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『明治浪漫譚(仮)』→『花あやめ鬼譚』に移行します  作者: 矢玉・奏嘉 (リレー小説)
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羨望と、再会 *奏嘉

やだまさんとリレー小説書かせていただけることになりました!あくまでフィクションなので明治風、です

嫌味な程に晴れ渡る硝子越しの空に、深い溜め息を吐く。


自身が動かず、一言も声を発さずに居ようとも、周りの侍女たちは忙しなく少女の周りを動き回り、その身を着飾らせていく。



鏡に映る仮初の自分の姿がひどく滑稽で、少女は嘲笑うように頬笑みを浮かべた。



冷たく、澄んだ水鏡のような、何色にも感じられないような微笑み。



(これから、見飽きるほど)



浮かべるであろう、大嫌いな表情。


拘り尽くした豪奢な西洋風の客間。



季節外れの暖炉には春らしく花が飾られ、壁には何処かの国の画家が描いたであろう絵画が掛けられている。



洋風のテーブルを挟み、逢崎子爵、夫人、令嬢が、向かいには東郷伯爵とその伯父がこれもまた洋風なソファに座り対峙している。




「逢崎殿、お初にお目に掛かります。陸軍中将、東郷将臣と申します」


穏やかに微笑み名を名乗った青年の容姿と地位のギャップに、如何にも紳士風の子爵とその夫人はぽかんと間抜けた表情を浮かべる。



僅か、笑いそうになってしまうのを押さえながら少女は小さく頭を下げる。



「遠方より御足労頂きまして、本当にありがとうございます」


少女の声にはっと我に返ったように子爵が1つ咳払いをした。

取り繕うように紳士らしい表情を浮かべようとしているが、半ば表情がひきつっている。

「いやはや、こんなにお若い方が見えるとは…」


「はは、頼りないでしょう」


卑下するような言葉を返しながら青年が笑えば、子爵の友人である叔父が「将来性はそれなりにありますがな!」などと続け豪快に笑いながら伯爵の横腹を小突いた。


子爵は家の存続がかかっているためにひきつった笑いを浮かべ乾いた笑い声を漏らしている。


「紫子、挨拶を」



呼び慣れないような微かに違和感を感じる声音で名前を口にし、威圧感を与えるような口調で自分の娘を見る子爵の様子に、青年は僅かに納得したように苦笑すれば少女を見遣り小首を傾げそれを待つ。



「お初に御目に掛かります、東郷さま。逢崎の息女、紫子と申します」



凛とした、花のような表情で少女は挨拶し深く頭を下げる。



(…この声と、瞳…どこか、で…)


青年は僅かに目を見開いたあと、微笑むと「よろしくお願いします」と同じように軽く頭を下げる。

既視感に首を傾げるも、暫くしてある夜の鮮やかな紅が脳裏を過った。



(……あやめ、…さん…?)



しかし、あの美しいと感じた紅は、夜露に濡れたような黒髪へと変貌を遂げている。


続いて、子爵が長々とこの結婚での両家の利益についてや紫子についてをわざとらしく謳い始める。


紫子を忌み嫌いながら、家の為にと必死に紫子を褒め称える父。


その馬鹿馬鹿しさに笑いそうになるのを堪えながら、紫子は耳障りなそれをぼんやりと聞いていた。





「逢崎殿」




――――不意に、青年が遮るように口を開く。


「は…、」

子爵は突然の事に固まり、夫人と少女、叔父でさえも驚いたように顔を上げ青年を見た。


今まで饒舌に語っていた子爵の表情は何かが気に障ったのでは、などと言う不安からひきつっているようにも見える。



「逢崎殿の御屋敷は、庭園も素晴らしいと聞き及んでおります」


「…え……ぁあ、有り難きお言葉です」


ぽかんとしながらも頷き苦笑すれば子爵は意図が分からないと言うように青年を見詰める。




「少し、歩かせては頂けませんか?紫子さんのお話しをお訊きしたい」


突然の子爵の言葉を遮ってまでの甥の提案に、隣に座る叔父でさえ「何を考えている」と慌て耳打ちするが、




「いかがでしょう、紫子さん」




子爵や夫人の言葉は待っていないと言うように紫子を真っ直ぐに見詰め、微笑むと首を傾げて見せた。



子爵と夫人は仕方ないとばかりに目配せをし、「下手なことはするなよ」と言わんばかりに紫子を見遣やる。




「………喜んで…」



如何にもお嬢様らしく、模範的に。

少女は頭を下げると、青年と席を立った。





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(紅への羨望と、再会)

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