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6、コンゼツ根絶計画  作者: 黒十二色
プロローグ
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01、霊界にて思い出す

※これまでの根絶計画シリーズを読んでからでないと、不明な点が多々あるかと思いますので、申し訳ないですが、他の根絶計画を全て見てからお読みください。

 雪の降る世界。旅館の一室のような和室、その窓際に座る彼女には、鮮明な記憶がある。

 思えばあの時も冬だった。もう何年間も毎日のように考えていることだ。

 クッキーを焼いていた日の放課後、制服を着たものすごく幼く見える女子に学校の屋上まで連れて行かれてから、変なことを言い渡された。

「柊あんじぇらさん。あなたには消滅してもらいますです」

「え、そんな……」

「大丈夫です。秋川さんが更生すれば戻れますから。少しの辛抱ですよ。秋川さんたちのためを思うなら、協力して欲しいです」

「で、でも……」

「お願いします。お願いしますです」

 制服小柄女子は必死だった。

「……わかりました。彼のためなんですね」

「はい、遅刻をしなくなり、しっかりと更生したと認められたら、あなたは現世に戻って来られます。では、一緒に来てください」

 そうして大きな和風の赤い門を通って連れてこられた。

 回想を終えた彼女が、大きく息を吐くと、白い息が舞った。

 現世は夏であった。しかし、ここ霊界は常冬で、ものすごく寒い。

 ある場所は夏で別の場所が冬であることは、特別おかしなことではない。珍しくも無いことだ。

 たとえば日本が夏の時、オーストラリア等、南半球の国々は冬であったりする。

 いやしかし、かといって、この場所がそれらの国々であるというということでは無いし、極圏の国々というわけでもない。確信を持って言えるけれど、違う。

 年中寒く、雪や雹の降る日も珍しくはない世界。この場所に来てから、数年。彼女は何不自由なく暮らしている。

 温泉に浸かったり、古今のテレビ番組を見たり、現世から調達して来た美味しいものを食べたり。少なくとも退屈をすることは無い。どんなワガママを言っても何でも言うことを聞いてくれる者も居る。趣味のお菓子作りや縫い物なんかもできる環境が整っている。それこそキッチンなんかはものすごい立派で、彼女を喜ばせた。

 それでも柊あんじぇらはまだ、現世に戻りたいと考えているようだ。

 あっさりと誓いを破った男を、未だに信じてもいるようだ。

 彼女は、日本旅館のような部屋、銀世界が見える窓際で一人、温かいお茶を飲み込んだ後、溜息を吐いた。

 妖怪的な存在に囚われたお姫様にでもなった気分。

 ふと、現世で友達だった女の子の方が「姫」という単語が似合いそうだと考え、また現世のことが心配になった。

「まだかなぁ、秋川くんの更生。遅刻グセ、まだ治らないのかな」

 ニセモノの黒ずんだ空を見上げた。

 何だか、夢の中に居るみたい。

「いつまで、こんな変な日々を過ごせば良いのかな」

 その頃、現世は夏であり、セミの声が響く、やかましい『動』の季節。彼女が消えたそもそもの原因である秋川という男が何をしていたかと言えば、はっきり言ってヒモであった。ジゴロとも言うのだろうか。

 仕事をせず、女性に養われて、無気力に生きているだけの羨ましい生活。あてがわれた六畳の和室で腐った人生を送っていた。

 ホームレス生活を終えてすぐは、少しだけ立ち直る気配くらいは見せたのだが、またこんな有様で、相変わらずのよどみっぷりだった。

 ただ消えてしまった少女が残していった制服を眺めたり、濁った目でテレビの占い番組を見たりしていた。

 遅刻云々ではなく、もう人間として生活していなかった。

 秋川が動き出さない限り、何も好転しないというのに。




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