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Dragon Sword Saga2『旅の仲間(後編)』  作者: かがみ透
第 Ⅲ 話 紅通りの魔道士
7/19

フェルディナンドの紅通り

改行、表現その他、読みやすく直しました。(2016.6.8)

 ケインとクレアが、マリスとヴァルドリューズの旅の目的を知ってから数日後、一行は、アストーレ国王アトレキアに呼ばれた。


 謁見の間には、王と警備隊長、警備兵の数人と、フェルディナンド皇国を訪問していた魔道士参謀ダミアスが戻っていた。


 先頭にケインと白い騎士マリユス(マリス)が、そして、カイルとクレアが並ぶ。

 ケイン、マリユス、カイルは肩膝を膝を付き、クレアは両膝を付いて、頭を下げている。


「実は、ダミアスが、そなたたちに頼み事があるそうなのじゃ。私にはよくわからない分野だからの、直接話してもらおうと思ったのだ」


 そう言って、王と護衛の者達は、少し下がる。


「失礼ながら、あいさつは省かせて頂く。ご存知の通り、私はヴァルドリューズ殿と共に、フェルディナンド皇国へ行っていたのだが、思ったよりも時間がかかりそうなのだ。誠に申し訳ないが、もう少し、彼を貸して頂けないだろうか?」


 ダミアスの静かな、あまり抑揚のない声が響いた。


 ケインは、隣のマリユスを、ちらっと見る。

 『彼』も、ケインを見て、静かに頷いた。


「こちらは構いませんが、……どのくらい、かかりそうなのですか?」

「それは、解り兼ねる」


 ケインの質問に、にべもなく返すダミアス。


「私とヴァルドリューズ殿は、フェルディナンド皇国に頼まれ、寄り集まってきた魔道士たちの縄張りなどを始め、いろいろな決まりごとを作ることになっていた。だが、思ったよりも、その魔道士たちの『個性が強く』、平等に行き渡らせるには、もう少し、考慮しなくてはならない。


 そして、そこで偶然見付けた『あるもの』を、あなたがたにもお知らせするよう、ヴァルドリューズ殿に頼まれたのだ」


 ダミアスは、一旦言葉を区切ってから、再び口を開いた。


「ヴァルドリューズ殿から、伝言を預かって参った。『或る晴れた日に吟遊詩人が見える』……だそうだ……」


 ケインたちは、顔を見合わせた。

 ダミアスも、心なしか、自信なさそうである。


 ケインが、どうしたものかとマリユスに指示を仰ごうとした途端、『彼』は言った。


「いけない! ケイン、みんな! 今すぐフェルディナンド皇国へ向かおう! ヴァルドリューズが危ない!」


「ええっ!?」


 一同が驚き、どよめいていると、マリユスは進み出ると、王に跪いた。


「お願いです! 私たち四人が行けば、なんとか彼を助けることが出来ましょう! どのくらいの期間が必要か、今は見当も付きませんが、必ずこちらに戻って参ります! 勝手を承知でお願い致しますが、すぐに私たちを、彼のもとへ行かせては頂けえないでしょうか?」


 マリユスの口調から、事態が尋常でないことを知った国王は、直ちに許可を出した。


(あのヴァルが危ないなんて……俺たちが行って、本当に助けられるんだろうか?)


 ケインは心配になりながらも、カイルと一緒に一度宿舎に戻り、支度をした。


 マリユスを除き全員が、もとの旅の服に着替え、今度はダミアスの書斎に集合していた。


「では、参りましょう」


 ダミアスが、一行の周りに結界を張り始めた。


「ちょっと待ってくれ」


 ケインの声で、ダミアスが、ふっと、張りかけていた結界を解いた。


「ミュミュ、早くおいで!」


 ケインが宙に向かった呼びかけると、しばらくして、「うわ~ん!」という泣き声が遠くから聞こえ、近付いてきたと思うと、ケインの差し出したてのひらの上に、小さな妖精が現れた。


