第7話 消えたぬくもり
クンクンはいろんな面を見せてくれる。よく考えてるなと思わせてくれる行動を見せてくれる時もあるし、苦手なものを前にした時のうろたえぶりなどは思わず笑ってしまうこともある。
クンクンは世間的には犬でありペットであるのだが、僕たちにとっては家族の一員だった。家族とともに過ごし、家族とともに成長した。我が家の庭にきたのはまだ生まれたばかりの時だったので、父母は子供をみるように見守ってきただろうし、僕や姉兄は子供の頃から一緒にいるので、共に成長してきたという思いがある。クンクンは子犬から成犬になり、そして年老いていって。
老いるというのは人のそれと変わらない。茶色だった毛並みに白髪が混じるようになり、いかにも老犬といった風貌になってしまった。体力も衰え始めて、散歩に行く時も、散歩し足りなくてさらに行こうとしたかつて勢いはなくなり、歩くペースはゆっくりで、適当なところで切り上げて家に帰ろうとするようになった。しかも散歩に行くこと自体を毎日せがむことがなくなって庭でのんびりしていることが多くなった。縁台の上で寝そべっている姿は、よく老婦人が庭先の縁台にたたずんでいるそれと同じだった。
庭で暮らすこと、それは年老いても変わらなかった。クンクンはだいぶペースダウンしたとはいえ、マイペースで庭を闊歩していた。庭は後にも先にもクンクンの居場所であり、我が家の温もりが庭にあった。庭にクンクンがいることが当たり前でのことであり、僕はこれから先もそれが続いてほしいと思った。
クンクンももう生まれてから18年目の冬を向かえていた。
思えば長い年月である。
人は寿命が80歳だのなんのというのに比べればたいした年数ではないように思われるかもしれないが、犬の歳のとり方は人と違って早く、クンクンは人の年齢に換算すればもう80歳代であった。体力も落ち、身体も弱っていた。冬の寒さのせいかやたら咳こむようにもなっていた。獣医に診てもらうも、老体に無理な治療はできないと言われてしまい。せめて寒くないようにと家の中のいつもの位置に入れてあげることにした。それからの数日間は家の中で過ごした。
「いい加減起きなさい。」そう母に言われて僕は慌てて起き上がった。週末と言えばだいたい昼頃まで寝ているのだが、とにかくクンクンの様子が気になり、僕は階段を駆け降りた。クンクンは今にも消え入りそうな表情で僕の顔を見上げてきた。撫でてやるとクンクンは目を細めた。父、母、僕はクンクンを見守りながら予感するものがあった。そして、まもなくクンクンは永い眠りについたのだった。




