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6、コンゼツ根絶計画  作者: 黒十二色
第三章 根絶計画を根絶計画
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46、あいにゃん

 あいにゃんが居るのは刑務所の奥。この建物は入り口すぐに刑務所があり、生身の人間が行けるのは、そこ止まり。その場所より先は、壁によってふさがれていて、半霊体の者なら通ることができる。この壁は江夏が「ふんぬぅ」といいながら蹴飛ばすことで容易く壊れた。

 壁の先に階段があり、それが二階に続いているのだが、その二階へ至る道にもまた別の壁があり、そこを通るには、半霊体でも申請と許可が必要である。

 この階段のそばに、八角形の扉があり、そこに、あいにゃんが居る。

 バダン、と扉の音が響く。江夏が扉を蹴破った。

 時田まことは、あいにゃんさんに叱られるとばかりに身構え、桃井も同僚の様子を見てようやく自分のやらかしたことに気付いて慄いた。江夏とあんじぇらは、どんな怖い人が管理しているのかと考えて、心の準備をしていた。

 しかし、返ってきたのは、意外にも優しい声だった。

「侵入者たちね。待ってたわ」

 四人は、予想外の反応に戸惑った。

「どうぞ、入って。画面ばかりの汚い部屋だけど」

 時田まことはヒソヒソ話する。

「おかしいです。あいにゃんさんは、いつもぴりぴりして忙しそうにして怒りっぽいのに」

 桃井もこもヒソヒソと、

「もこぴー、さすがに悪事が過ぎたんでしょうか。優しすぎると逆にこわいです。しかも微笑んでます」

 江夏とあんじぇらは、少々こわがりつつも画面だらけの部屋に入り、時田まことと桃井もこも続いた。

 一人と四人、対峙する。

「もこぴー」

「はいっ、何ですか、あいにゃん」

 ビシっと姿勢を正した。

 そして、あいにゃんは言う。

「――ありがとう」

「へ?」

 桃井もこは戸惑った。

「ありがとうって、言ったの」

「な、なんでです……?」

 あいにゃんは、ふっと小さく溜息を吐き、びびっている桃井もこに向かって語りだした。

「私が、半霊体になって、もう、かなり長いこと経つわけ。そしたら、もう、わかるでしょ? 簡単な話よ。いつまでも、いつまでも、永遠に終わらない計画。これから先も、ずっと、ゆかりの無い人を助けていく虚しい日々が続くなら、私はもう、『消えたい』って、ずっとずっと、思ってた」

「あいにゃん……?」

「それに、根絶計画ってね、失敗することも多いでしょう? そういうのを見るのも、もう、きついって、できることならやめたいって……でも、途中で降りることなんてできなかった。それが……霊界の理で、法だから。ついさっきまでね、ただ侵入者を捕らえて現世に戻せばいいって思ってた。でも、江夏なつみの履物が、警備の二人を消したのを見て、考えが変わった。そう、『消えることが、できるんだ』って、そう思ったから。だから、むしろ、きてくれて、ありがとうって、そういうこと」

 江夏なつみは、何がどうなっているのか混乱した。必死に整理する。

 ――時田まことの上司ということは、あんじぇら消失事件の黒幕であることは感じ取っていた。だから、いわば自分たちをかき回した張本人であるはずだ。それが今、自分を消して欲しいと、あたし、江夏なつみに頼み込んでいる?

 正解であった。まさにそういうことである。

「え、ちょ、でも、待ってよ。そんな、消してくださいなんて言われたって、困る!」

「どうして? こっちが消えたいって言ってるの」

「だって、さっきの警備の人たち、消え方がおかしくて……まるで、なくなっちゃったみたいで、んと、何て言ったらいいんだろう。死ぬとかじゃなくて、もう完全に、居なくなっちゃう感じで……」

「そうよ。現世にも戻れず、あの世にも行けず、この世界の一部になることもできず、最初から居なかったことになるの。もうそこに自我は存在しない。そういう消え方をする仕掛けが、その履物に仕込まれている。半霊体という存在が、どうして生まれたのか、そんなものはどうだっていいけれど、この世界を維持して、根絶計画なんていう、誰が始めた計画かわからないものを行うのは、もう、もう、疲れてしまった」

