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『明治浪漫譚(仮)』→『花あやめ鬼譚』に移行します  作者: 矢玉・奏嘉 (リレー小説)
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Einstand es *矢玉

今、この屋敷には旦那さまの未来の奥方になられる方が住んでいらっしゃる。

 不思議な赤い髪をした、凛とした少女。いつも姿勢を正したきちんとした姿をしており、女中である自分達を気遣う言葉をよくかけてくださる。

 そして何より、旦那さまをとても大切に思っていらっしゃるのがひしひしと感じられるのだ。そんな方が近くこの屋敷の若奥さまになってくださるかと思えばなにやら誇らしい。今は女学校に通っていらっしゃるため、婚礼は卒業を待ってというお話らしく、女中達は便宜上“お嬢さま”と呼んでいる。

 だが、女中達は今日のお嬢さまの様子にみな首をかしげていた。

 いつもはその年齢以上に落ち着いている方なのに、今日は何だかその様子がおかしい。

 朝からそわそわと落ち着き無く顔を赤らめ、ぱたぱたと歩く姿を何人もの女中が見かけた。特に旦那さまと顔を合わせるとひどくなる。

「どうしたんでしょうね?」

「さぁねぇ」

 台所で朝餉の片付けに手を動かしながら女中達はしっかりと口も動かしている。

「いつものお嬢さまの様子とまるで違うんだもの。何かあったのかしらね」

「まさか、旦那さまと喧嘩なさったとか?!」

 きゃあきゃあ言い出した若い女中達の後ろから、これ、と嗜める声が届く。

「そんなんじゃないよ。ただ――――――」

 とても恥ずかしがっていらっしゃるんだ。そう告げるその場にいた女中全てが不思議そうな顔になる。

 今朝方、将臣に口止めされた年かさの女中は静かに微笑んだだけだった。




 紫子は足早に庭を歩いていた。

 将臣の寝床を占領してしまったことがいたたまれず、朝から顔を合わせることすら出来ず逃げ回っている。本人に気にしなくて言いといわれた所で、気にならないわけがない。

 はしたない、恥ずかしい、申し訳ない・・・・・・。

 そんな思いを抱えて動揺しているのだが非番の将臣は今日は一日中家にいて、何故だか紫子に話しかけようとする。そのたびにとびあがって逃げるものだから女中達に

「おいかけっこでもなさっているのかしらね?」

 などと噂されているのだが、そんなことは露ほど知らず、紫子は動悸を抑えて紅葉の大樹のそばで立ち止まった。

 赤く染まる前の紅葉が秋風にさやさやと揺れる。

 もういっそ桐子の所へ避難させてもらおうか、などと思っていると肩に手を置かれ死ぬほど驚いた。

「やっと見つけましたよ」

 紫子さん。そういって微笑む将臣の顔を見ることが出来ず、再び俯いて身をよじる。

「あの・・・・・・離してください」

「離したら紫子さん、逃げるでしょう」

「逃げ、るなんて人聞きが悪い」

 ただちょっと顔が合わせづらくて避けているだけではないか。

 人はそれを逃げているという。

 そんなさまが可笑しいのか将臣はくすくすと笑うだけだ。

「そんなに気になさるほどのことでもないでしょうに」

「気になります・・・・・・」

 消え入るような声でそれだけ言う紫子に、ますます笑ってしまう。

 でもこれ以上この少女に避けられるのは勘弁願いたい。折角の休日なのだから。

「では紫子さん、私とEinstand esしてください。それで帳消しということに致しませんか?」

 異国の言葉に戸惑った顔をする少女に言う。

「今日一日私にお付き合いくださいという意味です」


***


 気候がいいからと馬車を断り、二人は徒歩で屋敷を出た。

 二人で出かけることを弥生夫人に告げれば、まぁまぁと眼を丸くし、ではこれを着て頂戴と出されたのは臙脂色の小紋の着物だった。小さな菊がちりばめられていて可愛らしく、秋の始めに相応しい。