「ひどいよー! ミュミュを置いて行こうとしたなー!」


「だから、その前に、ちゃんと思い出しただろ?」


 ミュミュがケインのてのひらの上で、背中の羽をばたつかせ、暴れている間に、マリユスが真面目な表情で、ダミアスに目で合図した。


 途端に、薄い膜が再び現れ始め、すーっと全員を包んでいく。


「マリス、ヴァルのヤツ、どうかしたのか? 本当に、俺たちが行って助かるのか?」


 ケインが尋ねると、クレアも不安そうにマリスを見る。


 マリスがダミアスに視線を移し、つられてケインもクレアもダミアスを見つめると、彼は微笑んでいたのだった。


 その時、彼らは、一瞬ぐらっと揺れたような気がしたが、揺れたのは彼らではなく、周りの景色であることが、すぐにわかった。


 辺りは、ものすごい勢いで『流れていた』のだった。


「あまり『外』を見ていない方がいい。フェルディナンドまで、数分で着く」


 彼らにそう告げると、ダミアスはマリスを振り返り、微笑んだ。


「聞きしに勝る策士ぶりですな」


「頭の回転は速いし、演技力だってあるんだって、ヴァルのヤツ、言ってなかった?」


 マリスが、にっこり答えた。


「なに!? ……ってことは、ヴァルが危険にさらされてるってのは……!」


 マリスは、ケインを見た。


「『或る晴れた日に吟遊詩人が見える』っていうのは、あたしの決めた暗号で、『ある手掛かりを見つけた』ってことなの。ヴァルったら、ちゃんと言うこと聞くじゃないの。よしよし。――さて、次は、どんな暗号を覚えさせようかしら。もっとヘンなこと言わせてやりたいわね」


 マリスが満足そうに、うんうん頷いている。


「ヴァルはイヌかっ!?」


 ケインは呆れ、クレアはマリスを責めるように見ていた。


「だって、王様には、ああでも言わないと、私用なんだから、あたしたちみんなを行かせてはくれないかも知れないし、急いでくれないかも知れないじゃないの。ダミアスさんが、素知らぬ顔をしていてくれて、助かったわ!」


 マリスが、ダミアスに片目を瞑ってみせた。ダミアスが会釈する。


 カイルが笑い声を立てた。


「俺はなんとなくわかってたぜ、マリスの作戦だってことはな。だって、あのヴァルが、簡単に危機に陥るわけないもん」


 ケインもクレアも、カイルがのほほんとしていた理由が、今わかった。


「お前らも、いい加減、マリスのやり方に慣れろよ。そんなことじゃ、途中で置いていかれちまうぞ。はっはっはっ」


 と、真っ先に置いていかれそうな人物に言われてしまったと、ケインもクレアも思った。




「ここが、フェルディナンド皇国……」


 結界が解ける。

 小高いいくつもの山が連なったうちのひとつから、一行は、その下にある町並みを見下ろしていた。


 ごく普通の町のようだが、広範囲に渡って同じような造りの家が多く、伝統的なものが感じられる。


 その中で、赤い地帯があった。

 それは、赤煉瓦で建てられた家がやたらと目立つ箇所であった。家々の合間に見える道も、赤茶色をしている。


「あそこが、魔道士たちの住んでいる辺りだ。ヴァルドリューズ殿は、今あちらにおられる」


 ダミアスが、淡々と言った。


「この先は、魔道士たちの結界が張り巡らされている。飛んでいったり、空間を渡ると、すぐにやつらの結界に触れてしまい、ヴァルドリューズ殿のところまで侵入するのは難しい。悪いが、歩いてもらう」


 ダミアスに、一行は頷き、山を下って行った。


 フェルディナンドは、アストーレから北西に位置していて、馬車などで、貴族のように休み休みの旅ならば、二〇日はかかると言われていたが、ダミアスが『光速』の技で運んだため、物の数分で来られた。