 あいにゃんは、悲しそうに、でも嬉しそうに笑いながら、そう言った。

 しかし桃井もこが叫んだ。他の面々が戸惑いや迷いや頭の整理で何も言えない中、ただひとり、桃井だけが叫んだ。

「ダメです! あいにゃん!」

「ダメ? 何が?」

「あいにゃんは、昔、言いました。誰かを救い続けることが救いなのかもしれないってことを」

「昔っていうか、つい十分前くらいに言った言葉だけどね」

「うっ、と、とにかく。自分から死んじゃうなんて言っちゃダメなんですよ!」

「青いねぇ、もこぴーは」

「あいにゃん。楽しいこと、いっぱいあるから、生きて、生きてください。現世に出してもらえないなら、あたしが上とやらに話をつけにいって、地獄行きをかけてでも説得したいです。だって、半分でも、ほんの少しでも、生きている部分が残っているのなら、もしも仮に残りかすでしかないんだとしても、あいにゃんには、消えて欲しくないんです!」

「それはね、もこぴーがまだ新米だから言えること。私の気持ちがわかるようになるには、まだまだ、ね」

「なんでわかんないんですか! あたしは、あいにゃんに消えてもらっちゃ困るって言ってるんですよ!」

 すると、あいにゃんは今までよりも遥かに大きな声を出し、

「こっちは消えたいって、あんたがこっちに思ってる気持ちよりずっと強く思ってるんだよ! あんたに何がわかる!」

 これには、桃井もこも後ずさった。後ずさって、江夏なつみの陰に隠れて、びくびくと震えた。

 今度は時田まことが前に出て、説得にかかる……かに思われた。しかし、まことちゃんが言ったのは、

「私には、わかるです。全然、もこぴーごときよりも経験浅い見習いですけど、いっぱいミスをして、いっぱい、色んなひとの道を狂わせてきてしまったから。それは、とても辛いことで、耐えがたいことで、消えてしまいたいことだっていうのは、痛いくらいにわかります。私でそれなんですから、長く長く、悠久と言ってもいいような年月を生き抜いて……いや、死に抜いて……でもないか、半死半生で居たのだから、私の感じている辛さなんて、あいにゃんにとっては屁でもないかもしれませんです。だけど、私も、思うです。――もう。終わりたい。もう、消えたい。だって、どんな形であれ、現世での生は終えてしまった存在なのだから。この『自分』と言う名の不自然に、納得がいかないっていうか。だから、江夏さん、あいにゃんを、消してあげてくださいです」

 そんな時、いつの間にか部屋の中に、まいぬーが居た。

「消してくれるって聞いて、飛んできた」

「まいぬーさん……」と、時田まこと。

「きっと、多くの者たちが、消滅を願っている」まいぬーは俯いて、「半霊体になるとね、必ずいつかは根絶計画に縛られる。それをしないと、地獄行きだからね。地獄行きってことは、根絶計画よりもキツいことが待ってるからね。あいにゃんは、そんな状況から抜け出すために霊界に来る手がかりになる炎を残してきた。時に松明、時にマッチ、時にライターと形を変え、霊界へと至るヒントを世界各所に配置した。そんな大変なことまでして消えたいと願っているんだ。もこぴーには、その気持ちをわかってやってほしい」

 それに対して、もこぴーが叫ぶ。

「いやです! 皆が消えるのは、いやです! 誰が消えるのも嫌だけど、あいにゃんやまいぬーやまこぽんが消えるなんて、とても嫌です!」

「消させて」「消える」「消えたいです」

「そんな……」

 もこぴーは泣いていた。雫が床にぶつかる。鼻水をすする。拭っても次から次に涙が出てくる。

「それじゃあ、上に挨拶に行きましょうか。もう、誰が何を言っても、私は、強引に彼女の足元にぶつかりに行ってでも、消えるつもりでいるわ」

「上……? 挨拶……?」

「二階にいる、円魔さんのところへ」



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