「東郷さま、どこにいかれるのですか?」

 そう問いかけられ、将臣は考え込んだ。特に考えもせず連れ出したのだが、読書以外はほぼ無趣味な自分である。紅葉狩りにはまだ早い。

「書店・・・・・・ですかね?」

 面白味がないだろうと思うものの、それぐらいしか浮かばなかった。

「私も、書店に行きたいと思っていました。楽譜が見たいと思っていたので」

 前は結局、見ることが出来なかった。

 香苗が起してくれた騒動が思い出されれば、何となく二人とも無言になる。

 それを振り切るように紫子は口を開いた。

「東郷さまが昨日歌ってくださった野ばらの楽譜も、あるかもしれません」

 昨日のことが思い返されたのか、まだ若干ぎこちなく恥ずかしそうに俯いたままだったがそんな様子すら可愛らしく思えて、将臣はもう末期だな、などと思う。

 ぽつりぽつりとピアノ教室の件などを尋ねながら帝都の大通りを並んで歩く。

 帝都の町並みは、異国に国を混ぜたようなどこか不思議な町並みをしている。

 火事に強いからと大通りに面して建てられた赤い煉瓦と漆喰の洋風建築。だがその内側はまだこの都市が江戸と呼ばれていた時とかわらぬ瓦屋根の木造の家が並ぶ。その横を西洋風の箱馬車が行きかうのと併走するように、人力車や乗り合い馬車が行きかう。

 人々の服装もさまざまだ。

 ガス燈の下を楚々とした着物で歩む娘がいれば、フリルを盛った日傘を差しドレス姿で闊歩する令嬢の姿も見られる。男などは着物にステッキ、それに帽子という組み合わせでまさに和洋折衷といった風情のものも多々見受けられた。

 着いた書店も外見だけは西洋風だが、中の書籍は糸でとじた和綴じ本と西洋の革張り本が混雑している。紫子の後に続き立ち入った、西洋音楽関連の書籍の区画は将臣にはあまり馴染みが無く背表紙を物珍しげに眺めていた。

 いくつかの本を手に取り、ぱらぱらと捲っていた紫子の手がある頁で止まった。

「これです、東郷さま」

 そういって眼前に広げられた、塗りつぶされた黒い円にいつくもの線で描かれた楽譜は将臣には読み解けない。それが顔に出ていたのか、紫子は慌てて本を閉じようとした。

「すみません」

「いえ、そのままで。楽譜は読めませんが、こちらの独語はわかりますよ」

 その楽譜は下に独語の歌詞が書かれていた。懐かしいその調べが、母の声と共によみがえる。

「あの、東郷さまは、この歌詞を日本の言葉に訳すことは可能なのでしょうか?」

 その言葉に少しばかり眼を見開く。この少女に“お願い”などされたことは、さびしいくらい今までなかったのだ。

「実は、ピアノ教室でどうやって教えればいいのかわからなくて。桐子さんに頼んで、女学校のピアノで色々試してみたのですが、やはり西洋の音楽を西洋の言葉で歌うと、馴染みがなさすぎてわかりにくいようで」

「紫子さん、異国語の歌も歌えるんですか?」

 驚きをもって尋ねれば、しばらく口ごもったあと少しだけですが、と紫子は答えた。

「店に異国の方が来て、その方からピアノも教わったのです。その際いくつか歌も教えていただきました。意味はわかりません」

 それでも、その異国人には十分だと言われた。ちゃんと異国の言葉として意味がとれるくらいには歌えていたらしい。

「耳がいいんですね」

 感心したように将臣は言う。異国の言葉を覚えたいと軍部で請われ、簡単な会話くらいならと教えたことがあったのだが、結果はさんざんだった。耳慣れぬ異国の言語は、どうしても発音が難しいらしく何とか真似て言ったとしても、異国人にはまったく意味が異なる単語として聞こえてしまうだろうという出来で。絶対に異国人の前では披露するなと釘をさしてしまうような有様だった。

