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6、コンゼツ根絶計画  作者: 黒十二色
第三章 根絶計画を根絶計画
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49、消滅と崩壊

 現実というのは、容赦の無いものだ。

 まるで夢の世界のような霊界においてさえ、まったく容赦のないものだった。

 音もなく消えた。それはそう。でも誰が消えたのかといえば……。

「え……?」

 あいにゃんは、そんな呟きを発した。

 そう。消えたのは、あいにゃんではない。

 では誰か。

 江夏が、蹴りを繰り出した刹那。

「だめ、消さないでぇ!」

 そんな叫び声と共に、桃井もこが割り込んできた。江夏の足にしがみついたのである。

 それで、蹴りはピタリと止まったが、足にしがみついたはずの桃井もこは消滅を果たしていた。

 江夏は、思わず「ええっ……」落胆の呟き。

 あいにゃんは、もこぴーらしいと言って笑い、ごめんねまいと言って江夏の足に手を触れて、これまた跡形も無く消滅した。まいぬー、時田まことも後を追うように、次々に江夏の足にとびかかり、立て続け消えた。

 とても、あまりにも、呆気ないものだった。

 つい数秒前までそこに居たはずの四人なのに、もう居ない。厳しくも優しいあいにゃんも、怒りっぽいまいぬーも、元気なもこぴーも、可愛らしい時田まことも。本当に呆気なく、最初から居なかったかのように、かしこまった最期の言葉や余韻さえ残さず、消え去った。

 残されたのは、納得いかないよ、と呟きながら戸惑いを見せる江夏なつみ。悲しそうに俯く柊あんじぇら。そして、円魔という名の大男。

 しばらく沈黙が流れたが、その冷たい空気を切り裂いたのは男の低い声であった。

 円魔は言う。二人の人間のことなんて気にしないかのように、虚空に向かって。

「あい、お前の居ないこの世界などに、もはや意味は無い。この街は、もう壊そう」

 ガラガラガラと音を立てて、霊界は崩壊を始めた。

 江夏やあんじぇらに構うことなく、落ちてくる天井。穴があいて、白い空が見えた。屋上に設置してあったアンテナも落ちてくる。

「やばい、あんじぇら。逃げるよ!」

 江夏は、あんじぇらの手を取って駆け出す。

 一階に降りると、すでに外へと逃げ出す人の流れができていた。

 霊界刑務所に収容されていた人々や、残った半霊体の者たちだろうか。

 人の流れを追い越して、外に出る。

「なんなの? 何が起きてるの? 江夏さん」

「言ってたでしょ、エンマって人が。もうこの街をこわすって。だから、たぶん、逃げないと」

 江夏たちが外に出てすぐに、建物は完全に崩れ去った。瓦礫の中で、身長五メートルほどの巨大な人影が仁王立ちしている。

 人波を掻き分けて進む。

 空から大きな白いカタマリが降ってくる。たとえばこの異世界が卵の中だとすれば、空を形成していた白い部分は殻の内壁ということになる。そのドームを為していた殻が一部剥がれ落ちたようだ。欠落した部分の向こうには、真っ暗な闇が広がっている。

 走る。走る。

 江夏があんじぇらの手を引いて。

 三途ブリッジから二股に分かれていたもう一方の道からも、逃げてくる者たちが合流する。

 渋滞していた。なかなか前に進まない。

 このままでは、帰るのも大変だ。この世界が、この街が崩壊するということは、橋も無事では済まないかもしれない。さっさと元の世界に戻らなくては。

「どうする?」

 柊あんじぇらの問いに、江夏は行動で示した。

 目の前の人々を、蹴飛ばしたのだ。

 倒れる者あり、踏み潰されて消え去る者あり。

 江夏は心を鬼にして、先へ先へと進んでいく。

 江夏には、帰るべき場所がある。秋川のところにあんじぇらを連れていかねばならない。梢ありっさに頼まれた桃井もこはうっかりあっさり消えてしまったけれど、せめてあんじぇらを連れ帰らねばならないし、何より自分が生きていないことには何の意味も無い。

 踏み潰してでも前に進まねばならない。大好きな人のため、自分が幸せを手に入れるために。

 本当は消してしまいたくなんかないけれど、こういう場面じゃ仕方ない。

 もしも、都会を災害が襲った時、同じことをするかと言えば、そんなことはしないと誓う。そうしないでも助かる可能性があるから、より助け合う心を出すだろう。でも、ここは都会ではなく霊界、梢ありっさ風に言えばエーテル界であり、多くが既に命を失った残滓でしかない。

 もしも霊界の途中でコケているうちに橋が落ちたりしたらどうなるかなんて江夏にはわからないし、想像する暇さえない。

 本能的に、さっさと帰らないと現世に帰れなくなる、ということは大いに理解していたが。

 ――何とか生きて帰って、幸せになる。

 それが、江夏を動かすエネルギーである。

 走って、走った。

 長い長い三途ブリッジを駆け抜けた。

 赤い門のところに来た。

 あんじぇらは振り返った。二人の背後には倒れる人々があった。そして、崩れ落ちるいくつもの鳥居や橋が崩落する瞬間を見た。

 江夏は振り返らなかった。ただ目前にある門に手を伸ばした。



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