39、入り口を照らすライター
英輝学院。
かつて、春木すばる、江夏なつみ、秋川あきひと、柊あんじぇらが所属した高校である。
ついでに言えば、時田まこと、嶋縞子の二人は、江夏たちの一つ先輩であり、桂はんなは、まことたちよりも更に四つほど先輩である。
コインパーキングに車が止められ、梢ありっさが後部座席から出てくる。助手席から江夏なつみが降り立ち、最後に春木が運転席から降りて遠隔操作で施錠した。
高校の門を、いい年こいた大人三人がよじ登って乗り越えて校内に入る。
夜の校内は昼間のそれとは違っていて、特別な懐かしさなんて感じなかった。
ひとしきり校内を三人でぶらついた後、体育館の前、中庭で立ち止まる。
「それで、梢さん。エーテル界の入り口っていうのは、一体どこにあるの?」
「いい質問だね、江夏なつみ。それを探すアイテムが、これ」
梢ありっさがそう言って取り出したのは、銀色ボディが輝くライター。
「それは……ライターですね」と春木すばる。
「そう」梢ありっさは頷いて、「でもただのライターじゃない。悪霊ども……じゃなかった。この近辺に出没する霊界警察って名乗るやつらは、人間を消滅させたときに、いつもこのライターを残していく」
江夏には、心当たりがあった。そういえば、秋川も、あんじぇらのライターがどうのこうのと言っていた気がする、と。
「何故かという理由をカードで占ってみたけど、どうやらこれは、誰かからのSOSサインだと出た」
「どういうこと? あたしには、さっきから何が何だかさっぱり」
「占いで出たってだけで、詳しいことはわからない。簡単にどういうことなんだかわかれば苦労はしないけどね、きっとエーテル界にとらわれている誰かが現世の人に向けたサインだろう。このライター、なかなか火が点かないんだが、半霊体とかって自称する桃井が近くに居ると点いたり、エーテル界への門が近くにあったりすると炎が出るっていう特殊なもの。つまり、これを残していくって掟のような決まりを作った者は、これを拾った人間に向かって、こう言っている。エーテル界に来て、自分を助けてくれ、と」
「誰なの、それ」
「あわてすぎだよ、江夏なつみ。そんなことがわかれば、とっくに名前を出してるから」
「梢さんでも、わからないことが、けっこうあるんですね」
「ええ。特にエーテル界はわからないことだらけ。それに、江夏なつみの今後も占えなかったし」
「そういえば、そうでした」
「さて、それじゃあ、本格的に、探しましょうか」
梢ありっさの提案に、江夏と春木は賛成した。
色んなところで点火を試みて歩き、炎が一番大きくなる場所がどこだったかと言うと、屋上だった。
フェンスつきの屋上には特に何があるわけでもない。ただ屋上が広がっているのみである。
薄い雲が月の光を拡散させて、夜だというのに明るい。
梢ありっさの手元で握りこぶしくらいの巨大さで燃え盛る炎のせいもあるかもしれない。
ともかく、夜でも互いの顔を確認できるくらいには明るかった。
「ここに何があるんですか?」
「だから、手がかり」
梢ありっさは、強い火勢を保ったままの銀色を持って、月明かりの下を歩く。
やがて、その炎は、勝手に屋上の面に自由落下すると、まるで油で線が描かれていたかのように広がり、炎の文字と図形を描いた。
距離を示すと思われる『430M』という文字と、矢印であった。
「これは……?」
梢ありっさが首をかしげ、
「たぶん」と春木が推測を語る。「矢印が示す方向に、四三〇メートル進めっていうことじゃないかな」
「なるほど」と占い師が幾度か頷き、「そこには何がある?」
春木は答える。
「小高い丘の上に、広場がありますね」
「そこに、エーテル界への門があるってことね」
「え、あんな何も無い、ベンチくらいしか無いところに?」
「江夏なつみ。人間の常識で考えてたら、エーテル界じゃ通用しないよ? たぶんあんたにも身に覚えがあるんじゃないの?」
「それは……」
江夏には、過去、秋川まで至る道が光って見えたことがある。常識で考えれば、そんなものが見えることなんて有り得ないにも関わらずだ。それでなくとも時田まことというその場で空気に溶け込むように見えなくなってしまう女を知っているのだ。梢ありっさとしては、何を今更、というようなことが言いたいのだろう。
炎は一分も経たずに何事も無かったかのように消滅して、薄暗い世界が戻る。
「とにかく、その山に行くよ」