「そうで、しょうか」

「今度歌ってみてください、聴きたいです」

「い、異国語が堪能な東郷さまに聞いていただけるほどのものではありません」

 本物の異国の言葉が話せる人に、拙い異国語を披露するなど。できるはずもない。

「それでですね。もし異国の曲でも歌詞が日本の言葉であれば、皆さまもまだ受け入れやすいのではと思いまして」

 強引に話を元に戻されてしまったが、将臣は気にしなかった。どうしてもと懇願してしまえば紫子はきっと拒めない。

「いいですよ。ではこちらの楽譜は買っていきましょうか」

「っ。そんなつもりで言ったのではなかったのですが」

「気にしないでください。私が紫子さんのピアノが聞きたいのですから」

 笑顔で押し切られ、紫子は困った顔で、しかし最後にはありがとうございます。そう将臣に言った。

 書店を出てからも音楽の話は続いた。目下のところ、その話が一番の目新しい話題で話はつきなかったのだ。

「他には、この国の音楽をピアノで弾けないかと思っています。いくつか試しに弾いてみたのですが何とかなるのではないかと。問題は楽譜が無いことなのですが」

 楽譜が無い状態でどうやって弾いたのかと問えば、耳で聞いた音をピアノで再現したというのだ。当たり前のように言われてしまったが、それには驚きしか浮かばない。

 この国の言葉ではまだ当てはめるべき言葉はないだろうが、それは“absolutes Gehör”という能力ではないだろうか。聴いた音を、そのまま再現できるちから。

「総一郎くんといい、紫子さんといい、逢崎家は本当に芸術家の血筋なのですね」

 たしか総一郎も、一瞬見ただけでそれを描けるという特技をもっているといつか伊織に聞いた。

 しかしその言葉は紫子のお気には召さなかったらしい。剣のある顔で低い声が響く。

「あの男と比べられることは、大変不愉快です」

 吐き捨てるような言葉に慌てて謝罪の言葉を述べる。あの一件の怒りは、まだまだ少女の中で健在らしい。まぁ、あんな扱いを受けては仕方ないかと思う。

 実は紫子の怒りは自分への仕打ちではなく、将臣を害したことにあるのだが。自分の痛みに鈍感なこの青年は、そのあたりへの考えがすっぽりと頭から抜けている。

 半分の血とはいえたった二人のきょうだいなのに。自分と伊織の関係を思えば仲良くできないかと寂しく思うが、こればかりは強制できることではないと頭を振る。

 それより、今は機嫌を損ねてしまった目の前の少女をどうにかすることが大切だ。

「紫子さん、これからどこか行きたいところはありますか?」

 その問いかけに、怒りをぶつけるべきではないと一つ息を吐いて気持ちを切り替え、紫子は考え込む。

「そういえば、ここから“しみずや”が近いのですが、東郷さまさえよければ行ってみませんか?あのお店のあんみつはとてもおいしくて。りんさんもとてもいい方でした」

 あの山縣が気にかけている“おりんちゃん”将臣も気になっていたが、しかしと思う。

「・・・・・・私も軍人ですが」

「かまわないのではないですか?今日はお休みなのですし」

 しれっとそんな風にいってしまう少女に将臣は笑うことしかできない。

「りんさんは、まっすぐな人ですから。こちらも誠意を見せれば、無闇に嫌うようなお人柄ではないと私は思います」


***


 やや帝都の中心から離れた、下町にその店はあった。よく言えば江戸の面影を残す趣がある、悪く言えば古びたそんなたたずまい。

 紫子が暖簾をくぐるのに続けば、いらっしゃいと威勢のいい声が響く。

「あら、紫子さんじゃないの。また来てくれたのかい?」

「はい、りんさん。お久し振りです」

「今日はお連れさんがいるんだ」

 にかりと笑うと片えくぼができるのが、その豪快な振る舞いとちぐはぐで、でもかえって愛嬌に見える。それが将臣の印象だった。

 鈴の方は異国めいた容貌とその瞳の色に驚いたようなていを見せたものの、あっさりとした態度でその視線は紫子へと向く。それが将臣には珍しかった。こういった下町では異国人はまだまだ珍しく、奇異な眼差しを向けられることも多いのだ。

