13、もこぴー、働く
続いて、時田まことが訪れたのは、少しだけ先輩のもこぴーのところであった。いや、訪れたといっても通り抜けようとしたら呼び止められただけであるが。
なお時田まことは、あいにゃんとまいぬーの本当の名前は知らないが、もこぴーの名前だけ、桃井もこというフルネームを知っていた。
「あ、まこぽん。って、あれ、なんか元気ないね、まこぽん」
もこぴーは、まこぽんと呼ぶ。あいにゃんが、まこたんと呼び、まいぬーがまこっちゃんと呼ぶ。まだ霊界警察などという組織――所属している大多数の当人たちにとっても謎の組織――に入って日が浅いため、呼び方が統一されていないわけだ。
「こんにちは、もこぴーさん」
「こらこらー、もこぴー先輩と呼びなさいといつも言ってるじゃーん」
「…………」
「あれ、まじで元気ないねー。どしたの?」
「もこぴーさんに相談しても、どうにもならないことっていうかですね……」
「あれあれ、すごい失礼なこと言われた気がしましたよ?」
「ていうか、何してるんですか? すごい汗かいてますけど」
もこぴーは、失敗続きと能力の低さのせいで、現世の計画に出してもらえず、霊界警察内の窓際中の窓際、霊界刑務所内の監督などという役職に就いている。
しかし、何と率先して仕事していた。マンモス象くらいの巨大な臼を一人でゴリゴリと回していたのだ。臼から伸びる木の棒を走って押すことで霊界の食べ物を粉末状にしているところである。なお、霊界の人々は食事をとらないでも生きていられるので、ある意味では必要の無い作業とも言えるが、何か仕事を与えないと刑務所という名がすたるというか、何と言うか。
本来なら、たとえば何らかの根絶計画において自業自得の消滅を果たした人々なんかが、ここで巨大な臼をひいたり、縫い物等の細かい作業に従事したりするのだが、そういった罪深い人々は休憩していて、もこぴーが働かされている。監視監督する立場であるはずにもかかわらず、だ。
もこぴーは、労働はいいもんですねぇ、というような充実した表情をしながら、大きな胸を揺らして一息つくと、巨大な臼から離れて、
「まちるださーん。次は何をしたら良いのでしょうかー!」
あろうことか霊界刑務所に堕ちた人たちに指示を求めていた。
「もこぴーさん、それは監督ではないです」
「ん? ああ、いいのいいの。プレイングマネージャーってやつに、憧れてるし」
「野球ネタですか……」
「お、さすがまこぽん。わかってるぅ」
「わかってるぅ、じゃないですよ。さすがにここまでとは思わなかったです」
「えへへ、後輩に褒められ――」
「褒めてないです」
「ええ……なんでぇ。働いてるのに……」
「役割から外れ過ぎたら、いくら働いても評価されないと思いますけど」
「うう……あいにゃんにも同じこと言われて怒られたよ」
「何で怒られたことあるのに、同じこと繰り返してるんですか」
「ちょっと! まこぽん! 先輩に向かってその口の聞き方はなってないですよ! もうちょっともこぴーのプライドとかをですね、考えてほしいもんです!」
「プライドがあったなんて、初耳ですけど」
「ひどい、ひどいイジメです! 後輩にイジメられるとは、このもこぴー、思ってもおらず!」
「こんなの、いじめじゃないですよ」
「うーむ。冷静に考えたら、そうかもしれません。あ、ところで、何でこんなところに来たんですか? あたしに会いに来たんじゃなければ、外の、あの旅館みたいな素敵な建物のあるところですか?」
「…………」
「あそこには、もこぴー、一回泊まってみたいです。なんでも現世の旅館なんて遥かに凌駕した、すごいもてなし……いえ、もうもてなしっていうか持て余しって言えるくらいのすごい待遇が待っているらしいので、それこそ、もこぴーに相応しいと思います。でも、あそこ、あたしたちは立ち入り禁止なんですよね。入り口までしか行けなくて、特別な許可がないと……あ、許可下りたの? まこぽんに」
「立ち入り禁止のところに立ち入ったら、どうなるです?」
「窓際部署に飛ばされて、地位もだいぶ下げられちゃうらしいです。下手すると、このエリアで、もこぴーの監督の下、強制労働かもしれませんよ!」
「もこぴーさんの監視なら、強制労働でも楽かもですね」
「褒めてもらえて嬉しいです!」
「…………」