 何かと歴史の古い国であり、アストーレよりも魔道が盛んで、いろいろな国から魔道士たちが移り住んでいる。


 例の赤い地帯は、『紅通(くれないどお)り』と呼ばれ、魔道士たちによる占いの店や、魔法道具(マジックアイテム)などの店があった。


 紅通りに向かう途中で、一行は食堂に寄った。

 山を下ってから、とうに昼を回っていた。


「はー、さんざん歩いた後のメシは、特にうまいぜー!」


 カイルが、骨付き肉にばくばく食らいついている。もう片方の手にはパンを握っていて、そちらも忘れることなく、かじった。


「お前、ホントよく食うな」ケインは呆れるのを通り越して、感心した。


 対照的に、クレアは巫女の名残か、肉はあまり食べず、刻み野菜の入っている白いスープを、静かにスプーンで啜っていた。


 ミュミュは、テーブルの上をちょろちょろ歩き回り、皆の皿から少しずつつまみ、楽しそうであった。


 マリスは、フェルディナンドの話をダミアスから聞きながら、時には皆の様子を見て、微笑みながら食べていた。


「なあ、ダミアス、ヴァルのところまでは、まだあるのか?」


 食事を終え、再び町を歩いていた一行は、紅通りを目指していた。その辺りは出店が多く、ちょっとした食べ歩きができるようなところだった。


 石造りの道がところどころすり減っているところを見ると、かなりの人通りがあったのだろう。彼らの他にも旅人や、商人たちが行き交い、活気づいていた。


 きょろきょろしていたカイルが、再び、ダミアスに尋ねる。


「なあ、急がなくちゃダメなのか? ちょっとくらい、遊んでっちゃダメ?」


 ミュミュも同意したように、カイルの肩の上で、嬉しそうに羽をぱたぱたっと羽ばたかせた。


「日が暮れると厄介なのでな。すまないが、もう少し我慢してくれ」


 ダミアスが、ちらっとカイルを振り返った。


「ちぇーっ。……あ、ちょっと待っててくれよ」


 そう言い終わらないうちに、カイルは何かを見つけ、パーッと駆け出していった。


「ちょっと、カイル! 戻りなさいよ!」


 クレアの声が届いているにもかかわらず、彼は少し離れた店の前で立ち止まり、肉と野菜を詰め込んだ饅頭を、いくつか抱えて戻ってきた。


「わりい、わりい! こうずっと歩いてるとさ、な~んか間がもたなくてさー。おっ、これは、なかなかうまいじゃん! みんなも食うか?」


「さっき食べたばかりだってのに、まだ食うか?」


 ケインが仕方なさそうに見ていると、ミュミュが両手を伸ばす。


「わーい! ちょーだい、ちょーだい!」

「……お前も、ちっちゃいくせに、よく食うなぁ」


 呆れているケインの肩から、カイルの前へとミュミュが飛んでいく。


「ミュミュには、ちょっとでかいからなー、ちぎってやるよ、ほら」

「わーい、わーい!」


 ミュミュは、飛びながら大きく口を開け、両手で持った饅頭のかけらにかぶりついた。

 顔中、肉汁でべたべたにしていたが、彼女は一向にかまわないようだった。


「あっ!」


 ミュミュの手から饅頭がすべり落ち、地面にぼたっと落ちた。


「落としたー!」ミュミュがぎゃあぎゃあ喚く。


「えー、なんだよ、しょうがねえなー。ほら、もうひとかけやるよ」


 カイルから、饅頭のかけらを受け取ると、喜んで食いつく。その様子は、さながら、人間のコドモのようであった。


 カイルとミュミュの他は、無言でダミアスの後に続いていた。


「ミュミュ、口の周りがべたべたよ」


 両手についた肉汁をぺろぺろなめながら飛んでいる彼女に、クレアが教えた。


 言われて、ミュミュは、きょろきょろ何かを探し始めたが……


 彼女は、カイルの後ろに回ると、彼のサラサラした金髪の裾で、顔を拭いたのだった。


(げっ!! なんてことを……! 悪気はないんだろうが、間違いなく、恩を仇で返している!)


 ケイン同様、クレアも、ぎょっとしてそれを見ていたが、何も言わなかった。


 何も知らないカイルは、ひとり楽しそうに饅頭を食べながら歩いている。ミュミュは、特に悪びれた様子もなく、彼の肩に止まっていた――。


「あそこが、『紅通り』の入口だ」


 ダミアスが指差す前方には、大きな赤い支柱が離れて二本立っていて、その少し手前から赤茶けた石でできた道が現れていた。辺りは、もうすぐ夕方になろうとしていた。


「わー、面白そう! 一足お先に行ってるよー!」

「あ、ミュミュ!」


 クレアが止めかけたが、ミュミュは、さっさと空間に消えてしまった。


「俺たちも、早く行こうぜー!」


 カイルが喜んで駆け出していく。


「完璧、目的を忘れてるな、あいつら……」


 ケインとクレアは、やれやれと、後を追った。


 門をくぐると、大通りの両脇に、ずらっと露店が並んでいる。聞いていた通り、占いやマジックアイテムの店ばかりだった。


 そこに、たかっている人々の中に、カイルの姿があった。

 彼は、『まじない棒』という、ただの木で出来た短いスティックにしか見えないものを、買おうとしていた。


「ちょっと、カイル! 何してるのよ!」


 クレアに続き、ケインたちも人混みをすり抜け、彼のところへ辿り着いたところだ。


「いやあ、このおじさんの話だとな、これを毎日立て掛けて拝んでいれば、いずれ魔力が宿り、魔法の杖になるっていう有り難い棒なんだってさ。ついでに、俺にも魔力が備わるらしい。そうなりゃ、俺だっていろんな魔法が使えて……!」