「今日はなににする?最近寒くなってきたから白玉ぜんざいも始めたんだ」

「では私はそれで。東郷さまはどうされますか?」

「折角ですから品書きを見せてもらってからにします」

「ああ、ごめんなさいね。立たせっぱなしで。お好きな席へどうぞ」

 店は昼時だからかがらんとしていた。此処をでた後は自分達もどこかで昼食をとらなくてはと足をすすめると、奥から転がるように幼い子どもがでてきた。

「ねーちゃん、水汲みおわ」

 った。と告げる前にその小さな顔が、訪れた客二人を眼にし、その顔が一気にひきつった。特にその眼は将臣を凝視し、硬直している。

 その怯えた視線に既視感をおぼえれば、じくりと首の傷が痛んだ。


 ああそうだ、この子どもは軍部の門の前にあの子どもだ。


 みるみるうちにその子どもの眼に水が盛り上がる。

「ごめんなさいごめんなさい!異国の軍人さん!!おいらが全部悪いから、ねえちゃん連れてかないで!!」

 突然の金切り声にぎょっとする。それでも悲痛な声はやまない。膝にしがみつき、幼子は絶叫する。

「おねがいだから連れてっちゃやだ!異国の軍人さんやだやめ――――――」

 本気の怯え、恐慌。じくりじくりと傷が痛む。


 それは、己が鬼だからか。

 そこまで恐れられなくてはならないのか。


 ばちぃんという非常に痛そうな音が、暗い思考を打ち切った。

「一太郎、お前今なんて言った」

 地を這うような声、その真っ赤になった手のひら。

 鈴が、弟の頬を力いっぱい叩いたのだ。

「異人みたいだからこの人を怖いと思ったのか?だから泣いたの?そんな馬鹿にお前を育てた覚えはないよ!!」

 怒りにその眉を逆立て、鈴は怒鳴る。引き攣る顔で一太郎は言葉を紡ぐ

「だってッ・・・・・・知らない軍人に話しかけられて・・・・・・ッこわ、怖かった。あ、眼も青くて、異人かと」

 勢いよく今度は拳が頭に降り下ろされる。

「外見で人様のこと判断するような馬鹿に育てた覚えなんてないよ?!異人さんの何が悪いんだい?!あたしらと変わらん、ただの人さ!そら嫌なやつもいるだろうけど良い人がいないわけないさ、人間なんだから!」

