーダー!?」
下っ端は慌てて正人を探していた。図書室内は静かな雰囲気から絶叫へと変わった。
◆
「いてて…あれここは?」
「ここは地獄だ」
正人は顔を上げる。目の前にはブレザーを着た男子生徒がズボンのポケットに手を入れて言った。
「はっ、地獄だあ?笑わせるじゃねえか、どこが地獄なんだよ…おい、お前鹿屋じゃないか?」
「違う」
すると正人は高笑いをした。
「あははっ!!お前は地獄に落ちたか!!笑えるな!!それで俺に復讐ってか!?夢だなこりゃ!!あはははは!!」
「夢じゃないならこれでどうだ?」
俺は指を鳴らした。すると正人の足元から針が出てきて靴を貫いた。
「てめえ何しやがんだ!!死んじまうだろ!!今すぐ戻せ!!」
「それは無理だな」
「何!?」
「お前には朝島と俺の怨みを味わってもらわないとな」
正人をさらに痛め付ける。
「いてぇ!!わかった!!止めろ!!死んじまうだろ!!」
「闇に惑いし哀れな影よ……人を傷つけ貶めて……罪に溺るる業の魂……」
俺は術式のような言葉を発した。
「何言ってんだ!!さっさと取りやがれ!!」
俺はニヤリと笑い、追い討ちをかける。
「いっぺん死んでみるか?」
針はさらに正人の心臓を突き刺した。
「ぐあああっ!!」
「この怨み、地獄へ流す…」
すると正人の体は一気に水中に溺れた感覚に見舞われた。近くに何か掴むものがあり、引き上げるとそこは別次元が広がっていた。
「おい!!どこに連れてく気だ!!」
「地獄だ」
「なっ!?」
正人は驚いた。本当に正夢だった。
「てめえ…」
俺は地獄へ向けて手こぎ船を動かし始めた。
◆
朝島は親友である霧崎と一緒に家路を歩いていた。
すると霧崎は今朝の事件を持ち出した。
「今朝の図書室の事件、結局どうなるんだろうね…」
「さあ…」
朝島は霧崎に分からないように笑った。
ーーありがとな。
朝島は空を見上げた。そこには鹿屋がいるような気がした。そして鹿屋が礼をしている声が聞こえた気がした。
「あれ?けいちゃん、どうしたの?早く帰ろうよ」
「うん、今行く」
朝島はもう一回空を見上げてから、家路を急いだ。
◆