「そんなわけないでしょう!」


 クレアは、彼の言葉を打ち切った。


「そんなことで魔力がつくものなら、みんなやってます! 厳しい修行によってでしか、魔力を増やすことなんて出来ないのよ!」


「まったくだぜ。だいたい、そんなウソくさい話に乗るなんて。しかも、杖を振り回して、お前は魔物と戦うのか? 魔法使いのじいさんじゃあるまいし、傭兵のお前がそんなことしてるのは、どう考えても、絶対おかしいって、普通、気付かないか?」


 ほとほと呆れ果てて、ケインが腰に手を当てて言っている側では、


「そこのあなた!」


 クレアが、キッと露店の中年男を、にらみ据えていた。


「この道具は、あなたが作ったものなのですか? 見たところ、魔道士には見えないけれど」


 『魔道一番!』と左右に書かれた赤い法被(はっぴ)を着た、誰がどう見ても町民にしか見えない男は、もぞもぞしだした。


「そ、それは……ある魔道士の方が作られたものでありまして……その方がお作りになるものを、私はただ売っているだけであります」


 クレアは、カイルから棒を奪って、じろじろ眺めた。


「その方って、ちゃんと正規の魔道士協会に籍を置いている方なんでしょうね? このお店の看板にも、このまじない棒にもどこにも、魔道士協会の印は見当たりませんけど……?」