 顔を真っ赤にして怒鳴るその姿に、青年は動揺する。

「異人だって、目の色が青かろうが緑だろうが、髪が赤かろうが!!ただの人だろう!!」

 そんな事は、言われたことが無かった。

 再び泣き出した一太郎に手を振り上げようとした鈴の肩に、そっと白い手が伸ばされる。

「りんさん、少し待ってください。この子の言葉も、聞いてあげて」

 紫子はすっと膝を折り、一太郎と視線を合わせた。

「君が、一太郎くんね。この間、山縣さまに助けられた」

「ふ、くぅ。やま、がた・・・・・・?」

「そう。緑色の独楽をくれた軍人の」

「う、ん」

「他の軍人に、怒鳴られたと聞きました。それをあなたのお姉さんが追い払ったと。だから、お姉さんが罰を受けに連れて行かれると、思ったの?」

「にいちゃんはぁ、心配、するなって言った・・・・・・けど、でも怖くて。軍人さんに、つれてっちゃかれた人もいるって聞い、て」

 怖くて、本当に大丈夫かと。あの青年に尋ねたくて、軍部の前で待っていたら、この青い眼の軍人に声をかけられたのだ。

 まだ他の軍人は怖くて。わざわざ声をかけられる覚えなんて、この間の罰を受けることしか心当たりが無くて。

「あ、青い眼にも、異人かと、び、びっくりした」

「そう、びっくりしただけよね?」

「う、ん」

「大丈夫ですよ。一太郎くん。この東郷さまは山縣さまのお友達だから」

 え、と姉弟の目が丸くなる。

「りんさんには言いましたでしょう?山縣さまの同僚の、私の許婚の東郷さまです」

「ああ、あの・・・・・・」

 どこかぼんやりとした様子で成り行きを見ていた鈴が、話しかけられた言葉に反応する。その背後から声がかけられて、飛び上がるほど驚いた。

「なんかすごい声が聞こえたんだが、っと。東郷に紫子さん?」

 ひょっこり顔を出したのは、話に上がっていた山縣征光、その人だった。

 真っ赤に頬を腫らした一太郎に、呆然とする将臣に鈴。しゃがみこんだ紫子という店内の有様に、肩眉を跳ね上げる。

 すっと立ち上がった紫子が簡単に説明すれば、苦笑気味に一太郎を抱き上げた。

「馬鹿だなぁ、お前。そんなににいちゃん信用できなかったのか」

「だってぇっ」

「そんだけねえちゃん大事だったんだろ?わかってるって。けど安心しろ。これでもにいちゃん結構偉いから。ねえちゃん連れて行こう何てするやつ、すぐにとっちめてやるから、な?これ以上泣くな」

 近寄ってきた鈴が、紫子にこっそりと尋ねた。

「ほんとにあいつってそんなに偉いの?」

「ええ。お二人とも。上から数えた方が早いくらいには」

 こぼれんばかりに眼を見開く鈴の様子をちらりと見て、山縣は一太郎へと視線を戻す。

「ただな。東郷には謝れよ、お前。きっとお前に話しかけたのだって、こいつ心配してだったんだからな」

 山縣の腕の中から、ごめんなさいぃと涙声で謝られればうなずくことしか出来なかった。ろくな反応がかえせなくて悪いと思うが、色々立て続けに起こって頭が混乱している。

 はぁと息をついた鈴が、山縣の腕から一太郎を引き取った。

「ねえちゃんも話し聞かなくて悪かったけど、お前も・・・・・・まあ今はいいよ。ちょっとごめんよ三人とも。こいつに顔洗わせてきてやってもいいかい?」

 異口同音に返事を返せば、姉弟は奥の間へと歩いていった。

 口元に手をやって考え込む風情の将臣の様子に、紫子は気がつき小首をかしげた。

「東郷さま、どうかされたのですか?」

「いえ、ちょっと驚いて。あのようなこと言われたこと、初めてで」

「私もです」

 うっすらと微笑んで、紫子も呟く。

「だから申し上げたでしょう?りんさんは、まっすぐなお人だと」

 しばらくして姿を見せた鈴は、ぶっきらぼうに謝った。

「すまなかったね。弟が」

「いえ、りんさん。一太郎くんは大丈夫ですか?」

「しょげてたから寝かせてきた」

 そういって今度はすっと将臣に視線を合わせる。

「で、あんたも軍人なんだ」

「ええ。東郷将臣といいます」

「まったくうちは軍人お断りだっていうのに」

 ため息まじりにそう言われ苦笑がもれる。この人にとって、異国の人間より軍人のほうが厭うべき対象らしい。

「けどすまなかったね、さっきは弟がひどいこといってさ」

 返事もまたずにくるりときびすを返し、炊事場に行ってしまう。次に現われた時には、茶を入れた湯飲みをみっつ携えてきた。

「で、注文は?今日は勘定いらないよ」

 そっけなく告げられた言葉に、三人は驚き次いで笑った。



***


あとがき


◆「absolutes Gehör」はドイツ語で「絶対音感」です。絶対音感もちの紫子と、瞬間記憶能力もちの総一郎。なんだかんだ言ってきょうだいという。

そして「Einstand es」はドイツ語で「デートする」という意味です。将臣さん紫子がわからないからって・

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