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『明治浪漫譚(仮)』→『花あやめ鬼譚』に移行します  作者: 矢玉・奏嘉 (リレー小説)
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小さくも大きなはじまり *奏嘉

山縣は少女の目をすうと見詰めると、「そうかもしれない」と呟いた後、再び目を伏せた。




「……あいつ、夜会の度に、仕立て屋を呼ぶか呼ばないか、最後の最後まで悩むんです」



その言葉の真意を問うように、美しい少女は首を傾げる。

山縣は堰を切ったように言葉を溢し始めると、ぐっと拳を握った。



「あんな生意気でも、立派な女の子だ。ドレスだって、綺麗な着物だって、自分の好きなように着たいって、思ってるのに」



誰かにぶつけることも出来なかったその言葉の数々を、最近見知ったばかりの少女に吐き出している。

そのことに違和感を感じながらも、青年はまるで子供の様に声を荒げ吐き出していった。



「俺には、あいつの為にしてやれることなんて何も無いのか…」


悔しげに呟かれた言葉に、紫子は目を伏せ、静かにひとつ息を吐くと「失礼します」、と呟いた。



――――その言葉に反応するよりも先に、青年の頬に衝撃が走る。

じわじわと広がっていく熱に頬を張られた事を悟り、青年は目を見開くと少女を見上げた。



「桐子さまは、あなたの優しさに気付けない程、愚かではありません」



少女の顔が逆光で見えず青年は目を細めるも、不意に紫子は頭を下げると日傘もそのままに別荘の方向へと駆けだしてしまった。


呆気に取られた様に青年は暫くぼんやりとしていたが、次第に状況を理解していくとおかしいと言った様に笑い出し、石畳の階段にごろりと寝転ぶ。



さわさわと、鼓膜を擽る木々の揺らめく音に気持ちがゆっくりと落ち着いていくのが分かり、青年は目を閉じた。







「…もし、そうだったら…どれだけ…」




――――青年の呟きは、虚しく風の音に掻き消されていった。




******




「桐子」



不意に響いた扉を小突く音と兄の声に、不思議そうに少女は顔を上げた。

食事の時間にはまだ早い事を確認しながら、首を傾げつつドアノブへと手をかける。


扉を少し開けたそこには、見慣れた兄の姿と、自身が姉と慕う紫子の姿があった。

珍しい組み合わせの二人に更に不思議そうな顔をすれば、不意に兄が口を開いた。



「将臣が浴衣のお礼に、紫子さんとお揃いのドレスでも作って貰えってよ」



突如聞こえた言葉に、桐子は僅かに目を見開くと、微かに怯えたように首を振る。

その様子にずきりとどこかが痛むが、それを無理矢理に振り払いながら山縣は妹の手を掴んだ。



「寸法は、紫子さんに頼む。後は微調整が要るが、その辺は下着越しにも出来るだろう」



紫子と相談した結果だった。

それ以外に、今打てる手は無いと。



「…そんな、ことが…」


少女の肩が、微かに震えて居る様にも見えた。



やはり、あの視線が、怖いのだろうか。





――――――そんなことを考えるも、妹の瞳が僅かに揺らいだあと、まるで玩具を与えられた幼い子供の様に、きらきらと輝く。

呆気に取られた様に青年が目を丸くすれば、少女は何処か泣き出しそうな表情のまま紫子へと駆け寄った。



「紫子さま、本当に?」



うずうずとした様子で、少女は目を輝かせると人目も憚らずに紫子へと抱きつき何度も問い掛け続ける。


その度に紫子は真面目にも「はい」と応えながら、その自分より少し小さな頭を撫でた。

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