「そ、それは……」


 クレアに問いつめられて、法被(はっぴ)の男は、尻込みした。

 クレアがますます男に詰め寄り、人差し指を突きつけた。


「もし、魔道士協会に認可されていないものだとしたら、知らなかったとしても、あなたのやっていることは犯罪です! 今すぐ悔い改め、自主なさい!」


「ひぃーっ!」


 彼女の迫力から逃げ切れなくなった男は、悲鳴を上げた。


「ちょっと、クレア、あたしたちは魔道士協会の回し者でも何でもないのよ。さ、そんなのほっといて行きましょう。……てことで、おじさん、これ返すわよ」


 マリスがクレアからまじない棒をもぎ取り、男に放った。


 とんだ道草を食ったとばかりに、一行は、再び大通りを歩く。


「そこのお嬢さん、占いはどうかね?」

「お兄さんたちも、安くしとくよ」


 これ見よがしに、頭に大きな赤い三角帽を被った老人、黒いフードを被っただけの男など、見るからにニセモノのような易者たちが、声をかけてくる。


「もし、そこのお方、女難の相が出ておるぞ」


 『人相学』と書かれた旗をはためかせている露店の老人が、ケインに呼びかけた。


 余計なお世話だと、ケインは思った。


「へー、じゃあ、俺は?」


 カイルが面白そうに、じいさんに尋ねる。


「オマエ、また!」

「だってさー、人相学ってことは、学問だろ? 魔道士協会とは関係ねーし」

「アホか! そーじゃないだろー!?」


 クレアが、ちらっと振り返ったが、呆れた顔をすると、放っておいた。

 老人は、カイルの顔を、大きな拡大鏡で覗き込んだ。


「おぬしには、金欠の相が出ておる」


 カイルは、目を見開いた。


「実は、そーなんだよ! 食う寝ることと女には困ってないんだけどさ、カネばっかりはなー。じいさん、よくわかってるじゃないか!」


 彼は、ケインを振り返った。


「な? ケイン、当たっただろ? お前は女難の相なんだって? 大変だなー。あー、良かった、俺はただの金欠で!」


「はあ……、それは、よかったな」


 ケインは、どっと肩に疲れを感じた。


「お二人合わせて、二〇リブ金貨になります」


「えっ? 二〇リブ? 二リブの間違いじゃないの? しかも、俺なんか、頼みもしないのに、そっちが勝手に占っておきながら、金を取るってのか?」


 老人は、断固として譲る気はないようで、いくらケインが交渉してみても聞く耳を持たなかった。


「どうしたら女難が追い払えるとか、そういうアドバイスさえなしに、二〇リブは高過ぎるだろ?」


「アドバイスが欲しければ、四〇リブを先払いじゃ」

「なんだって!?」


 カイルが、ケインの肩をぽんと叩く。


「とにかく、もう占ってもらっちゃった分は、仕方ないよなー。……てことで、ケイン、俺の分もよろしく頼むわ」


「なんだとー! お前、陛下からもらった賞金はどうしたんだ? もう使っちゃったのか?」


「そんなの宿舎に置いてきちまったよ。ここまでダミアスが運んでくれるってことだったから、旅費もいらねーだろーし、なんかあってもみんながいるし、って思ったからさー、あんまり持って来なかったんだよ」


 ケインは、あんぐり口を開けて、その場に立ち尽くしていた。


「それなのに、饅頭買ったり、無駄遣いを……?」


「わりい、わりい、いやあ、まさしく金欠の相だなー。はっはっはっ」


「人相のせいにするな! そんなこと認めたら、俺の女難の相ってのもホントになっちゃうじゃないか! ……まあ、一理あるかも知れないが……」


 アドバイスは当然断ったが、結局、ケインは二〇リブを払わされた。


 しばらく、占い屋が、軒並み揃えていた。

 先頭を歩くマリスとダミアスが通り過ぎ、ケイン、カイル、クレアが通りかかったところで、声がかかった。


「よっ、そこの兄ちゃん、運勢占いはどうだねっ? 一人分の料金で相性占いもでき

るよっ!」


 叩き売りのように、扇子でバシバシ台を叩いている、威勢のいい中年男がいた。


(これは、絶対ないだろー!?)


 と、ケインが目を丸くしているにもかかわらず、カイルが目を輝かせた。


「へー、おっちゃん、じゃあ、俺とこの娘の相性って、どんななのかなー?」


 といって、クレアの肩を引き寄せる。


「お前、まだやるか!」

「そうよ、放してよ、カイル。私、そんな占いなんて……!」

「まあまあ、いいじゃないか。こんなのただの遊びなんだからさ」


 カイルは、ケインを無視してクレアに笑いかけるが、彼女にしてみれば、例えウソでも、彼と相性が良いなんて出ようものなら、そんな不名誉なことはないと、言いたげな顔であった。


 さっそく男は、いかにもガラス玉のような、仰々しい大きさの水晶球に向かって、ぶつぶつ唱え始めた。


「見えてきたぞ! ……ああ、悪いが、君たちは、もうすぐ破局するらしい」


 占いにしては、ひどいことを平然と告げるものである。


「えーっ! そ、そんなー……!」


 カイルだけが、悲鳴を上げてから、がっくりと肩を落とした。


「あの……、もうすぐもなにも、私たち、最初から付き合ってなどいませんけど」


 クレアが、憮然と呟く。


「ちなみに、このねーちゃんと一番相性がいいのは……」


 クレアのいうことなど聞いてもいないのか、うなだれて背中を向けているカイルには構わず、中年男の人差し指は、ケインの前でピタッと止まった。


 ――かに見えて動き出し、少し離れたところで、腕組みをして待っている、白い甲冑姿のマリスの前で、完全に止まった。


「あの兄ちゃんや!」

「ええっ!?」


 カイルが叫ぶが、ケインとクレアは、しーんと静まり返っていた。


「……さ、行くか……」


 ケインは、料金を払うと、カイルの首根っこを掴んで、歩き始めた。


「なあ、さっきの聞いたか? クレアとマリスが一番相性がいいなんて、ウソに決まってるよな? な? な?」


 カイルは、情けない声を出した。

 いちいち答えるのもバカらしく思ったケインであったが、彼があんまり元気がないので、仕方なく言った。


「だから、アテになんないって、みんな言ってただろ? あんなニセ易者の言うことなんか、いちいち耳を貸すなよ。金払うだけ損だぞ」


 だが、お代を出してきたのは実際ケインなので、彼はちっとも痛い思いなどしていないのだった。


(俺には、男難の相も出てるんじゃないのか?)


 ちらっと、思わずにはいられなかった。


「そうかあ、クレアはマリスと……」


 カイルは、まだぶつぶつ言っている。


「だ・か・ら、人の話を聞けって!」


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